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くノ一その一今のうち  作者: 大橋むつお
30/96

30『潜入・3・鏡』

くノ一その一今のうち


30『潜入・3・鏡』 





 一分近くたっただろう、屋根裏の闇に慣れてきて、柱や梁の木目まで分かるようになってきた。


 南北の破風に風通しの桟があって、そこからホンノリと外の光が入って来る。


 月夜でもなかったので、篝火や常夜灯の類の照り返しだろう。二つ三つの壁や屋根に反射したあとの、ごく弱い光だから、常人では暗視スコープでも無ければ見えないだろう。


 あ…………鏡だ。


 駆け出しの忍者なら、そこに人が居たと思うだろう。


 薄明かりの中に、自分と同じく蹲踞の姿勢で気配を消している人影が見えたのだ。


 駆け出しなら、狼狽えて呼吸を乱す。甚だしい場合は、物音をたててしまって気取られてしまうだろう。


 いちど崩れてしまうと、忍者も人の子、簡単に追い詰められて虫けらのように殺されてしまう。


 そういう忍者対策の簡単な道具が鏡なのだ。古い鏡台などの鏡を置いておくだけでいい。


 念のために周囲を見渡すと、斜め後ろにも鏡。斜め後姿のわたしのお尻が映っている。


―― 闇の中なら、わたしも少しは可愛いか ――


 女子の可愛さ、美しさは、造作の問題だけではない。第一にフォルムだ、普通に言えばプロポーション。


 その点、わたしは悪くない。まあやの代役が務まっているいるんだからな、悪いはずはない。


 中三の夏、電車で痴漢に遭った。尻をもむ手が前にまわってきたので、勢いよく顔を向けてやった。


 至近距離で顔を向けられ、痴漢は「ヒッ!」と、猿のような悲鳴をあげてのけぞって、後ろの手すりに思い切り頭をぶつけて悶絶した。


 目いっぱい白目をむいて、口には吸血鬼の八重歯のブス顔、それも死後三時間ぐらいの真っ青だったからゾンビに見えたかもしれない。


「そりゃあ、大人しく被害者になっときゃ、慰謝料が取れたのに」


 お祖母ちゃんは残念がって、アハハと笑ってごまかしたけど、被害者を演ずるんだったら、もう少し可愛い子でなくっちゃと尻込みする自分が居たのかもしれない。


 まあやに出会った後なら、多分被害者を演じていたと思う。


 フフフ フフフフ




 え?




 鏡の中のわたしが笑った。


 しまった!


 思った時には、左右を二人のわたしに挟まれた!


「ソノッチの妄想はすごいなあ」


 わたしに化けた社長が好色そうな目をして言う。


「こんな顔だったのかなあ」


「も、もう!」


 嫁持ちさんは、白目むいて吸血鬼の八重歯付けてるし。


「てっきり鏡だと思ってましたよ(`_´)」


 鏡だと思ってしまったのは、呼吸や気配までわたしに化けていたからだ。一本やられてしまった。


「じゃあ、かかるぞ。王子がパニクルようなら、当身を食らわせ静かにさせたところで運び出す」


「社長、これを使いましょう」


 嫁持ちさんが懐から出したのはお線香だ。


「それなら、儂も持ってる。寺だから、あちこちに線香があるからな」


 なるほど、これでニオイからも誤魔化されたわけか。


「じゃあ、屋根伝いに忍び込みますか?」


「西側の破風から行け」


「社長は?」


「表の見張りを対策してから入る」


「表から、堂々とですか?」


「ああ、バッチリだ」


 

 パパン パン パパン



 銃声!? 




 方角は、この寺院の食堂じきどうの方角だ。


 これが開始の合図なのは、社長の目の色で分かる。




 わたし達は次の行動に移った。





☆彡 主な登場人物


風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち

風間 その子       風間そのの祖母(下忍)

百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち

鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫

忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん

徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔

服部課長代理       服部半三(中忍)

十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者


 

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