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くノ一その一今のうち  作者: 大橋むつお
14/96

14『忍冬十五代目』

くノ一その一今のうち


14『忍冬十五代目』 





 う~~~~ん



『吠えよ剣!』の仕事から帰って来ると、金持ちさんが唸っている。


 チラ見すると、パソコンの画面がチラついたかと思うとツアー旅行のあれこれが出ている。


「あ、見られちゃった(^_^;)?」


「旅行でもいくんですか?」


「あ、まあね、三十路の独身女、たまの旅行くらいしか楽しみないからね」


「わたしも、はやく就職して、そういうの悩んでみたいです」


「アハハハ」




 それで、仕事の報告をしようと社長室にいくと、また回覧板を頼まれた。




「すまんな、金持ちから『仕事してくれ』って、外出禁止なんだ」


 見ると、机の上には書類や手紙がいっぱい。


 まあ、社長が忙しくって経理がツアー旅行の情報をググっているのは、会社が順調で平和な証拠。


「了解!」


 元気よく返事して忍冬堂へ。




「順調なもんかい……」


 回覧板に目を落としながら忍冬堂は不穏なことを言う。


「なんかあるんですか?」


「チラ見したら、パソコンの画面がチラついたんだろ?」


「はい、で、ツアー旅行のアレコレがダダ―って出ていて」


「そりゃ、瞬間で画面を切り替えたのさ」


「え、そうなんですか!?」


 ズズズズ


 渋茶をすすると、しみじみとした口調で忍冬堂が続ける。


「おまいさんが近づいてきたのにも気づかないくらい、金持ちは仕事に集中していたのさ」


「そうなんですか!?」


「社長は、仕事をためて外出禁止なんだろ」


「はい、だから、あたしが回覧板……」


「左前なんだろなあ……」


「左前って……経営が苦しいってことですか?」


「ちょっと前に、鈴木まあやのスタントやっただろ」


「あ、うん、はい」


 あれから、まあやの専属みたいになって、あたし的にはけっこう忙しい。


「スタントてえのは畑が違う。その後も、おまいさんが専属みたいにやってるから、他の仕事を干されてるんだ」


「え、事務所がですか!?」


「事務所のだれかが言ってなかったかい?」


「あ……」


 こういうのって、縄張りがあってね……


 そうだ、最初に話があった時、金持ちさんが言ってた。


 でも、その後も、あたし的には仕事が続いているんで気にもしていなかった。


「まあやは特別だからな、まあやが気に入ってしまった以上、おまいさんを外すわけにはいかねえ……で、おまいさん以外の仕事で意趣返しってわけさね」


「え、そんな……(;'∀')」


「おっと、おまいさんが苦に病むことじゃねえ。風魔そのは立派にやったんだからな……おーい、婆さん!」


「はい、ちょうど用意もできたとこですよ」


「あれ?」


 忍冬堂のおばちゃんは、リクルートみたいなカッチリしたスーツで現れた。


「さすがは、忍冬の嫁だ。ちーっと早いが、御大にナシをつけてきてくれ」


「承知」


 小さく応えると、おばちゃんは外に出て、ちょうどやってきたタクシーに乗って出かけて行った。


「おばちゃん、どこへ……」


 振り返ると、忍冬堂は固定電話の受話器を取って話している。


「おう、というわけだから、百地、おまいも腹くくりな。おうよ、伊達に忍冬十五代目を張っちゃいねえぜ……いつかは動かさなきゃならねえ山なんだからよ」


 え、なに?


 胸のあたりが、ポッと暖かくなる。


 なに感動してんだろう……と、思ったら、胸ポケットにいれていた風魔の魔石が熱くなっていた。




☆彡 主な登場人物


風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち

風間 その子       風間そのの祖母

百地三太夫        百地芸能事務所社長 社員=力持ち・嫁もち・お金持ち

鈴木 まあや       アイドル女優

忍冬堂          百地と関係の深い古本屋

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