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くノ一その一今のうち  作者: 大橋むつお
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12『鈴木まあやと回覧板』

くノ一その一今のうち


12『鈴木まあやと回覧板』 





 今日は時代劇のエキストラ。



『吠えよ剣』というアクション系時代劇。幕末、尊王攘夷で煮え立っていたころの若者たちの青春群像的なドラマ……というのは、嫁もちさんの話。


 歴史に疎いあたしは、説明聞いてもよく分からないんだけど、幕末ものなら、きっと切ったはったがあるはずだから、覚えたばかりの太刀廻りのスキルが活かせる……緊張しながらも、ちょっと嬉しい。


 事務所のバンで撮影所のゲートをくぐると、見覚えのあるSUVが停まっている。


 鈴木まあや……分かったけども口にはしない。通行人のバイトの子が三人乗ってるから、先達としてミーハーなことは言えない。


「え、そうなんですか!?」


 着いてビックリ玉手箱。


 主役の男優さんが腰を痛めて太刀廻りができなくなったので、それ以外のシーンだけ撮ることになった。




 千葉道場の娘が街中を歩くシーンを二つ、道場のシーン二つを撮ることになった。


 町娘の通行人の役……と、思ったら、道場に通う若侍1というのが回ってきた。


「そのっちは、お侍の方が向いてるよ」


 力もちさんの申し入れらしい。


 たぶん、着物の歩き方とか挙措動作が身についていないから。道場通いの若侍の方が、ヤットーをやってる分サマになるんだ。


 じっさい、道場のシーンでは、娘役の鈴木まあやが千葉周作と道場で喋るシーンのバックで、剣道の稽古をしているところと坂本龍馬の入門シーンとかを撮った。




「こないだは、どうもありがとう」




 撮影が終わると、鈴木まあやが、セットの裏で休憩してるあたしのところにやってきた。


「え、あ、分かるんですか? てか、憶えていてくれたんですか?」


 鈴木まあやにしてみれば、あんな撮影とかトラブルは日常茶飯で、たった五秒ほどのスタントやったエキストラなんて覚えてるはずないと思ってた。


「フフ、あなたのオーラは独特だもの」


「え、あ、そうなんですか?」


 エキストラって言うのは大道具といっしょだから、オーラなんか発しちゃいけない。


「あ、ちがくて。こないだは階段落ちで、今度は太刀合いでしょ、その時の迫って来る殺気……っていうか……職業意識ってか。わたしって、人覚えるの得意だし。とにかく、いい絵が撮れたし、またご一緒できるといいわね」


「はい、よろしくお願いします!」


 めっちゃ嬉しかった。


 でもって、撮影は、そこでおしまい。




 予定の半分の時間で済んだ……早く帰れるかと思ったら、事務所に帰って用事を頼まれる。


 同じギャラを払うんなら、ギャラの分は働かせようという社長……いや、金持ちさんの魂胆。


 倉庫の整理をやったあと、回覧板を回してくるように頼まれた。


「神田の商業地域でも回覧板なんてあるんですねえ」


「たいてい社長が持っていくんだけどね、社長に行かせると、行った先で根が生えちゃうから」


 金持ちさんが――困ったもんです――という顔で回覧板のボードを渡してくれる。




 忍冬堂……忍者プロダクションの隣にはうってつけの名前……と思ったら『すいかずら堂』と読むらしい。




「あ、おまいさんが、こんど来たって百地んとこの新人さんだね」


 店の奥に声を掛けようとしたら、後ろから声がかかったのでビックリした。


 そのいちとして目覚めてからは、特にブロックしない限り、たいていの人の気配は感じてしまう。


「ここいらの古本屋の半分は百地の係累だからね」


「え、そうなんですか!?」


「うん、忍者ってのは、派手に忍術使ったりじゃなくて、地味に情報集めるのが九割だからね。古本屋ってのは、都合が良かったんだよ。ま、いまは、名実ともに古本屋だけどね。おまいさん、来た日に、あちこちの古本屋から本が飛んできてびっくりしたろう?」


「あ、はい……って、おじさんたちの仕業だったんですか!?」


「まあ、あそこまでのことはめったにやらないんだけどね、風魔の娘とあっちゃ、仕掛けなきゃ面白くねえ」


「あ、ははは……そうなんですか(^_^;)」


「おまいさん、なにか突き刺さった本は無かったかい?」


 え……!?


「あったって顔だね……太平記……信長公記……真田武芸帳……いや、太閤記……だな」


「…………」


 反射的に身構えてしまう。


「おっと、ヤットーは苦手なんだ、勘弁しとくれ」


「どういうことなんですか?」


「優れた忍者には、宿命的な回り合わせみたいなもんがあってね、それが、突き刺さった本で分かるんだ。あ、本物の本を投げてるわけじゃねえ。古本屋が気を飛ばすと本の形になっちまうんだ。その中に――試しの気――的なのがあってね、それで分かる……まあ、一種の占いだと思えばいいさ」


「そ、そうなんですか……あ、忘れるところだった! 回覧板です」


「おう、どうれ……ハハ、ほら、もう書いてある」


 おじさんがバインダーごと見せてくれた回覧板には――太閤記――と書いた紙が挟まれていた。



 なんで!? てか、なんなんだ!?




☆彡 主な登場人物


風間 その        高校三年生

風間 その子       風間そのの祖母

百地三太夫        百地芸能事務所社長 社員=力持ち・嫁もち・お金持ち

鈴木 まあや       アイドル女優

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