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桜の木の下で数人の若者が賑やかにお酒を飲んだり、つまみを食べたりしていた。


「宮園さん」


私の姿を見た武田くんは穏やかな笑みを浮かべた。


「えっと、こっちが私の友達で川辺マイ」


私は後ろにいたマイを武田くんに紹介した。


「川辺さんね。よろしく」


武田くんはそう言ってマイに手を差し出した。


「マイって呼んでください」


マイは顔を真っ赤にしながら武田くんの手を両手で握りしめた。


マイったら……


私は苦笑しながら武田くんを見た。武田くんは困った様子を見せることもなく微笑んだ。


「じゃあ、マイちゃん。よろしくね。僕の友達を紹介するよ」



武田くんはさりげなくマイの肩にさわり、桜の下で集まっている若者達を指差した。


「おい、武田。いつもみたいに女の子を一人占めするのはやめろよな」

「一人占めって、ここにも私のような美人がいるでしょ」


武田くんの友達がマイをみるとワイワイと話し始めた。マイはそういう集まりに慣れてるらしく、すぐに輪に溶け込んだ。


「宮園さん、もしかしてこういう集まりって嫌いだった?桜を見にいくって言ったら、友達も行きたいっていっちゃって‥。合コンみたいだけど違うからね」


武田くんは苦笑しながら私の肩を優しく触れた。


「まあ、いい奴ばかりだから。気楽にね」


武田くんの友達はおとなしい感じの人から派手な感じな人まで様々だった。小学校からのエスカレーター式の学校に通っていた私にとって珍しい人ばかりだった。

マイもそう思ったらしく、いつもより弾けていたように見えた。


武田くんの友達の一人できれいな女性がいた。その人は武田くんの彼女らしく、ずっと側にいてその瞳を武田くんに向けていた。そして時折マイや私に冷たい視線を向けた。


心配なんだろうなあ。


武田くんのような彼氏を持つとなんだかいつもハラハラしそうだ。私はそういうハラハラする恋愛は好きじゃない。

武田くんは素敵でずっと見つめていたいけど、付き合うならもっと普通の人がいいなあ。


「宮園さんって下の名前なんていうの?」


武田くんの友達の一人、確か池田ナツキくんだっけ?話しかけてきた。


「えっと、ユキコだけど」

「ユキコかあ。かわいいな。ユキコって呼んでもいい??俺のことはナツキって呼んでよ」


池田くん……ナツキくんはそう言って笑った。子供みたいな無邪気な笑顔が印象的だった。太陽みたいな元気な人だ。私はつられて微笑んだ。


「うん。いいよ。ナツキくん」


武田くんのおかげで私はナツキくんと付き合い始めた。

それを知った武田くんは合コンじゃなかったんだけどと苦笑してた。

マイは武田くんを気にいってしまったらしく、ナツキくん達が集まることを知るとついてきた。私は何度もあきらめたほうがいいっと言ってもマイは諦める様子を見せなかった。


「ユキコ……。ごめん。もうマイちゃんと呼ばないでくれない?」


ある日、ナツキくんは申し訳なさそうに言った。


「武田は誰にでも優しいから、すぐに女の子をその気にさせるんだ。俺はあいつのそういうことが嫌いなんだけど、付き合ってるトモミが可哀想になる」


ナツキくんはそう続けた。


「あ、でも勘違いしないでくれよな。トモミとは俺はなんでもない。ただ大学のことから知ってる仲間だからさ。武田はやめた方がいいって言ったんだけどてんてん…」


ナツキくんは苦笑した。


「うん、わかったわ。呼ばないっていうのは難しいけど、言わないようにする」


私がそう言うとナツキくんは思いついたような顔をした。


「そうだ、この機会にみんなで会うのはやめようぜ。俺もユキコが武田と会うとどきどきするし」

「え?」

「だって、あいつかっこいいじゃん。俺はあいつと比べると全然だから」


そんなことない!

私は思わずナツキくんを抱きしめた。


「ナツキくんはナツキくんのいいところがあるんだから。私はナツキくんが好きなの」


私がそう言うとナツキくんは嬉しそうに笑って私の背中に手を回した。


「嬉しい。本当に心配だったんだ。ユキコは会社もあいつと一緒だから」


ナツキくんの言葉を聞きながら、私はふいに不思議な感覚が覚えた。その感覚は時間とともに形になるようになっていった。


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