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9 決意

「よく来たわね」


 ドアベルを鳴らすと嬉しそうなマイが出てきた。

 久々に会うマイはすこし痩せているように見えた。


 マイは大学の時の友達で、武田くんとも色々あった子だった。数年前に出来ちゃった結婚してからは幸せそうな家庭を築いていた。最近、子供が幼稚園に行き始め、パートの仕事を始めると言っていた。子供がいるから頻繁ではなかったけど、お互いに時間が合えば会っていた。


「来てくれてよかったわ。明日から仕事始まるから今日会えなかったら、多分しばらく無理だった」


 そう言いながらマイは家の中に私を案内した。


「これ、モンブラン。マイ好きだったでしょ?」

「うわあ。覚えてくれたんだ。ありがとう」


 マイは満面の笑顔を浮かべるとケーキの入った箱を受け取った。


「お茶がいい?コーヒー?」

「あ、お茶、お願い」


 私はコタツに入りながらそう答えた。少し早い気がしたがコタツに入るとなんだか気持ちが温かくなった。


「早いと思ったんだけど。最近寒いから入れちゃった。旦那には変な顔されたけどね」


 マイは笑いながらそう言って、急須と湯呑をお盆に乗せて持ってきた。


「仕事やめたんだっけ?」

「うん、まあね。」

「しょうがないよね」


 マイには武田くんのことや色々あったことは話していた。


「だから、タカオには近づくなっていったのに」


 マイは苦笑を浮かべながら湯呑にお茶を注いだ。


「まあ。しょうがないけど。で、なんか嬉しそうだけど何かあったの?」


 その言葉に私はぎょっとしてマイを見た。


「大失恋に職を失って、すごい姿を想像していたけど。元気そうよね。新しい恋でも見つかったの?」


 私は何も言えなかった。

 そんな私を見てマイは笑った。


「恋はいっぱいしたほうがいいわよ。私は結婚しちゃったけど。もっと恋をしておけばよかったと思ってる。あ、ケーキ食べていい?」

「うん」

「あんたも食べるでしょ」


 そう言いながらマイはキッチンに立った。そして食器棚からお皿を出しているのが見える。


「今度こそ幸せになってほしいな。その人いい人?」

「うん。いい人。でも好きな人がいるの」


 私は自然とマイにそう答えていた。


「そうかあ。また失恋か!でもちゃんと告白して振られたほうがいいわよ。後悔先に立たずってやつだから。はい、ケーキ」


 目の前でマイがおいしそうにモンブランを頬張っていた。

 それを見ながら私は自分の気持ちを決めかねていた。


 その夜、お風呂からあがるとメールが入っているのがわかった。

 見ると松山さんからだった。


 『こんばんは。明日の夜空いてる?ご飯どう?松山』


 とメッセージが入っていた。

 私はしばらく考えたあと、携帯電話を掴み、ボタンを押し始めた。


 『メールありがとう。明日の夜は空いています。楽しみにしています。宮園ユキコ』


 そう返信を返した後、濡れた髪のままベッドに横になった。


 やっぱり好きになってしまった。

 でもこれも報われない。

 彼は今でも上野さんのことが好きなはずだから。


 でも今度こそ待たない。

 だめなのはわかってるけど、自分の気持ちを伝えよう。

 その後に何か見えてくるかもしれないから。



 その公園ではすでにクリスマスイルミネーションがされていた。


「もうそういう時期なのかあ」


 光り輝く木々を見て松山さんはそう言った。


「11月から始まるみたいです。きれいですよね」


 私は松山さんの隣に立った。

 夕食を済ませた後、少し歩こうと近くの公園に来た。カップルが多いかと思えばそうでもないことにほっとした。

 言わないと、気持ちが焦るけどなかなか言えなかった。


「こういうところって来たことがなかったんだよな。カナエが好きじゃなかったし」


 松山さんはぽつりとそう言った。そしてはっと気付いたように私を見た。


「ごめん。会うたびになんだか……」

「ううん、大丈夫。わかってるから」


 私は首を横に振った。

 彼の気持ちはわかってる。

 忘れられない人。

 わかってる。

 心臓がきゅっと掴まれる気がしたけど、私は深呼吸をした。

 言わないと……


「松山さん!」


 そう呼んだ自分の声が大きくて自分で驚いた。

 松山さんは苦笑して私を見た。

 黒い瞳の中に自分の姿が見えた。


「あの…私。松山さんが好きです」


 私の言葉に彼が驚くのがわかった。そして彼の眉が辛そうに寄せられるのを見た。

 わかっていた。

 私の告白が彼に辛い思いをさせるのも。

 でも言わずにはいられなかった。


「ごめん。俺……」

「わかっています。知っています。あなたがまだ上野さんのことを忘れられないのを。でもごめんなさい」


 彼が私を見るのがわかった。でも私は視線を上げられなかった。

 結果はわかっていたけど、つらかった。

 泣いてしまいそうだった。

 でも泣くと松山さんに迷惑をかける。

 それだけは嫌だった。

 これ以上の痛みを彼に与えたくなかった。


「大丈夫です。私は伝えられただけで十分です」


 私は必死に顔を上げると笑顔を作った。涙をこらえた。お腹がきゅっと痛くなった。


「松山さん。今日は私タクシーで帰ります。ありがとうございました」


 私は松山さんに頭を下げると逃げるように背を向けた。

 早くこの場を立ち去りたかった。

 じゃないと泣いてしまいそうだった。


 タクシーを路上で拾うと私は携帯電話をとりだした。

 そして松山さんの電話番号を消した。



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