表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/24

2

「付き合ってくれないか」


 数年後のあの日の夕方俺は決意をして彼女にそう聞いた。

 彼女はオレンジ色に染まった空を見上げた。そして俺を見つめた。


「いいよ……」

「本当か!」


 俺は嬉しくなって彼女を抱きしめた。彼女の体がこわばったのがわかった。


 彼女の美しい黒髪を撫でる。

 ベッドで横になっている彼女は時たま、眉をひそめる。

 彼女が夜なかなか眠れない性質だということに気づいたのは

 ベッドを共にするようになってからだった。


 俺は彼女を安心させようとその体を抱きしめた。彼女の腕が俺の腕を掴む。それは痛いくらいだった。


「武田…」


 彼女の口から漏れたその名前に俺は息がとまるかと思った。寝言らしく、彼女は俺を掴む腕の力を弱めると体を丸めるようにした。寝顔はとても苦しそうだった。


「なあ、松山。昨日の夜、私なにか変なこと言わなかった?」


 彼女はスプーンでミルクに浮かぶコーンフレークをすくいながらそう言った。俺はいつものお気に入りの日本食の朝食メニューの納豆に卵をいれた。


「いや。別に」


 俺は精一杯笑顔を作ってそう言った。

 お互いに実家通いなので周一はこうやってホテルに泊まっていて、そこの朝食を一緒に食べるのが習慣になっていた。


「松山?納豆混ぜすぎじゃないか?」


 そう彼女に言われて見ると卵が泡だって、手元の小碗の中の納豆が泡だらけになっていた。


「これがうまいんだよ」


 俺はそう言いながら納豆をご飯にかける。


「そう言えば今日は辞令が出る日か」

「うん、東京に行くことになるけど。平気か?」


 彼女は俺を気遣うように見た。付き合うようになって彼女はそういう表情を見せるようになった。俺はその顔を見るのがたまらなく好きだった。


「大丈夫。俺の会社は東京出張多いから。遊びにいくよ」


 俺は笑顔でそう答えた。



 会社に彼女を迎えにいった。今日は車でこっちに来てたから、そのまま彼女を乗せて家に帰るつもりだった。

 俺は視線を感じた。刺すような視線だった。

 彼女は俺を見ていて、気づいてないようだった。

 俺は視線の主を探るため、顔を上げた。

 武田……。

 武田タカオがこちらを見ていた。武田は俺たちの姿を確認すると再び建物の置くに入っていった。


 なんで武田が??


「どうしたんだ?松山」

「なんでもない」


 彼女は動揺する俺を心配げに見上げた。


「武田をみたけど?」


 迷ったが俺はその夜、彼女に直接聞いた。彼女は一瞬動きを止めた後、視線を俺からはずした。


「うちの会社吸収合併されただろう。親会社が武田が勤めてる会社だったんだ。私も初めて見たときは驚いた」


 彼女は淡々とそう答えた。


「松山?」


 俺は急に不安になり、彼女を抱きしめた。


 時間がたつに連れて俺の不安は大きくなり、彼女の様子もおかしくなった。沈んでることが多くなった。でも彼女の行動は変わらず、彼女が会社外で武田と会ってる様子はなかった。


 あの視線、刺すような視線。

 10年たっても変わっていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ