思い出の曲
「あれ、中にまだCD入ってる」
年末、大掃除の手伝いも兼ねて、ユキコは夫シンスケの実家に来ていた。
倉庫からCDラジカセを持ち出してきた彼女の娘は、銀盤を取り出し、傷がないから確認している。CDなんて買うことがなくなってきた昨今、娘も好きな曲はCDではなくダウンロードで済ませている。
「まだ使えるのかな」
娘はラジカセを布で吹き、わざわざ居間に持ってきた。
「おい、遊んでる場合じゃないぞ」
「お父さん、ちょっとだけ。これ、お父さんの好きだった曲?ポメラ?」
ポメラ。
その言葉を聞いて、ユキコもシンスケも動きを止める。
けれども娘はそんな両親の様子に気がつくことなく、CDラジカセのプラグをコンセントに差し込んだ。
「なんか優しい声だね」
ラジカセから聞こえてくる懐かしいメロディ。
男性ボーカリストの声はとても優しく、耳に心地いい。
ユキコは思わず、夫シンスケを振り返る。彼は真っ直ぐに彼女を見つめ返し、口元を少しだけ歪めた。
苦い思いが込み上げてくる。
二人の終わった恋。
とても苦くて、苦しい恋だった。
「お母さん?」
「マコ。少しお母さんとお父さんを二人っきりにさせてくれないか?」
ユキコは気がついたら泣いていて、側にはいつの間にかシンスケが佇んでいた。
「う、ん。わかった」
両親の、母のことが気になったが父の言葉に従い、彼女は祖父母のいる部屋へ行く。
「ユキコ。あれは昔の恋だ。俺にとってもお前にとってもそうだろう?」
娘が部屋からいなくなり、シンスケは遠慮なく妻を抱き締める。
「ええ。ただ懐かしくて」
「そうだな」
ほろほろと泣くユキコの頭を撫でながら、シンスケは頷いた。