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狩人と銀色の花嫁  作者: 榊原シオン
第1章
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第7話 『奴』の存在

 その夜、晩御飯を食べながら、アルスは今日あった出来事をマーレに言って聞かす。


 それはまるで、自分の武勇伝の如く。


「それでね、お母さん。お父さんがね、お父さんがね……」


 やはり話題の中心は帰る間際の、正体不明な相手の事であった。


 アルスはかなり興奮していて、言いたいことを言っているだけなので、時系列がメチャクチャだ。


 無理もない。結局、戦闘には発展しなかったものの、初めて狩りの現場を目撃したのだから……。


 マーレは後で夫に詳しい話を聞くことに決め、今は息子の話に耳を傾ける事にした。






 ひとしきり話をした後、アルスはうつらうつらと船をこぎ始める。


 お腹が満腹感で満たされ、昼間の緊張感も相まって眠気が襲ってきたのだろう。


 ゼストは眠ってしまったアルスを抱え、寝室のベッドに寝かす為、席を立つ。


 マーレも食器の片付けをする為、洗い場に移動する事にした。


 洗い物が終わった後、お湯を沸かし、二人分のお茶を用意する。


 今夜の話は長くなる可能性もある為、鉄瓶にはたんまりとお湯が残っていた。






 マーレはアルスの寝かし付けが終わり、先に戻ってきていたゼストに語り掛ける。


「それで、あなた。今日は一体、何があったんですか?」


「今日はアルスを伴って、初めて森に入ったから、色々と注意事項を説明していたんだ……」


「その時、『(やつ)』が現れた」


「何なんですか? その『奴』って……」


「分からない……。分からないんだ。」


「結局、『奴』は姿を現さなかった。ただ、ヤバい空気感だけが辺りに充満していた。ねっとりと……。俺は今まであそこまでヤバ気な奴に会った事がない」


 ゼストは先ほどの光景を思い出してしまい、今更ながらテーブルの上で組んでいる手が震えだす。


 『奴』の正体を確認出来なかった事で、逆に恐怖が倍増しているようだった。


 マーレは震えているゼストの手に、そっ……と、自分の手を重ねる。


 その行為は、夫にするというより、息子にするかの如く、(いつく)しみに(あふ)れていた。


 そのまま暫く夫の気持ちが落ち着くのを待つ。







「マーレ、ありがとう。もう大丈夫だ」


 そう言って、ゼストはお茶を飲み、更に気持ちを落ち着かせようとする。


「次からアルスを伴って森へ行くときは、マーレ。君も付いて来てくれないか? 『奴』に遭遇した時、俺一人ではアルスを守り切れる自信がない。正直、アルスが居なかったとして、一対一でもかくやって感じではあるが、最悪俺一人なら何とかなるとは思う」


「それは、もちろんです。あなたに言われる前からそうしようと、私も考えていました。ただ、実際どう対処していくかが問題ですよね」


「『奴』は、とても慎重で知性もそれなりに持っている可能性がある。足跡を確認したんだが、二足歩行で思い当たる動物も居なかったから、もしかしたら……」


 ここで、ゼストはお茶を飲み。


「魔物の類の可能性もある」


「魔物ですかっ!?」


「ああ、あくまで可能性の話だがな。ただ、頭の隅にでも入れておいて欲しい。魔物相手となれば守備と回復に特化した君の魔法を当てにさせて貰いたい」


「分かりました。それにしても魔物ですか……。この辺一帯では見かけた事はありませんでしたが……」


 マーレは夫の言う事を信じていないというよりも、魔物だとしたらどこからやってきたのかを気にしているようだった。


「問題は麓の村に、この事を知らせるかどうかなんだが……」


「明後日、村に買い出しに行きますよね。その時に村長さんに相談してみませんか?」


「そうだな。そうしようか。そういえば、マーレ。アルスなんだが……」


 ゼストは思い出したかのように話題を変える。


「アルス? アルスがどうかしましたか?」


 ゼストは今日一緒に居て、気になった事を口にする。


「アルスは人より感覚が鋭いのか? 実は今回、『奴』の存在に気付いたのは俺ではなく、アルスだったんだ。初めての狩りにも関わらず……だ」


「それはもしかしたら、アルスの魔法適性が影響してるのかもしれません。まだ、昨日の水晶玉で出た銀色(シルバー)の意味は分かってませんが……。実は一昨日、あなたが帰宅した際、声を掛けてくれる前に、アルスはあなたの帰宅に気付いていたようなんです」


 アルスはもしかしたら、特別な何かを持っているのかもしれない。


 そう思う二人だった。

明日も朝6時アップです。

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