第21話 長い、とても長い一日の始まり
翌日。
「おはようございます。ゼストさん、早いですな。昨夜はだいぶ吞んでらしたから、もう少し寝てるのかと思ってたんじゃが」
グロックは昨夜の酒の席の事を思い出しながら、苦笑して話す。
「実は俺もそうしてたかったんですが、マーレに無理やり起こされちゃいましたよ」
「そういえば、そのマーレさんはどうなさったんですかな? 姿が見えないようですが?」
「マーレは、俺の次にアルスを起こしに行ったみたいです。そろそろ戻ってくると思うんですけどね」
二人がそんな会話をしていると、まるでタイミングを計っていたかのようにマーレの声が家中に響き渡る。
『ちょっと、ベティスちゃん!!!』
「ん? ベティスちゃん? マーレはベティスちゃんまで起こしに行ったのか」
と、ゼストとグロックはマーレの行動力に笑いあっているが、実際は全然違ったりする……。
「お母さん、おはよう……。何、どうしたの? 朝から大きな声出して……」
アルスはマーレの声で起きるがまだ眠たげである。何とか目を開けてマーレの姿を確認するが、その視線はアルスに向いていない。どちらかというと、自分の隣をみてるような……。と、アルスもマーレの視線に釣られて自分の隣に視線を移してみると……
そこには幸せそうな顔をして、丸まって寝ているベティスの姿が……。
「!!!!」
アルスの脳は一気に覚醒する!
(え!? なんで? どうして! 僕、昨夜寝た時一人だったはずなのに……)
実際はトイレに行くため起きたベティスが興味本位でアルスの寝顔を見にきたら、ついついそのまま一緒に寝てしまったという事なのだが、寝ていたアルスが知る由もない。
「……アルス様、おはようございます……。もう朝ですか?」
目を擦りながら、問題の人物の起床である。
(アルス様? 昨日はアルスを呼び捨てにしてたはず。やっぱり、昨日わたし達が家に先に帰ってから何かあったのね!)
マーレはベティスがアルスへの呼び方が変わってる事を敏感に察知する。
「ベティスちゃん、ちゃんと自分の部屋で寝ないと駄目でしょう!」
ベティスはまだ眠いのか、周りを見渡し状況を確認する。すぐに自分が起こした行動の理由を思い出したようだ。
「おば様、おはようございます。どうしてです? わたくし、アルス様と一緒に眠りたかっただけなんですけど、それはいけない事なんですか? わたくしにはいけない事のようには思えません!」
ベティスはここで謝ってしまうと、今夜もアルスと一緒に眠れなくなると気付き、反論する。そう考えてる時点で今夜も忍び込む気満々である。
「ベティ、お母さんの言う通り、自分の部屋で寝ないと駄目だよ! じゃないと、起きた時に僕もビックリしちゃうから」
問題はそこではないのだが、とんちんかんな事を言ってのけるアルス。
「アルス様。アルス様はわたくしと一緒に寝るのはお嫌ですか?」
「え? 別に嫌って事はないけど……」
ベティスに上目遣いで見つめられ、ついつい絆されてしまうアルス。ベティスはベティスで、こう発言すればアルスは否定しないと、確信を持って発言してたりする。
「なら、今夜も一緒に寝てくれますか?」
「うん。別に良いけど……」
「別に良いけど……じゃな~い! ダメに決まってるでしょう!」
アルスが予想に反して否定しなかった為、マーレが間に入って否定する。
「おば様、だからどうしてダメなんです! ちゃんと理由を説明して貰わないと納得出来ません!」
「え~と……、それは、だから……ねえ? 分かるでしょ?」
マーレはベティスの善意に訴えかける。当然、ベティスがそんな事で納得するはずもなく、返り討ちにあってしまうのだが……。
今の会話のやりとりの真意を理解してないのは、この場ではアルスのみであった……。




