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狩人と銀色の花嫁  作者: 榊原シオン
第1章

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第13話 成長

 午前中、いつも通り森へ行った後、午後の魔法訓練の時間である。


 アルスは精霊師への一歩をまだ踏み出せていない状況であった。自分でも何とかしたいと思っているのだが、何日やっても全然上手く行かない……。


 そんな日々が続くものだから、アルスは先日ハミルの下で行った適性検査の結果が間違っているのではないか? 自分にはやはり才能なんて全く無いのではないかとさえ思うようになっていた。


 思い込みが確信に変わってしまっていることで、ネガティブ思考から抜け出せない。どんどん悪循環の様相を呈してしまっている。


 そんな日の事である。今日のマーレは何か思うところがあるようで、始める前から上機嫌なような……。


「お母さん、何か良い事あったの? 何かいつもより嬉しそうな気がするんだけど……」


「そう? やっぱり? やっぱり分かっちゃう? 実はねぇ…… ん~、やっぱり内緒」


 と、年甲斐もなく可愛くウインクしてみせる。成人した男どもならこれだけでイチコロな破壊力を持っていた。ただ、生まれた時から母の顔を見ているアルスとしては、『お母さん可愛いなぁ~』程度である。とはいえ、息子にそう思って貰えただけでも成功であろう。


 マーレの機嫌が良いのは、昨日ハミルにアドバイスを受け、やる気が漲っているからに他ならないのだが、その事を知らないアルスとしては、話をはぐらかされただけチンプンカンプンである。


「じゃあ、今日も深呼吸することから始めて貰うんだけど……。アルス、深呼吸する時って何か意識してる事ってあるかな?」


 ハミルのアドバイスを受け、コミュニケーションをとる事にしたマーレ。いきなりの質問に戸惑いながらもアルスは回答する。


「深呼吸してる時? う~ん……。前にお母さんに言われたように気持ちが水に向かうように考えてるけど……」


(なるほど。これは私が余計な事を言った可能性があるわね。とりあえず、気持ちを落ち着かせる意味合いでやってみて貰いましょう)


「そうだったわね。アルス、その事は一旦忘れて貰って良いかしら。次から深呼吸する時は、周りの音に耳を澄ませるようにしてみてくれる? これをやる目的はアルスの気持ちを落ち着かせる為なの。普段聴こえている音に耳を澄ませることで、気持ちも落ち着かせる事が出来ると思うわ」


「うん。分かった。やってみるね」


 アルスは言われた通り、深呼吸しながら意識を小さい音を拾うように心掛ける。木々を揺らす風の音。友達を呼んでいるかのような鳥のさえずり。自分の中で脈打つ心臓の音。そう言った小さな音に意識を向ける事で、余計な雑念は取り払われていった。


 その様子を(つぶさ)に観察するマーレ。アルスの様子が昨日までとは違うように感じていた。


「じゃあ、始めてみましょうか。アルス、失敗しても良いからね。お母さんはアルスに素質がある事は疑ってないけど、素質があるからすぐに出来るって訳でもないと思ってるから。だから、失敗して当然位で大丈夫よ」


「うん。……分かった」


 マーレに言われた事で緊張が蘇ってきてしまうアルス。今回は完全にマーレが余計な一言を言ってしまった形だ。アルスは自分が緊張してしまっていることに気付き、深呼吸からやり直す。








(うん。なんか良い感じ)


 アルスは自分の心がいつもより落ち着いているのを感じていた。


(今日はなんかやれそうな気がする)


 最近、失敗続きでネガティブ思考に陥ってしまっていたアルスの気持ちが、ここにきてポジティブ思考にシフトする。


 そのままの心持ちでいつも通りの練習に向かう。水に浮かべた葉っぱを自分の中に流れる魔力でもって回転させる練習だ。何となく今日は自分の中にある魔力の奔流(ほんりゅう)みたいなものを感じ取る事が出来ている気がしていた……。


 アルスは胡坐(あぐら)をかき、更に入念に深呼吸する。目を閉じ、イメージの中に残る水の上に浮かぶ葉っぱに向け、意識を集中する。


 しばらくすると、イメージの中の葉っぱが少しづつ回りだす。と、同時に近くで見ているマーレから『あっ!』と小さな呟き程度の声が聴こえた。







 アルスは恐る恐る目を開けてみる……。


 水を張った皿の上では、イメージと同様、葉っぱがクルクルと回転していた!


「…………」


 アルスは感動のあまり言葉にならない。抑えていた感情が嗚咽と共に込み上げてくる。これまでの日々を思い出し、涙を堪えることが出来なかった……。


「やったー! アルス、アルス、出来たじゃない! お母さん、今日は出来る気がしてたのよ! 今までよく頑張りました」


 アルスの代わりにマーレが喜びを爆発させる。アルスに駆け寄り、抱き寄せ、頭を撫でる。余程マーレも嬉しいのか撫でる力が強く、逆に痛いくらいだった。


 でも、その気持ちが嬉しい。


(ああ、僕……成功したんだ。ずっと、ずっと失敗続きだったけど、僕にも素質なんてあったんだなぁ~)


 こうしてアルスは精霊師としての一歩を踏み出した。

明日も朝6時にアップします。

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