1話
………
鳥の声が響き木漏れ日が差し込む森の中
「こんなもんでいいかな」
採集依頼の最後の1つを取り終えつぶやく。
「はーっ、終わったぁ!
でもやっぱ採集依頼はいいねぇ自然が身近に感じられる。」
依頼が終わったところで横になりそんな事を言いながら目を瞑り風の音に耳をすませる。
やわらかい風が髪を揺らし、木漏れ日の光が目蓋を通して感じられる。
どれだけ経ったのか、日が傾き始めた頃に目が覚めた。
「うへぇ、寝てたのか。
依頼達成の報告しに行かなくちゃな。」
寝起き特有の気だるさを感じながら体を起こし、街へと歩き始めた。
「着く頃には暗くなりそうだなぁ。早く報告して帰ろう。」
腹も減ったなぁ今日の晩飯は何にしようか、などと考えていると大きな音が響いた。
音の発信源は割と近い。
近くで討伐依頼でもやってるのだろうか、
別に興味もないし早々にその場を離れようとすると叫び声が聞こえた。
「痛いっ!いたたたた!!!
ちょっと離して!離してってば!!」
…討伐依頼、なんだよな?
そこには熊が熱烈な抱擁を女の子にしている場面だった。
「なんで攻撃してるのに倒れないのよ!可笑しいでしょ!」
それはそうだ、全ての攻撃が当たっていない
「なんだあれ…よし、何も見なかったことにしよう」
「ちょっと!なんでスルーするのよ!助けなさいよ!」
チッ…見つかったか
「何よ!その嫌そうな顔!!」
「そんな風に話せるって事は余裕があるんだろ。自分でなんとかしろよ」
「見てわかりなさいよ!余裕なんて皆無じゃない!!」
「はぁ…」
これ以上話していても解決しないしだんだん俺にも罪悪感というものが出てきたし仕方なく助けてやる事にした。
「こんなんでいいか」
近くに落ちていた手頃な石を拾う
「ちょっと、まさかそんな石ころを投げるとか言わないわよね!神法を使いなさいよ!!」
えーと、近くの木は…あれがちょうどいいな
「ちょっと聞いてる!?」
拾った石を見つけた木に向かって投げる
「外してるじゃない!助ける気あるの!?」
「うるさいなぁ、もうちょい頑張れ。」
気に当たった石は跳ね返って熊の目を目掛けてへと飛んでいく
熊は石を避け、少しだけ重心をずらした。
「おりゃ!」
重心のズレたその少しの隙を突いて、熊の足をめがけて力を入れて石を投げつける。
「え、きゃ!ちょっとちょっと!」
腹に響くような音を立て、バランスの崩れた熊はその場で倒れた。
「ほら、今のうちに攻撃を当てな。
急がないと起き上がるぞ、まさかその距離で外さないよな?」
超至近距離で外したらそれはそれで才能だ。
「当たり前でしょ!この距離で外れるわけないわ!くらいなさい【天狼の牙】!!」
風が抉り喰う様に熊の体を引き裂いていく。
声を上げることもなく熊は息絶えた。
「おー、倒せてよかったね。
それじゃ俺はこれで失礼しますわ。」
「ちょっと待ちなさいよ!」
早々に立ち去ろうとすると引き止められる。
「どうしたの?まだ他に用が?」
「いや、用ってことでもないのだけれど…
その…ありがとう!助かったわ!」
なんだ、ただの礼か…
「別に構わんよ〜、倒したのは君だしね。
俺は手助けしただけ。」
ヒラヒラと手を振りながら振り向き、今度こそ離れようとすると…
「ちょ、ちょっと!なんで行こうとするのよ!」
「え、だめなの?もう遅いから帰りたいんだけど…」
少し嫌な顔をしながら振り向き返事をする。
「名前、あなたの名前を教えなさいよ!」
「人に名前聞くなら最初に名乗んなよ…」
やれやれと思いながらも名乗る事を促す。
彼女は胸を張って答えた。
「私はラン・コバットよ!
さぁ!あなたの名前を教えなさい!」
「あ〜名前ね。はいはい…」
「俺はベルフ、ベルフ・シモンド。
採集ばかりのしがないギルド員だよ。」