転換の時
リーダーシップ
業務を進める上で明確なデザインと現場感覚を持ち、多様な関係者の利害をとりまとめるとともの、多様な価値観を尊重し、円滑に進めること
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お金や異性、病気や死、後継者や私欲、私怨いろいろなシナリオを考えた。
しかしこの世界においてはエスカは真に異端であり、ただの狂信者でしかない。金や色欲に溺れた貴族や王は粛正され、不治の病も事故死も、放蕩息子も権力闘争も惚れた腫れたもしばらくすると綺麗になり、次が現れる。この世界のシステムの強さはユートピアであり、ディストピアである。多様性にあふれるものの多様な生き方は許されていない。
ではどうするか。半年の時間をかけて出した結論は破壊的イノベーションを俺なりに解釈した戦略であった。
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豊かな実りを持つけもの耳の上で俺は笑った。
「急にどうしたの?せっかく来てくれたのに。私は良くないの?他に気になる子でも出来た??」
アイが微笑みながら優しい声でささやく。
「俺も自信が着いたし、何より余裕が出来ただけさ。ハハハ、前には考えられなかったってことでしかない。さあ激しく行くぞ!」
アイの反応が変わった。俺はそれを見ながら、夢の世界に旅立った。
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「カトの願いを受け入れたが、エスカ様は喜ばぬぞ。とはいえ、冒険者はそんなものであることも事実。ワシも若いころはな」
「いや、今はサーのことは良い。で、明日にエスカは戻るで間違いないのか?」
「ああ、エスカ様の戻りは明日じゃ。で、オトとワシとエスカ様と四人で潜り、連携するか。確かにワシも敵を気にせずに魔力を錬れれば全盛期に近い一撃は放てるのう。」
「サーも良いのか?エスカに言われたのだろう?辞めることも!名誉も全て失うぞ!」
「もうワシには時間がないし、何よりエスカ様の力になりたい。これまでずっと言ってきてもエスカ様の心が変わらないのであれば、覚悟は決まっておるさ。」
「ありがとう。まずは特務機関にマークされない範囲でダンジョン探索を行う。もうすぐ冬になる。雪深いこの時期に足がかりを作るさ。同時に白の土肝も二月には手に入れる計画は立っている。」
「本当にパーティーを組んでも経験値とやらの分配に関するデメリットしかないのか?」
「ああ、確かに相手のモンスターもパーティーになり、慣れない状況では難易度は上がったように見えるかもしれないが、前衛と後衛と役割分担を決めれば、それも問題ない。最大の問題は国による介入さ。実力行使に出られる前に足がかりさえ作ってしまえば、なんとかなるとは睨んでいる。」
「確かにこれまでのような社会的制裁で普通は心が折れることは道理じゃな。やはり前にカトが言った大きな意思による支配ということか。」
「ああ、エンサイクロペディアで調べたく結果からの考察では間違いないだろう。この世界は歪であり、綺麗だ。」
「まあ、結局はワシもやることが大きく変わるわけではない。何かを得るために戦うのみよ。そうでなければ、命を賭してでも止めていたさ。」
「そうだな。結局は机上の空論に意味はない。最後まで諦めず、戦い続けるしかないことが道理だろう。」
「お主の力があれば、終えることは難しくないだろう。難儀なことよ。」
「それはお互い様さ。俺はそういう性格ってことさ。ディストピアで飼い慣らされるならば、足掻くことを選ぶ。これまでずっと後悔してきたからな。前世でもな。」
「転生か。輪廻転生の概念はこちらにはないが、もしあるのであれば、それもまた楽しみだな。」
「ばあさんの徳は知らんし、何より神の教えに逆らうのだから、保証はしないぞ。」
「ハハハ、神は八百万おるのだろう。寝物語にしても愉快じゃ。」
「ばあさんと寝たことはないんだがな。」
「寝てみるか?ワシは兎系獣人でもとびきりのだぞ。一生後悔するかもしれんぞ。」
「いや、年上は嫌いじゃないが、さすがにな。っていうか、ぼけたことは良い。最後の準備をするぞ。」
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エスカと合流し、ダンジョンアタックの準備を終えると、俺達は山のダンジョンに潜った。
ストレートゴーレムをポーターとして、リソースのほとんどをオトとサポートのみに回すことでエスカの真価は十二分に発揮された。
同様に俺も鑑定スキルを活用した全体の指令とフィニシャーとしての役割を果たし、全盛期並みのサーの魔力攻撃とオトの攪乱も山のダンジョンにハマり、危なげなく、二ヶ月のアタックを終え、街に戻った。
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街に戻り、俺とエスカは変装し、料亭に繰り出した。
「手紙でのやりとりもあり、十分な準備が出来たため、ここまでは計画以上に順調ですね。ありがとう。」
「いや、サーの力が想像以上に大きかったからであって、これからは厳しくなるさ。」
「それもここに来た理由の1つですか?わざわざ高額な個室でなくても良いのでは?」
「ここでしか話せないこともあるし、何よりも南の大陸の商人を試す意味もある。」
「リンカーンさんですね。何を試したかったのですか?」
「どこまで信頼でき、どこまで影響があるかどうかさ。リンカーンは国外の商人のため、東方諸国や帝国の価値観と大きく異なる。かなり割が悪い取引であるが、調達出来ない場合は少ない。本題に戻ろう。サーのことであるが、たぶん二月でピークを迎えるだろう。」
「説明口調というか、口上が長いというか、カトの特徴と思い、私には好ましいですが、今日は話が早いですね。」
「そうか?それでだが、鑑定スキルで見ていると、日に日にサーの力が下がっている。緩やかではあるが、連携が良くなるプラスと今は相殺されているが、たぶんホワイトウナギフィッシュと戦うつもりの二月以降はますます厳しくなるだろう。」
「それでも白い土肝が手に入るのであれば助かります。その後は領土で事後処理に追われるでしょうし、新しい戦術を考えないといけないですね。遠距離系のアロードラゴンとかはどうでしょうか?」
「使役するモンスターを増やすと、エンチャントやバフに使用できる魔力が厳しいだろう。別の手が必要だ。」
「カトの見立てではレベルアップですか?位階を私が超えても厳しいでしょうか?」
「ああ、魔力の総量は今より大きくなるが、さすがにアロードラゴンをサーと同じように運用するのは厳しいだろう。」
「ただでさえ特務機関にマークされる可能性があるので慎重に行きたいところですが、やはり手紙の通り、ここで決めるしかないですね。」
「特務機関の動きが見えないところが気にはなるが、サーのことも考えるとここは決断するべきだ。」
「サーは手はず通りで大丈夫ですか?」
「ああ、リンカーンも良い返事をくれた。蓄えが枯渇するのは痛いがサーは恩人だ。南の国は暖かいところだし、余生を過ごすには良いだろう。」
「ありがとう。サーお母さまが慣れない土地というには気になりますが、お母さまも良い返事です。」
「そこは懸念していたが、何よりだ。」
「ところで」
俺はエスカの変化に気付く。
「何だ??」
「花街で楽しんだようですね。決して懐に余裕があるわけでもない」
「いやっそれは予定よりも順調で、鍛錬もキツくて」
「ずいぶん余裕も出来たようですし、良い体になりました。王子にとも考えていましたが、私も生娘のまま、逝きたくはありません、エスティアの女は肉食なんですよ。」
「えっ、か、体が」
「フフフ、カトは想像以上に良い働きをしました!頑張ってね!!」
こうして夜は更けていった。