準備の時
コミュニケーション
業務を進めるために多様な関係者と効果的に、かつ、明確に意思疎通や協調を行うこと
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「カトよ、ギルドとは協会と何が違うというのか?エスカ様のカードのログを見たときは驚いたが、なぜにエスカ様はあえて困難な道を歩むのか」
心優しきメイドが問う。
「協会や商務部と似たような組織さ。ただし、助け合うこと是とする。」
「御館さまの嘆きが想像できるわ!それで進捗は?」
「商務部とは話が出来ているが、門前払いさ。やはり想定通り、まずは銀級冒険者になることが必要と思う。だがこのままでは確実に死ぬ。」
「確かにカトには銀級モンスターはソロでは倒せんな。」
「ああ、銅級すらエンチャントなしにはソロでは厳しい。」
「カトがいうにはソロはルールというが規約に書かれていないか。確かにワシも規定は読んだ記憶がないわ。」
「最初の試験で渡されて、解説があるが、主に税金関係の話だからな。そもそも字が読めないものも多いし、よっぽどの孤児でも孤児院で教育されるからな。」
俺は六歳で孤児となった。この世界では良くある話だ。行きずりの恋で一時の母となった女は食費を稼ぐためダンジョンで死んだ。酒に溺れた母からはろくな教育も受けなかったが、夜は二人で寒さに耐えていた。
そして、ダンジョンの協会の運営する孤児院で15まで教育を受け周りの孤児と同じく冒険者となった。百人程度いた孤児院の同期ももう数える程度だ。この世界は命が軽い。
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「カト、同じく孤児院の同期のよしみだ。命までは取らんが、痛い目に遭ってもらおう。」
「師父の依頼か。悪いが簡単にやられるわけにはいかん。」
「相変わらず察しが良いが、お前は俺に一度も勝てたことがないのだぞ。」
人類種蜥蜴系獣人の冒険者が俺を襲う。
シミターを使うため、俺と相性が非常に悪い。
「ほう、昔よりも良い動きになっている。いくつか位階を超えたか。しかしお前は致命的に軽い!」
俺は両刃の直刀であり、一撃の精度を高めてきた。しかし、それはエスカとの連携を前提としており、ソロでは威力が足りない。
同時に相手を攪乱するための技能を磨いた。
「銅級にしては良い読みであり、体捌きだ。孤児院の出たての子供では捉えることが難しく百日手となるかもしれんが、俺の前では無意味だな。」
こいつはある意味では俺の目標とする冒険者の一人だ。速くて重い。バフもデバフも使え、技量も高く、種族の特性から固い。まさにソロとして完成している。
俺はわずかな時間を稼いだが、呆気なく気絶した。
「これに懲りたら、誰かと共に戦うなどイカレタ願いは捨てて、さっさとダンジョンで名誉とともに死ね!」
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実はこの世界にはレベルという概念は知られていない。俺が持つ鑑定スキルから、レベルを捉えているだけであり、この世界では位階という表現で漠然と捉えられている。
さらに誰かと共に戦うことは特別級にのみ許された特権である。それは国にとって特別な意味を持つ冒険者の権利であり、その権利は一握りのものしか知らない。
俺がこの国の王女のパーティーに出会ったのは奇跡的なことであり、一般の冒険者はその護衛に存在を消される。白い月花を採取する際に七日間も潜んでいた時に偶然に見つけただけであり、その護衛の監視をクリア出来たことはまさに奇跡であった。
特権を守るために社会的制裁にて抑止とする。非常に良く出来た仕組みである。最も一般的な敬虔である善良な市民は神の教えを疑うこともなく、俺が転生者でなければ、この考えに至ることもないだろう。
ダンジョン協会か商務部の最高幹部にどう提案するか、それが問題である。そもそも伝手もない。
デバイスから得られる知識も剣と魔法の世界では有益に使用できる場面も今は多くない。