新しい日々
街に戻った俺達はサーの葬儀を終えると、一軒の家を与えられた。1階を事務所、2階を打ち合わせスペース、3階を居住空間としている。
全てが黒の上の指示であり、商務部のゴーレムが受付嬢を兼ねている。
非常に都合が良いことではあるが、藤の上と契約したことで全てが好転した。といっても協会や冒険者からの評価は変わらない。しかしながら、権力に虐げられる可能性がなくなったことは良いことだ。こうしてダンジョンにパーティーという概念で協働することを理念にギルドは設立された。
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藤の上は俺のマスターとなり、定期的な指示が来る。多くはギルドに所属する孤児を有力者の身辺に潜り込ませ、その行動を監視させ、情報をそのまま全て報告することが任務となる。これが非常にやっかいである。どうやって情報を得れるように整えるか。前任者のゴーレムは寝技ばかりだったため、情報に偏りが生じていた。俺は寝技も視野に入れながら、主に芸能系や技能系として孤児らを売り込み身辺を固めていくように手筈を整えた。といっても仕込みにも時間がかかる。ひとまずは前任者のルートを使い、情報収集体制の維持取りかかることとなった。
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「カト、では私は予定通り、一度領地に戻る。白の土肝を祭りにて主天使に捧げる。」
「ああ、実際には既に本人には届けたが、もともとの計画は遂行しないとな。」
「そうだな。元々は父上さまのために、盛大な祭りを開催し、陞爵の足がかりとし、家の再興をすることが目的であったが、藤の上様が手を回してくれた。」
「マスターには足を向けて寝られないな。」
「ああ、父上さまのケガも桜の上殿の薬の効果で、死の淵を越え、快方に向かっているという。英雄が健在となれば、悪いようにはならないわ。本当に肩に荷が降りた気分よ。」
「良かったよ。」
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それから数年が経ち、俺はギルドマスターとして、毎日忙しくしている。
子供は二人。男の子と女の子だ。
たまに花街に遊びに行っているが、仕事と家庭のバランスを取り、義理の父親との関係も良好だ。
そして、少しずつ、ソロプレーヤーでない冒険者が増えてきた。
多くは孤児院の出身であり、死んだり、重傷といった事例が減った。
この理不尽な世界にほんの少しだけ変化を起こせた。
娼婦になるしかなかった孤児も野盗になるしかなかった孤児も情報収集の仕組みに組み込み、立派な大人として羽ばたいている。少しずつ結婚したり、独立したりするものも出てきて、この地獄なような現実に笑顔が増えた。