選択の時
あの頃に戻れたら
あの時をやり直せたら
もしも‥‥
※※※
長い黒髪の切れ長の目の美女が近付いてくる。
「さあ、選びなさい。」
俺の前に選択肢が出される。
どちらを選ぶことが良いのか。
生か死か。
※※※
中学時代の記憶が呼び起こされる。
「先生に言ってみなさい。どうしたの??」
俺はその選択を後悔していた。
高校時代の最後の担任とのテレビ電話を思い出す。
「どちらの会社を選びますか??」
俺はその決断に失敗した。
前世の花街の黒服の声が聞こえる。
「どの子が良いですか??
オススメはこちらです。明るくて、良い子ですよ。」
俺は希望を得ることが出来た。
帰り道のこと。
「どっちに行こうかな。久々にラーメン幸にするか。」
俺は事故にあった。
エスカの声が聞こえる。
「尽力を願う」
俺は夢を得た。
戦いのさなかの決断。
「酷なれど、長の役割。」
俺は正しかっただろうか。
※※※
「我は特務兵索敵部に所属する。主に直々に任命されたされた誇り高きエルフじゃ。改めて問う。」
そこへオーガらしき女が目を疑う速さで近付く。
この女もとても美しい。
褐色のホットパンツから見える健康的な足がとても綺麗だ。
そして、強い。次元が違う。鑑定スキルの結果が疑わしいくらいだ。
「なんとか間に合ったみたいね。」
エルフは鑑定が出来ない。後から来たオーガと同じ程度と仮定すると、命を燃やし、一時的に全盛期の力を取り戻すしサーでも数秒も持たないだろう。
二人のプレッシャーを感じ、俺は口を開く。
「戦うか逃げるか、俺はそのどちらでもない。」
「降伏すると言うのね?どうやらインフォメーションのスキルを有しているみたいだしね。この感触は久々ね。」
「我が思うにこやつは転生者の可能性がある。ジャックとの戦いの準備から見ていたが、主に近い思考を持っていると睨んでおる。」
「藤の上が言うなら間違いはないのでしょうが、こいつらはB級以下よ。命令には従うけど、警戒する価値はあるの?」
「パーティーを組むという思想に至るだけでも、警戒には値するわ。だから、桜の上を呼んだのよ。」
「あら、黒の上の仕掛けを超えるなんて、三十年くらいぶりね。さて、そろそろ、真意を聞きましょうか。」
「俺はこのまま対話を選ぶ。サーももう時間がない。俺もエスカも余力がない。そうすれば、俺は俺を信じる。幸いに会話が成り立つようだしな。」
「相手を知れば百戦は危うかれずとというし、ここまでは良い判断ね。」
「相変わらず、藤の上は優しいわね。私にとって、ここまで評価する部分はないけどね。あなたに聞いたワナの話は確かに懐かしいけれど、あの時の状況も力押し出来るならそれにこしたことはないわ。」
「確かに感傷的になっているわね。さて、カトね。カトは何を捧げるというの?白の土肝は確かに主の好物だけど、そんな程度で許されるほど、甘くはないわ。」
「やはり、お前たちの主は俺の想像通りか。といっても誘導されているのだろうが、俺は誓いを立てよう。」
「話が早い男は好きよ。それで誓いとは?我の思いにどこまで沿えるの?」
「俺は主に忠誠を誓い、決して害することはしないと約束しよう。」
「その程度、驚異に感じない相手から言われてもね。私ならいつでも消せるのよ。」
「話は途中だ。この世界は多様性があるよいに見えるが、その実は箱庭になっている。俺はエンサイクロペディアの知識を使い、主に貢献することが出来る。」
「ほう、続けよ。」
「主が偉大であっても、全てに目を配れない。というよりも配りすぎている今はきっと理想とは違う。」
「主を侮辱するの?今ここで消してあげるわよ。」
「待て、桜の上。続けよ。」
「俺ならば、リスクをコントロールしながら、さらに発展させることが出来る。」
「転生者の中でも売り込みが上手いのはよくいるわ。何がユニークといえるの?やっぱりこいつの話には具体性がないわ。もう消して良いかな?」
「相変わらずね。でも、桜の上の懸念も当然ね。あなたは何が出来るというの??」
「俺は何も出来ない。大きなことが出来ないから、俺には価値がある。」
「確かにな。全てを我の名に誓えるか?」
「ホント!?藤の上も物好きね!私には価値は感じないけど、主の命令には背かない。」
「では、桜の上、契約の立会を頼むわ。」
こうして俺は自由を失い、だが未来を得た。
※※※
「お母さま、どうして。」
「ワシは幸せものじゃ。戦士として逝くことが出来る。」
「すまない、サー。」
「ワシはワシのまま母として生きることができた。感謝する。」
「私の子の婆やになって、余生を過ごして欲しかった!」
「奥方様が姫を生み、亡くなってから、ずいぶんと経ちますが、ワシは幸せでした。エスカ様と過ごす日々は本当に幸せでした。」
「私もあなたと過ごせたことは幸せでした。」
「カトよ。エスカ様を幸せにしてくれますか?」
「ああ、俺の国の言葉だが、病めるときも健やかなるときもエスカと共に歩むことをサー・アルトエッセンに誓おう!」
「ありがとう。エスカ様の夢を頼みます。エスカ様、幸せになってくださいね。」
こうして兎系獣人の英雄は逝った。