決断の時
決断を迫られる時。
白か黒ならわかりやすい。
でもグレーの時にどうするか?
賢人曰く、その決断を正解にすれば良い。
※※※
極技がホワイトウナギフィッシュにきれいに決まった。
同時にエンチャントで強化した俺の袈裟切りで追い打ちとする。
「グオオオオ!」
ホワイトウナギフィッシュが倒れていく。
「やったか!?」
水しぶきが上がり、視界を妨げる。
サーは残心しながら、息を吐く。
「会心の一撃と呼べ、完璧に決まったわ。しかし」
ジャックの命は残っていた。
「命は刈り取れんかったようじゃな。」
俺は残る黒竹の投げ槍を全て動かないホワイトウナギフィッシュにおみまいする。同時に貴重な特別製も投げる。エスカも炎の矢や槍で攻撃を続けている。サーも一呼吸置くと、炎の剣を呼び出し、攻撃を再開する。
それでも恐るべきこのモンスターは仕留めきれなかった。
「くそっ!予想外だ。ここで使用するつもりはなかったが、切り札だ。」
俺は爆薬を仕掛け、エスカの炎の矢で誘爆させる。
「戻ってくる鋼蟹に使いたかったが、そろそろ逝けや!」
ホワイトウナギフィッシュは満身創痍ながらも攻撃を再開する。
「火事場の馬鹿力か!?速くなってきてやがる。」
「きゃあ!」
エスカが尾の振り下ろしでえぐれた地面の一部が直撃する。
それに気をとられた俺に口から放たれた魔力の塊が襲う。
ポーションを飲みながら、俺は最終決断するために思考を巡らす。
引くことは解決にならないが、命を優先するかどうか。
すると、サーが俺に声をかける。
「カトよ、決めなさい。酷なれどそれが長という役割。決めなければパーティーは脆い。」
続いて、エスカが叫ぶ。
「引きましょう!耐えることは慣れている。この個体は異常よ。」
俺は永遠とも感じる時間を悩み、ついに答えを出す。
「このまま押し切ろう!最後の切り札を切る!エスカ、さらにバフとエンチャントを!!」
「無理よ!これ以上はあなたが耐えられない!!」
「いや、耐えてみせる!!!」
エスカは一瞬ためらい、それでも詠唱をはじめる。
「フフフ、二人は若い。無理を押すことと無茶は違う。姫の子宝のことは残念なれど、その決断はいさぎよし!」
サーは俺に対するバフとエンチャントを遮る位置に立つと、その命を燃やし、極技を放つ準備をする。
「お母さま!?」
俺は息をのむ。
ホワイトウナギフィッシュの熾烈な攻撃は続き、既に皆、満身創痍の体である。
大きな煌めきと共にサーが加速し、ホワイトウナギフィッシュに近付くと、その拳を体いっぱい引き、思い切り殴りつける。
拳の当たった箇所を中心に爆発が起こり、俺は吹き飛ばされる。
※※※
「ホワイトウナギフィッシュはサー・アルトエッセンが討ち取った!」
サーが勝利の名乗りを上げる。
俺は自分の目を疑う。若く妖艶な兎系獣人が俺に微笑みかける。
「さあ、このまま白の土肝を採取して、すぐにオトを助けるぞ。」
悲痛な声でエスカが巻物を取り出し、詠唱をはじめる。
俺は思考を切り替え、オトの向かった方向に目を向ける。
そちらの方向から、一人の冷たい感じのする美女が近付いてくる。
「いろいろと驚いたわ。まさかジャックが仕留められるなんてね。」
藤の上に声をかけられた俺は思わず膝が笑い、体制を崩した。
「あら!?ごめんなさいさいね。ああ、話の途中に邪魔はしないでね!」
サーのこれまで以上の力を感じる一撃を女は何気なく受け止める。
「なんじゃこのように生き物は?」
俺も思わず口から絶望がもれる。
「化け物め!」
※※※
オトが消えたことで戻ってきた鋼蟹の群れは女が投げるナイフを受け爆死する。
「ははは、化け物って酷いわね。」
「ホワイトウナギフィッシュ以上の力を感じるオマエは何者だ?」
俺は倒れそうになる体を鼓舞し、問いかける。