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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ストーカー

 なぜ僕はあの子に話してもらえないのだろうか?なぜあの子と街に出かけることができないのか?なぜあの子とキスすることができないのか?

 僕はひとり、部屋で悶々と考えていた。時折、無性に頭をかきむしりたくなったり、死にたくなったりする。その度に髪の毛をブチブチと引き抜いたり、カッターナイフを喉仏に当てたりする。僕は世界一彼女のことが好きな男だろう。それなのになぜ僕のことを選ばないのか?ここまでしているのに、なぜ僕のことを無視するのか?

 僕はまたスマートフォンに目をやる。僕が送ったメッセージに、彼女は目もくれないらしい。なぜ僕のこの想いが、通じないのだろう。また僕の心に感情の波が押し寄せてきて、カッターナイフの刃をギチギチと引き出し、喉に当てる。でも、まだ皮膚を破る勇気はなかった。


 僕は世界に一人取り残された気分だった。何をしても気分が落ち着かない。何を握っても、手に力は入らなかった。まるで精神病のようで病院に通おうかとも思ったが、彼女の写真を見ると自分が正常だと理解できた。

 スマートフォンを手に取り、彼女のツイッターアカウントをチェックする。僕のアカウントでは覗けないように設定されてしまったので、このために新しくアカウントを作った。

 ツイッターにはユニバーサルスタジオに行った彼女の写真が掲載されていた。僕は彼女の写真を見ると、心が溶けてしまうかと思うほど気持ちが良くなる。決して美人というわけではなかったが、愛嬌があって可愛いらしい。それ以上に僕は写真には映らない彼女という()()のことが好きだった。

 3枚目の写真に目をやった時、僕はギョッとした。彼女の隣にメガネをかけた若い男がにこやかな笑顔で映っている。そして彼女の肩に手を触れている。僕は怒り、スマートフォンを床に叩きつけそうになった。スマートフォンの値段を思い出してギリギリのところで踏みとどまった。

 彼女のツイッターに友人であろう女から返信(リプライ)が来ている。

「新しい彼氏ーーー?!」

 彼女の返信(リプライ)を探り、ページを下にスクロールする。

 「、、、、、うん笑」


 僕はスマートフォンを床に叩きつけ、足で踏みつけて、バラバラにしてやった。足の裏には無数の電子部品が突き刺さったが、痛みは感じなかった。



 僕は2日後、彼女に会いに行った。僕という存在がありながら、なぜ違う男に心を許してしまうのか。僕は自分に言い聞かせる。彼女は僕の()()ではないんだ。でも僕は彼女のものなんだ。その責任は取ってもらう。彼女のせいでスマートフォンも壊れてしまったのだから。

 彼女は集合マンションの2号棟、305号室に両親と住んでいる。エレベーターで3階まで上がり、廊下を歩いてゆく。流石に緊張してきた。僕は305号室の表札に彼女の名字が入っているのを確認して、インターホンを鳴らした。数秒後、インターホンから声が聞こえる。

 「どなたですか?」

 彼女の声だ。

 「回覧板を回しに来ました」

 「はーい」

 ガチャリ、というカギが開く音が聞こえ、そしてドアが開き彼女が顔を出す。彼女の顔を見て、僕は動機が激しくなる。しかし、僕は心を鬼にして彼女の顔面を右手で引っ掴んだ。僕は彼女を押すようにして部屋の中に入り込み、持ってきていたロープを彼女の両手首にかけた。

 「ギャ...」

 僕は彼女が叫びそうになる度に彼女の口に手を突っ込み、声を塞いだ。胸が痛んだが、仕方のないことだった。僕は彼女の手首を思い切りロープで縛る。彼女が逃げようともがいたので、僕と彼女はバランスを崩し、僕たちは床に倒れた。彼女の足首もロープで縛り、彼女は芋虫のようにモゾモゾと動くことしかできなくなった。

 僕は彼女の縛られた足首を掴み、リビングルームまで引きずった。彼女の両親が外出しているのはラッキーだった。彼女はその間、ギャアギャアと泣き叫び、隣人に聞こえてしまっただろうが、それはもう諦めた。あとすることは一つだけなのだから。

 僕はカバンからカッターナイフを取り出す。ギチギチと刃を引き出した。彼女は叫ぶことをやめて、涙目で僕の姿を見つめている。

 「殺さないよ」

 僕はできるだけ優しい声で彼女に囁いた。余計に怖くなったのだろう。彼女は大粒の涙を流していた。

 僕はカッターナイフの刃を自分の喉仏に当てて、力を入れた。皮膚に燃えるような痛みが広がる。喉仏は硬く、カッターナイフでは切れなかった。しかしカッターの刃が喉仏に直接コツコツと当たっているのは分かった。

 僕は喉を突き刺すことを諦めて、血管を狙うことにした。カッターの刃を滑らして、皮膚を右に切り裂いてゆく。ダラダラと流れる血が僕の体中を濡らした。そしてぷち、という小さい触感で僕は自分の動脈が切れたことが分かった。ドゥル、ドゥルと傷口からぬめったい血が一定のテンポで溢れ出す。心臓が一つ鼓動するごとに僕の意識は少しずつ遠ざかってゆく。

 僕は自分が死にかけているにもかかわらず、誇らしく勝った気持ちになっていた。彼女は僕が彼女のせいで死んだということに責任を感じ、反省する。僕の部屋を見て、僕がどれほど彼女のことを愛していたか、それを知る。そして彼女は僕のことを愛する。彼女も僕の後を追って、死んでしまうかもしれない。御両親には申し訳ないがこれが愛の力なのだ。

 意識は遠のき、体には力が入らず、僕は床にドテリと倒れた。視界はだんだんと白く染まってゆき、充血した目を僕に向ける彼女の顔も見えなくなっていった。真っ白になった視界は、急速に闇に変わっていった。そして思考も真っ黒になってゆく。

 その時、彼女の声が聞こえた。


 「あー、よかった」

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