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009 コミュ障聖騎士と幸運男の共通点

 「……そ、そんなバカな……聖騎士さんの剣技と同じ類を使えるなんて……そんなバカなこと……」


 「間違いない……あれは……〝勇者の信念〟の斬り傷だった」


 はーい確定ー、俺ですねはーい。


 「と、とにかく、もう夜遅いし寝ましょう!ね!?あんたも宿に戻って!ね!?明日私達が調査するわ!」


 「……調査?」


 「私達は何でも屋よ!この依頼承ったわ!」


 「……そ、そうでしたか……」


 何とか押し切ろうとしている、現状のヤバい空気から逃れるためにごり押ししている……だがナイス!


 「なら、明日の朝また伺います、協力ありがとう」


 「毎度ー!あはははは!……」


 押しに弱い聖騎士さんは、パトリシアの生み出すほれほれ空気であれよあれよとこの家を出て、宿に戻っていった。


 ピシャリと玄関が閉じた音がした瞬間に愛想笑いのたくましい笑顔を一瞬で崩す。


 「あああああああ!!!!!もう何なのよ今日は!!!仕事来ないわ水商売やらされるわ変態野郎に胸揉まれそうになるわ聖騎士に目ぇつけられたと思ったらコミュ障だわ初仕事の調査対象自分たちだわ!!!!!」


 気持ちは分かるが、近隣に迷惑なので夜中に叫ぶのはやめましょう。


 「もう!!お風呂入ってくる!!」


 溜まったモノを吐き出すパトリシアは結局バーでのホステスの職務を放棄して風呂に向かっていった。


 住み始めた2、3日は覗くなと散々言われたが、そもそも興味が無いので覗く気にもならない。


 結局この日は何も解決しないまま眠りについたのだった───。




   ※ ※ ※ ※ ※




 「やれやれ、こっちでも大変そうじゃのう」


 聞き覚えのある幼い声、見覚えのある和室、そして忘れもしない見た目10歳あるかないかの幼女女神、お雹さん。


 「あの、俺死んだんですか?」


 「いいや?ピンピンしておるぞ」


 いや死んだと思うじゃん、死なないとお雹さんに会えない訳だし、今回は茶道じゃなくて華道で生け花してるけど白い菊が主枝だし、勘違いしちゃうじゃん。


 「……今回は何でここに来たんですか俺……」


 すげぇ、生け花の前は俺に向いててお雹さんは後ろから生けてるはずなのにまるで前が見えてるみたいに綺麗に生けるな……。


 「お主、フィルシアス・グリーズマンには会うたかの?」


 「ええ……」


 「彼の者はかつてわらわの元に来たのじゃよ」


 「ええ!?マジで!?じゃあ俺と同じ」


 「いやいや、お主の死んだ世界とは別の世界で死んだのじゃ……戦争の絶えぬ世界でのう……11歳という若さで兵士として召集されたのじゃが、流れ弾に当たってあっさり死んだそうじゃ……」


 とても美しく生けられたお花を完成させたのか、はさみを置いて床の間に置いた。


 「故に転生を望んだ際に、最強の力と唯一無二の技が欲しいと言ったのじゃ……その結果向こうでは全ての聖騎士の中でも1、2を争う実力を持ち、チート覇道を歩んでおるのじゃよ」


 何だチート覇道って……チートって面白いか?何事も上手くいきすぎてつまんないだろ……。


 いや最初は全能感に満ちて面白いかもしれないけど、刺激の無い人生ってやっぱつまんないだろ……どんなヤバい世界から来たか知らないけど……。


 「あ、そういえば〝勇者の信念〟……あれ何ですか?望んで無いのに」


 「プレゼントじゃよ、さすがに子供から生まれ変わる訳でも無くいきなり青年として向かうんじゃから、何かしら無いとのう」


 「……まあ……そのおかげで助かったからいいか……」


 そしてこの幼女はあぐらをかく俺の足元にちょこんと座り、見上げながら話し始めた。


 「あれはいつでも出せる代物じゃない、信念を貫き他を護る時にのみ発動する、もちろん死の淵に沈むかもしれない極限の状況下に抗うほどのかなりの覚悟が無くては出ない」


 「……俺は出ました……」


 「あれは初回オプションで出そうと思って出せるように調節したのじゃ」


 「何でだよ!!?」


 「はっはっは、あの程度で出る訳なかろう、彼の者も2回目以降発動するのに10年近くかかったからのう」


 「マジかよ……」


 「他に聞きたい事は無いかの?」


 「……俺が転生者ってのは、誰かに話していいのか?」


 「もちろん良い良い、誰も信じぬだろうがのう」


 だよな~……タブーなのかも思って怖くて話せなかったけど、いつか話そう。


 「後は……そうだな……




 ───お雹さんは何者?」




 恐らくこれこそタブーだったのか、急にフリーズして黙りこくるお雹さん。


 数秒間時間を置くと立ち上がり、とてとてと走って数メートル離れた場所で面と向かって正座で座った。


 「……いずれ時が来たら教えよう……お主にそれだけの価値と器があればの」


 「……それってどういう───」




   ※ ※ ※ ※ ※




 そこからお雹さんとの会話は途切れ、気が付くと自室の布団の中にいた。


 夢だったのか……転生は言ってもいいっていう所から先を上手く思い出せない……。


 まあでもその程度の事だったのだろうと俺は日課のパトリシアを起こしに行く。


 家具一式は引っ越し祝いにおばちゃんや家具屋さんからおばちゃんコネクションでタダでもらったものだ。


 パトリシアを起こし、金が無いので朝食は無く、顔を洗い服を着替え、支度が整った頃に呼び鈴が鳴った。


 同じ転生者同士の、運命の朝が幕を開ける。

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