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005 〝ヒブキ〟の街

 ───あの後、俺達は逃げた。



 理由は単純に、このままでは俺とパトリシアが爆発して大暴れした挙げ句に大男を斬りつけた、という濡れ衣を着せられると思ったからである。


 不運体質が染みついた俺によるネガティブ思想が生んだ決断だった。


 パトリシアはお礼貰いたいとか言って騎士の増援を待とうとしていたが、ダメに決まってる、一般人の俺達が騎士の仕事奪って危険な行動に及んだのだから貰うのは褒美じゃなくて前科に決まってる。


 俺は居座ろうとするパトリシアを無理矢理引っ張ってその場から去り、この大都会を抜け出した。


 逃げ出すときにタラレバをグチグチグチグチグチグチグチグチ言って耳にタコを作りやがったパトリシアは後でシバく。




   ※ ※ ※ ※ ※




 そして俺とパトリシアがこの大都会から抜け出した直後に、俺達がいた現場に騎士の増援が駆けつけた。


 その中で明らかに1人だけ別格の風格を漂わせて量産型とは違う剣を携え、甲冑ではない白を基調とした勲章を3つほど着ける制服を身に纏う銀髪で緋色の瞳の青年が俺が斬った大男の前に立つ。


 「おい、息はあるんだろ、起きろ」


 「……ぐ……っ!!?……あ……あんたは……フィルシアス・グリーズマン!!?」


 青年の名はフィルシアス・グリーズマン、この大都会───王都直属の騎士の中の騎士、聖騎士の称号を持つ1人だ。


 あれだけ王都で大暴れした大男がこの聖騎士を前にしてはビビりまくり冷や汗をダラダラと流しまくっているのだ。


 この男どんだけ強ぇんだよ。


 「ま……待ってくれ!!俺は被害者なんだ!!」


 「えーっと、指名手配中の爆発魔、獣人族のミシェル・ウーラだな、よし、現行犯逮捕」


 「待っ!!待ってくれよ!!俺はただの被害」


 「うるせぇぞ」


 その一声で大男は黙りこくり、騎士達によって連行されたそうだ。




 (あの斬り傷……俺以外にいるのか……〝勇者の信念〟のユニークスキルを持つ者が……バカな……)




   ※ ※ ※ ※ ※




 結局俺とパトリシアは、エイスレアード王国の王都〝オルネシア〟から南に10キロ近く離れたベッドタウンの〝ヒブキの街〟に辿り着く。


 王都へのベッドタウンなので、とりあえず街の中心にある噴水から最も近い宿にチェックインしようする俺だが、金が無い。


 そもそもここの通貨って貨幣だけ?紙幣はあるのか?……知識ゼロ!


 「何であんたお金持ってないのよ、よくオルネシアに入れたわね」


 「まあ……成り行きを説明すんのが面倒くさい……」


 「あらそう?残念だったわね!じゃあ私はここに泊まるからあんたは野宿でもしてなさ~い」


 「は!?え!ちょっと!今日の分くらい貸してくれよ!!」


 「嫌に決まってるでしょ!?何であんたなんかにお金貸さなきゃなんないのよ!!」


 「一緒に闘った仲だろ!?な!!」


 「それはそれこれはこれよ!!諦めなさい!!」


 マジかーい!俺野宿かーい!


 「くっそう……」


 「はいはい悲しげにしゃがみ込んでも無駄よ」


 パトリシアさん、あんたには慈愛の心はねぇんですか?何だか急にお雹さんの着物姿が恋しくなってきたよ~……。


 「私泊まりま~す!」


 すげー元気よく目の前の3階建ての宿屋に入っていくこいつを俺は一生恨む。


 「一泊銅貨5枚ね」


 「安っす!さすがベッドタウンね!……あれ……ちょっと……嘘でしょ……あれ!!?……」


 何かやけに騒がしく自分の体中をまさぐりだしたぞこいつ……まさか……。


 「サイフ落としたあああ!!!」


 うわーハードラック、ご愁傷様でーす。


 「しかも剣1本と銃も忘れてきたあああ!!!」


 今さら!?気付くの遅っそ!!


 「こんなところで発動しないでよ~私の不運~……」


 経験者だから言えるが、不運とはいつどんなタイミングでやってくるか分からない。


 お湯が沸騰したのと電話が鳴るのとインターホンが鳴るのと猛烈な便意が催すのが同時に来る一人暮らしの人くらい最悪の不意打ちでやってくる事はざらにある。


 俺が大男を斬った時に持ってた剣はこいつに返したが、そういえば何か足りない気はしてた。


 俺は元疫病神としてここはひとつ、不運に見舞われたパトリシアに慈悲深く肩をポンと置く。


 「……何よサトル……」


 「俺と野宿だな」


 「いやああああああ!!!!!」


 いやいや傷付いた彼女の心を癒しに来たのに何で俺が心傷付くの!?そんなに拒絶すんなよ!!


 「でもどうしようも無いだろ、後はこの剣売るとか」


 「それはダメ!!……これだけは……ダメ……」


 何か深い事情あるっぽくシリアス感醸し出してるけど、受付の目の前でコント炸裂させんなよ迷惑だろ。


 「おやまあお兄さん、お金無いのかい?」


 「え、ええ……」


 「宿無しはかわいそうだね……いいよ、ウチで泊まっていきな!」


 「え!!」


 いや一番にお前が反応するなよ、どこがお兄さんなんだよ。


 「で、ですけど……」


 「宿の街で旅人を野宿させるなんてベッドタウンの名が廃るよ!さ!部屋はひとつ空いてるから、ここはウチからのおごりだよ」


 一!!発!!大!!逆!!転!!


 こんな奇跡が起こるのか!?奇跡とは無縁……いや奇跡の連続だったけど、良い方の奇跡とは無縁だった俺からすれば何たる奇跡!!!!


 「あ……ありがとうございます……」


 受付のおばちゃん善い人過ぎる!!この無言のガッツポーズは誰にも止められない!!


 「あのぉ~、私もお金無くてですねぇ~」


 「部屋埋まったから別のとこいきな」


 うわぁおばちゃん対応の温度差ハンパねぇ……。


 「うっ……この際こいつと同室でいいから泊めてよぉ!!!」


 泣きそうになってる……いかんいかん、笑いは堪えろ……。


 「いや、金無いのに図々しいねあんた」


 「何でそうなんのよおおおおお!!!!」


 おばちゃんグッジョブ、俺もこんなじゃじゃ馬エルフと同室とか寝れなさそうだし……寝相とイビキすごそう。


 「それより大事なモン取りに戻れよ、押収されちまうぞ」


 「もうやだあああああ!!!!」


 そう叫んだパトリシアは羽を広げて飛んで王都に戻り、俺はおばちゃんの慈愛により無事チェックインした。

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