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032 最後の闘い

 「あ……パトリシア!!」


 フィルを置き去りに走ること3分ちょい、恐ろしい数の階段を下り、ついにダンジョンみたいな洞窟の最深層へ辿り着く。


 そこには気を失い、磔にされたパトリシアが祭壇を思わせる部屋の中心の盛り上がりに立てかけられていた。


 「今助け……ぬあっ!!」


 「サトル!」


 松明が並ぶこの祭壇の階段を上ろうとすると、目に見えない壁に防がれて弾き飛ばされた。


 まあ当たり前だけど、一筋縄で行くわけが無いか……。


 「待ってた、待ってたよ、サトル」


 声色は全く同じだが、口調が全然違ったから最初は本人かどうか疑ったけど、姿を見て確信に変わった。




 ──最後の敵、お雹さん。




 「何でこんなことをしてるんだ!! 目的は何だ!!」


 「やれやれ、もうちょっと捻りのある言葉が欲しかったなぁ」


 そう言って右足を地面にタップするように音を鳴らしたお雹さん。


 すると階段前に何だか火花みたいなのが飛び散った。


 「バリアは解いたよ、さあ、来て」


 「……何だよ……」


 「気を付けてよサトル」


 「おう」


 全く意図が分からない……防いでいた壁をわざわざ消して、求めるように俺を呼んで……調子が狂うな……。


 でも近付けるならば、罠でも乗り込まない手は無い。


 俺は弱い、なり振り構っていられるか!


 「はっ、はっ……」


 結構急勾配な階段を上り、本当に壁が無くなった事に驚きつつ1歩1歩踏みしめる余裕なんて無いままパトリシアの元へと走る。


 樂ちゃんもやや苦しそうだったが、何とか付いて来られていた。


 「はぁ……はぁ……来たぞ」


 「ふふっ、ホントに来てくれた」


 何が嬉しくて笑ってるのか知らないけど、イメージが変わりすぎて若干混乱する。


 多分この時点でもうお雹さんの手の平の上で面白おかしく転がされてんだろうな……。


 ただいきなりあらゆる要求を拒絶しても聞き出したい事は言ってくれないだろうし、とにかくパトリシアのために理解出来ている最善を尽くす他に選択肢は無い。


 「ねぇサトル、どうしてここに来たの?」


 和風要素は完全に消え失せて、まあまあな親密度の友達みたいな声のかけ方をするお雹さん。


 ホントに改めて見ると、樂ちゃんと瓜二つだよな……。


 「パトリシアを助けに来た」


 「それだけ?」


 「今んとこな」


 「私に会いにきたんじゃなくて?」


 「言い方はおかしいけど、まあそれも無くは無い」


 「こいつと私だったらどっちが優先されるの?」


 「パトリシアだ」


 「……ふーん……そっか……」


 病的に思えた目の色や喋り方で、何だかゾッとした。


 「ねえ、起きて」


 そう言って指先でチョンとパトリシアの手に触れるお雹さん。


 すると今度はパトリシアの体が動き出し、しばらくは覚まさないだろうと思っていたパトリシアが、何と目を覚ました。


 「うぅ……サトル!!」


 「……マジかよ……パトリシ」


 その名前を言い切る直前にみぞおちに直撃するお雹さんの掌底。


 俺は感じたことの無い痛みだけでなく、吹っ飛ばされて壁に背中を強打をした痛みとが掛け合わさり、このえげつない攻撃に悶絶するしか無かった。


 「ぐああああああああああああああ!!!」


 「サトル!! ……っあ、サトル!!」


 さっきお雹さんがパトリシアに触れた時に、同時に拘束器具も壊れていたみたく、すぐに振りほどいてエルフの羽を使って俺の元へ跳んでくるパトリシア。


 「しっかりして!!」


 「……はぁ……はぁ……ってぇ……」




 「何が……何がしたいんだお前は!!」


 取り残された樂ちゃんが激昂してお雹さんに向かって叫ぶが、どうやら耳に届いていないらしい。


 「あれ、死ななかった……割と本気だったのにな~……やっぱりそろそろ替え時かな」


 すると樂ちゃんの方を振り向き、1歩1歩踏みしめるように近付いて──消えた。


 「え……」


 絶対にさっきまで目の前にいたのに、まばたきの瞬間じゃなかったのに、いない。


 「はいお疲れ」


 ゾクリと恐れる樂ちゃんの背後から、両肩に手を乗せて驚かせるお雹さん。


 そして意味が分からなかった……お雹さんは急に倒れて動かなくなり、樂ちゃんは手をぎゅっぱぎゅっぱした後、ニヤリと笑ったのだ。


 「樂……ちゃん……」


 「そんな者はもう存在しない……ただの入れ物に与えていただけの知性だ、何せこの時のためだけに作られたんだからな」


 お雹さんと瓜二つな理由は、お雹さんが力が弱まった時に全盛期と変わらない思いのままな力を取り戻したという事だろう。


 樂ちゃんはただただ入れ物として、そのためだけの存在だったんだと……それが許せない。


 「くそ……」


 「私の目的はね、サトルに振り向いてもらうためなんだ……私はサトルが大大大大大大大だぁぁぁぁぁぁぁぁあああい好きだから、いっぱい頑張ったんだ……


 ……けどお前はまた失敗だ、やっぱりそいつを選んだ……欠陥品が……クソ……死ね、死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」


 怨念の渦に飲まれたお雹さんの視線とオーラがパトリシアに向かって放たれる。


 一瞬にして全身に鳥肌がブワッと立ち、とてつもない闇で覆われたお雹さんに恐怖を覚える俺とパトリシア。


 だが──


 「闘うぞパトリシア」


 「え? あ、当たり前じゃない!」


 「素手でやんのか?」


 「今何も持ってないし……安心して、私は素手が1番強いから」


 「やっぱりゴリラだったか」


 「誰がゴリラよ殴る!! ……ぷふっ、あはははははは……なんかこの会話、最初の時にしたわよね!」


 「だな……じゃあ思い出にバッチリ浸れたところで」


 「ええ……やってやるわ」


 最初で最後の、俺とパトリシアの共闘……相手は間違いなく最強の敵、お雹さん。


 「殺す~2人とも~」


 この時は俺もパトリシアも知らなかったけど、世界の命運をかけた闘いが、ついに始まる!! ────

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