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028 最強!!

 「……えっと……ドア……無い……よな……」


 気が動転している俺は、何をわざわざ当たり前な事を口に出しているのだろうか。


 あの女の魔法は〝どんなドアからでも行きたいと思った場所へ瞬間移動出来る〟能力だった、それは間違いない。


 だから説明がつかない……ドア無しで……瞬間移動をした事に。


 「……あの人からもらったモノは……全部半端物(・・・・・)だ」


 エリーの言葉もまた理解出来なかった、混乱してるのにさらにそこへ謎めいた言葉を入れないでくれ。


 ミラは大丈夫なのか……近付けない……こうなった以上どこから奴が現れるか分からないから、迂闊に動けない……。


 「……もう半分は……生きていく過程で得られる……伸びしろ……」


 え? 何だって? ゴモゴモ言われても分かんねぇよ、何だか大事な事っぽい発言なのかな、だとしたらマズいけど……。


 「は、は、は、……は……」


 フィルはどうにかしようと剣を握っているが、どこからどんな攻撃が飛んでくるか分からない今はフィルでも動けないらしい。


 樂ちゃんもミラの介抱に向かおうと視線は常にミラに向けられているが動けない……まあ無理も無い、俺と同じく樂ちゃんに戦闘能力は皆無だしな。


 「────」


 ……今一瞬だけ、ミラの小指が動いたように見えた。




   ※ ※ ※ ※ ※




 最強が好きだった。


 漫画でもアニメでもラノベでも、敵も味方も驚愕してしまう「最強」の存在が、好きでたまらなかった。


 ただそれは皆が好きだった、キャラ投票でも主人公より人気で1位になることもよくある事だった。


 そりゃやっぱり、人は強いの好きだものな、自分がどれだけ弱くても、そのキャラが最強ならば自分も強くなれた感覚があった。


 (かがみ) 悠希(ゆうき)──私は地球上では5000人に1人くらいいるまあまあメジャーな、両性症という、男女両方の肉体を持つ者だった。




 常に両方持っている訳では無い、睡眠に入って3時間後くらいに変化していき、30分もすれば性転換が終わっている。


 つまりごく一般的な生活を送っていると、日によってがっしりした骨格になったり、丸みを帯びる肉付きになったりしている。


 体は変わっても意識は変わらず、発症以前が男だったため恋愛対象は女だった。


 しかしこのいつまでも不完全な肉体を気持ち悪がり、靴箱に生ゴミやら机の上に中傷コメントを殴り書きやらは日常茶飯事だった。


 こんなことで、と思う輩もいると思うが、実際に激しく辛く、溜め込む性格だった事もあり、家のあるマンションの15階から飛び降りた。


 運良く木に引っかかるなども無く、アスファルトの上にぺしゃっと潰れた、らしい……もう死んでたから分からないけど。




   ※ ※ ※ ※ ※




 「本当に大変な人生じゃったのう」


 神様だと確信した、そんな優しい声音で目が覚めた。


 6畳の和室で、巫女の姿のその人──雹は私に聞いた。


 「欲しいものは何かあるかのう?」


 出来る範囲内なども言わなかったため、大抵のモノは得られるという事なんだろうと、ずっと欲しかったモノを考えるより先に言葉にした。


 「……最強の力」


 本当にくれた。


 万物を弾く右手と、全エネルギーを吸収する左手、これは試行錯誤すれば神の力も超えられる進化系最強異能力だと確信した。


 雹には返しても返しきれない恩が出来た……と思った矢先。


 「まあでも、それで転生したらその世界のパワーバランスは崩壊するから……お前は閉じ込める」




 何を言っているのか分からなかった……しかし気付けば白装束の格好で、ミラという新たな名前を持って、最強異能力だと思う力を持って、鏡の中に閉じ込められていた。


 雹のいる場所によく似た、謎の和室の鏡の中で、何年間も孤独だった。


 その後樂という存在が現れ、退屈しのぎにはなった。


 それから何十年も経ち、サトルが現れた。


 ここから私を取り巻く世界は大きく変化した。


 退屈なんてない、最高の世界で最大の冒険を最強の異能力と最良の仲間と共に。


 多分生まれてからかなり久しぶりに、胸が躍りワクワクしていたんだ。




   ※ ※ ※ ※ ※




 「…………っ……」


 「ミラ!!」


 普通ならもう死んでたっておかしくない致命傷を負っているのに……ミラは、息を吹き返したみたいに動き出す。


 「……はぁ……はぁ……はぁ……ははは……」


 笑っていた……力なんてもう脱けきっているに違いないのに、座り込み、そして立ち上がり、笑っていた。


 「……私……は……最強、だ……こんなの……で……くたばるかぁ!!」


 ミラは再起した……迫力はこれまでで最大級、多分今のミラが、今まで見てきた中で1番強いミラだ。


 「そう、死になさい」


 ドア無しの瞬間移動で一気にミラとの距離を触れるか触れないかの距離まで詰め、真正面から腹にナイフを刺────


 「やらせるかぁぁあ!!!」


 ──す直前にミラが右手でエリーの手からナイフを弾き飛ばす。


 「なっ!?」


 「らぁぁああ!!!」


 どうやって反応したんだよっていう反応速度をそのままに、左手でエリーの首根っこを掴み、力の限り握りしめる。


 「っが……ぁ……」


 「てめぇの生気吸収してやるよぉぉおお!!」


 言葉の通り、ミラはエリーから生気を吸い取ってるのだろう……ものすごい速さで深い傷が治っていってる。


 対するエリーはものすごい速さで老けだし、髪は白く、顔はしわが増え、体中が細くなっていく。


 「っぐ……」


 だが何とかエリーは瞬間移動で脱けだし、距離を取って……ミラはすぐに追いつく。


 「トドメだぁぁああ!!!!!」


 エリー渾身の右拳が、弱っているエリーのみぞおちにズドン! と打ち込まれた。


 弾き飛ばす右で殴られたのだから当然エリーは吹っ飛び、壁に背中を激しく打ち付けて顔面から地面に落ちる。


 死んではいないだろうが、戦闘不能へと一瞬で追い込んだ。


 「……ははは……どうだ……」


 こちらを振り向いたミラの表情は、狂気的などではなく、やりきった後の笑顔だった。


 「私は最強……だろ?」


 「……そうだな、最強だ」


 何とか第1関門突破した俺達は、すぐに気絶した死闘後のミラのために、少しこの部屋に留まった。

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