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023 外してくれ

 はいどうも、俺の名前は疫病 理、多分世界一不幸だった男です。


 そもそも名前が不幸の象徴みたいなものだからもう仕方ないものだと半ば諦めた日々を過ごしていました。


 2度目の人生はまあまあ幸運、窮地の際には力が覚醒したり、何故か俺だけ全てが許されたり、とてつもない人脈を確保したり。


 全くの無知であるこの世界で着実に金を稼ぎ、不幸とは遠く離れた場所で快適な生活を送る事を目標としていた。


 が、大した依頼も無く、これからって時に何だか物語の最終章みたいな雰囲気を全面に醸し出している冒険の真っ只中にある。


 頼むからこれ以上迷惑をかけないでくれ……。


 パトリシア、お前は何故出会った時からそうやって不幸時代の俺を彷彿とさせる不幸っぷりを見せつけてくるんだ。


 しかし運以外はめちゃくちゃスペックが高い。


 むしろ運に全振りしている俺の方が役立たずだ、運とは結局自己満足でしかない。


 ……なんて考える余裕があればよかった。


 アホのフィル君が俺の目隠しと拘束だけ解かずに崖から突き落としたのだから、あり得ない恐怖感が襲ってくるわけでありまして。


 今俺は空中でピタリと静止している状況だ、無論足が着くかどうかなんて分から着いた~。


 余裕で着くよ、膝伸ばさなくてもいけんじゃんこれ、だったら何故ここで止めた、静止するのはグッジョブだけどそっから地面に落としても怒らなかったよ。


 今はまあまあ怒ってるよ。


 「ここが〝獣山界(オーヴェリー)〟か……」


 格好つけてないで俺の拘束解いてくれよフィル君。


 「いよいよだな……」


 うん、いよいよだから解いてくれよ樂ちゃん。


 「この先は相当危険だ、気を引き締めるぞ」


 気は引き締めるけど縄は緩めてくれよミラ。


 何、皆揃って俺のこの状況を分かっておられない? いや分かるやろ、さっきまで同じ目にあってたやん、なんかエセ関西弁になってるやん。


 いつまで続くのこの状態で。


 「なあサトル、この先見えるか?」


 見えねぇよ目隠しとれよ。


 「ね、ねぇ……手つないでくれ……ちょっと怖くて……」


 ビビってんじゃねぇよ、その手でまずこの拘束解いてくれないとつなげないよ。


 「進むぞ」


 だから解いてくれって念じてんだろうがよおおおおおおお!!!!!




   ※ ※ ※ ※ ※




 「くそ……不気味だな……」


 ちょっと待て、今の声あれだ、樂ちゃんをセクハラしたヤベー奴じゃんか。


 何ちゃっかり生きてんだよ、てか不気味って分かるって事は目隠しねぇじゃん、何でこいつが俺より自由なんだよ。


 「大丈夫かサトル、歩けるか」


 「なあフィル、俺は空気を読んだ方がいいのか?」


 「何の事だ、とにかく……この気配……来るぞ! 警戒態勢!」


 いやいや待て待てぇ!! 何が来るの!? 俺この洞窟がどんだけデカいのか分かんないけどモンちゃんクラスのヤバいの来るの!?


 「ピギャアアアアアアアアアア!!!!!」


 間違いなく聞いたことのある雄叫び、これは……ゴーベロスだ。


 さすがは普通に次元超えて来る怪鳥、来るの速いって。


 「な、なんだこいつは!!?」


 セクハラおっさん、リアクション担当としては及第点だけどもうちょいセリフ捻らせて。


 「くっ、ここじゃ狭すぎて〝勇者の信念〟は使えない……」


 無くてもいけそうだけどなー、何のイジメか知らないけどこうやって解説役に甘んじちゃうからいい加減にしてほしい。


 「なるほど……ほう、効かないか、強いな」


 え、あのモンちゃんを一発でぶっ飛ばしたミラが苦戦を強いられるのか? フィルのせいで大したことない印象だけどなぁ。


 「ヤバいよどうしよう……ふわぁ!」


 「おい貴様、どさくさに紛れて樂に触るな」


 「くそっ!」


 懲りないなぁおっさん……。




   ※ ※ ※ ※ ※




 その後、樂ちゃんがゴーベロスの弱点であるへそを発見し、ミラがダメージを加えて体勢を崩し、フィルがトドメをさすという活躍を見せて再び洞窟を進み始める。


 俺とおっさんなんて要らないだろって見事な連携っぽかったけど、怖いよ、目も腕も使えないんだから怖いよ。


 今も進んでるけど何が来るか分からな──


 「出口だ、長かったな……」


 速っ!!


 「どうしたサトル、もう少し喜んでも……お前……まだ拘束外してなかったのか……」


 もうツッコまない、結末は見え見えだったし。


 「な……すまない、完全に忘れていた」


 聖騎士としては怠慢だからねそれ。


 「だから足取りカスかったのかよ~」


 カスかったって……カスかったってぇ……。


 「そういうプレイが好きなのかお前」


 「お前は黙ってろよ!!!」




   ※ ※ ※ ※ ※




 「おおー……」


 久しぶりに視界が広がった俺が見た光景は、どこまでもが木々に覆われ、巨大な川が1本通っているだけの果てしないジャングルだ。


 アマゾンよりもすごいのではと思えるほどにとにかく色々デカい、デカすぎる。


 「樂、ここから人里は見えるか?」


 「……うん、すぐ近くにあるぞ!」


 樂ちゃんすごいな……。


 かくして俺達は〝獣山界(オーヴェリー)〟を進んでいくのだった。


 パトリシア今頃何してんのかな……。

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