002 邂逅
転生はしたが何も赤ん坊からという訳では無い、そこんとこの幼女お雹さんの計らいには感謝している。
しかし服装は階段から落ちて死んだ黒の学ランそのままのため別世界となれば違和感はあるのかもしれない。
目が覚めて俺が生まれて初めて目に焼き付けた記念すべき光景は、弾力のある人肌……えっと……。
「いやあっ!!!」
そして訳の分からないままに左頬に強烈な平手打ちを食らい、冗談じゃないくらいに吹き飛んでバス停らしき木製のポールに右側頭部を強打する。
「痛っ!!……たぁ……」
本当に不運ではなくなったのだろうか……出鼻はとりあえず挫く。
「ちょっと信じられないんだけど!?あんたわざと私の胸に飛び込んできたでしょ!?」
どうやら目を覚ました俺は外の地面に仰向けに倒れており、その顔面に女性の胸が乗り掛かったという状況な訳だ。
とりあえず、意味が分からない。
上下真っ黒でボタンの金色が目立つ俺がおそらくバス停らしき場所と思われる場所で仰向けに倒れているのがまず分からない。
のしかかって来たのは翡翠のように緑色の瞳で金色の髪を緑色のリボンでポニーテールに束ねる。
見事にくびれた腰ほどまであるジャケットらしき緑色の服を着て開けた肌にはほぼビキニのような黒の上半身。
下半身は膝ほどまでの白いスカートというファッションに身を包むほぼ同年代と思われる女性。
顔で感じた限りではかなりサラサラした肌の質感で、耳が俺……というか普通の人よりまあまあ長い。
さらに腰の左右には剣と思われるモノを二つ腰に差し、女性とほぼ同じくらいの身長のライフルを背負っている。
背負う紐が俺的には巨乳とは言えないが丁度良い大きさの胸の谷間に引っかかり、なんかグッとくる自分がいる。
女性は両手で胸を隠し、真白い肌を赤らめ恥じらいを含んでこちらを睨む。
「……すみません……」
どっちかというとそっちがぶつかってきた……と言おうと思ったが、見えるだけで武器を3つ所持する彼女を怒らせるのはやめようと下手に出た。
「はん!これだから人間の男ってのは油断ならないわね!」
そのせいか俺のせいで彼女の中で全ての人間の男は皆こういうモノだと認識された、人間の男達、ごめん。
───え?人間の男?
「あの……人間の男って……人間以外もいるの?」
「はあ?私はエルフじゃないよく見なさいよ」
……またよく分からない単語が出てきた。
ただでさえお雹さんの口から出てくる言葉でいっぱいいっぱいなのに……確か……人間ではなかったはず……こんなことならもう少し漫画読んだりゲームしたりするべきだった……。
「じゃあね、私はとっとと宿を───」
聞き慣れたといえばあれだが、皮肉にも人よりはこの音と縁があった人生だった。
俺の後方から大きな爆発音が鳴り響き、黒煙が天高く上っていく。
その煙を見上げてようやく気付いたのだが、この付近の建物は皆同じ構造で高さは20メートルほどに統一され、人が20人は横一列に並べられる程に広く馬では無いが馬車のような車が幾つも行き交う大通り。
ここは別世界の中でもかなり大きな大都市なんだろう……。
……いやいや感心してる場合じゃねぇ!!ものすごい人の数が爆発音がした方から逃げて走ってきてる……速く俺も避難を……。
「っ!!───」
頭の強打でややクラクラする体を立ち上がらせ走ろうとした瞬間、猛烈な速度で爆発音のした方へと走る人の姿が俺を横切る。
大きな風圧を受け思わず目を閉じ、振り返ると膝まで丈があるのに完全に黒いパンツがスカートがめくれて見えている、エルフと名乗る彼女だった。
「待って!!!」
来たばかりで人脈も何も無い俺がこのたった数分間で得られた唯一話した彼女を、俺は自然と心配になる。
爆発が恐怖なのに違いないが、来て早々爆発に出くわす不運を嘆く前に俺は彼女を追っていた。
───何も考えは無い、思考よりも先に足が動いていた───。
あらゆる人々が逃げる中、彼女と俺だけがこの大都市の人混みをかき分け逆流し向かっていく。
※ ※ ※ ※ ※
最初の角を右に曲がり、大きな建物が建ち並ぶ通りは爆発により崩れた瓦礫が道を塞ぐ。
壊れた建物は黒煙を上げ火が回り連なる建物に徐々に燃え広がっていく。
不運のせいで記録は散々だが元々足は速く50メートルも6秒前半(本番ではなく練習での記録)なのだが、そんな次元を超越したスピードで向かうあのエルフは、たった1人で瓦礫の前に立っていた。
「はぁ……はぁ……あ……」
燃え盛る炎が包む瓦礫の上には、おおよそ人間とは思えない巨躯と見るからに硬そうな肌を全身に纏い、大鉈を肩に担ぐ男が立っていた。
その瓦礫の下には中世ヨーロッパの兵士が身に着けていた風な甲冑を着て倒れて動かない者達がかなりいる。
槍や盾が辺りに転がり、血もあちこちに飛び散っている……。
「っはははははは!!!この俺は誰にも止められない!!!怖れろ卑しく愚かな人間共!!!」
意図は分からないがとにかく破壊活動をしたのはこいつだと分かった……だがどうする?武器も無い、力では完全に敵いそうに無い、俺に止める手立ては無い……。
「そこまでよ悪党!」
エルフと名乗る彼女は、後ろからは分からないがきっと怒りに震える表情をして言ったに違いない、声がそんな感じにはっきりと聞こえた。
そして背負うスコープの付いてないライフルをバズーカのように右肩に乗せて右手だけで持ち、男に銃口を向けて構える。
きっと本来の使い方では無いだろうがそれで対抗するつもりの彼女は、こちらを振り向く事無く戦う姿勢に入った。
「エルフの女ぁ?……くっくっくっ、おいおい何の冗談だぁ?……死にてぇのか」
「お前程度なら容易に勝てる、壊した分は弁償しなさいよ」