015 モンちゃん
こいつの不運はとことん俺たちを窮地に追いやる、それは分かっている。
俺も自分の不運で幾多の人達に迷惑をかけてきた。
俺に根本的な理由が無いからこそ、俺から始まった不運と呼ばざるを得ない現象で迷惑をかけてきたから、その度に罪悪感を感じてきた。
罪悪感を感じることが美徳という訳では無いが、感じないのは失礼でもあると思う。
それが無いアホだから今こういう現状になっているのだ。
「グオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
何故俺とパトリシアが、怒っている50メートルもの巨大な体長の牛と対峙しているのか、その理由は3日前のパーティーまで遡る。
※ ※ ※ ※ ※
「い……痛い……」
はっちゃけるパトリシアはパーティー会場にてやや変な空気をさらに悪くする。
なんやかんやで俺に向かって投げられたナイフを幸運にも俺はかわしたが、その先にいた国王の頬をかする。
これに激昂した王はナイフを投げたパトリシアと避けた俺を会場から強制退出させる。
王国民が国王を護らなかった事が反逆罪だとされ一時はギロチンで首ちょんぱかとされたが、王妃様とフィルの働きかけにより命は救われた、本当にありがとう!!!!
そのかわりとして、何でも屋としての仕事として依頼されたのが研究室から脱走した突然変異の牛、モンちゃんの捕獲だ。
何人かの騎士が半年前から何度もモンちゃんを捕獲しようと試みるがことごとく失敗し、死者も出ているらしい。
国王お気に入りのペットの一匹のためそれを捕獲出来たなら報酬として無礼は無かった事にされるらしい。
※ ※ ※ ※ ※
という訳で王都オルネシア付近の森林の洞窟に潜伏するモンちゃんを追い求め、洞窟前でバッタリ遭遇した俺たちだ。
「お、思ってたよりデカいわね……」
「何でこれをペットにするかなあの国王は……」
すごい興奮状態のモンちゃんは鼻息荒く、恐らく何色を見ても今にも襲いかかって来るだろう。
いや待て、闘牛の牛って赤に反応してるんじゃなくて動くマントに反応してるんだっけ?どっちだ?
「まあでも可愛いものよ!ゴーベロス見た後じゃちゃちく見えるわ!」
「見えねぇよ距離感違いすぎるだろ!!」
「グオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
「うわああああ!!!!」
とてつもない咆哮で体がすくんだ俺は頭を抱えてしゃがみ込み、高速道路の車くらいの速さで突進してくるモンちゃんを迎え撃つ。
もちろん何も出来ない、普通に死ぬと思った。
「……あれ……」
しかしモンちゃんが俺に襲ってくることは無かった、かわりに……
「何でこっちに来るのよおおおおお!!!!!」
羽で飛ぶ事を忘れたのか、森中を走り回ってモンちゃんと鬼ごっこするパトリシア。
森中の鳥は森から逃げるように飛び立ち、獣達も森から逃げるように暴れ回る。
俺は誰かの不運に、初めて感謝した。
「ちょっとサトル!!早くこいつを何とかしなさいよ!!!!」
「いや無理、無理無理無理無理無理無理無理」
麻酔銃も無い、パトリシアのいつもの装備は殺しかねない、支給されたのは捕獲網のみ。
詰んだ、これあれだ、国王の策略だ。
合法的に俺たちを殺そうとしてやがる。
「じゃ、後はよろしく」
「いやあああああああああああああ!!!!!」
パトリシア安心しろ、性的な意味で襲われる事は無い、モンちゃんはメスだ。
俺は逃げ足速くモンちゃんが巣穴にしていた洞窟の中へと入っていく。
※ ※ ※ ※ ※
「嘘……だろ……」
確かにモンちゃんが入る洞窟なのだからすごい広いとは思っていたが、想定外の馬鹿デカさだ。
奥へ進む度に狭くなっていくが、最も狭くても音がよく響く。
捕獲網はあの馬力に耐えられるそうだが本当に捕獲出来るのか?何て考えながら俺は暗闇の洞窟を奥へ奥へと進んで行く。
※ ※ ※ ※ ※
果たして何分経っただろうか……壁に手を当てながら曲がりくねる一本道を歩いていく。
息が切れて口呼吸になっていく、ところどころ足場が水たまりになっている、目が慣れて道が見えてくる。
何かに取り憑かれたように、引き寄せられるままに無心でただただ進んで行く。
やがて仄白い光が見え、吸い込まれていく感覚を覚えながら光の輝く方へと歩く。
「……え……」
突然光が抱きしめるように俺を包み込み、視界全体が真白く輝いたため目を瞑る俺。
※ ※ ※ ※ ※
気が付くと、俺は見慣れた畳の上に座っていた。
目の前には見慣れた幼女が巫女の服装でこちらを驚いた顔で凝視する。
しかし同じ声で最初に聞いた言葉は、思っていたモノとは全く異なっていた。
「───だ、誰だお前は!!!」




