013 パーティーへ
「ちょっと、何で私ヒロインなのに前話一切出なかったのよ」
「お前が酔い潰れるからだろ」
「む~~……こうなったら……お色気路線にキャラ変えようかしら」
「それだけはやめろ」
「いいえ脱ぐわ!それで私の出場機会が増えて願わくば主人公の座も」
「それはやめろおおおおおおおおお!!!!!」
※ ※ ※ ※ ※
「……何だ今の夢……」
※ ※ ※ ※ ※
王妃様がここへ来てから今日でちょうど1週間が経つ。
今日はゴーベロス討伐の功績を称える勲章の授章式が王都オルネシアの王宮内で行われる。
しかし招待されたのは授章式後のパーティーであり、さすがに式典に呼ばれる事は無い……王宮内で行われる如何なる神聖なる儀式に、王貴族及び騎士団以外が踏み入れる事はあってはないらしい。
平民の俺とパトリシアはパーティーが行われる夜に、家に王妃様が迎えに来てくれるらしい。
そちらの方が金はかからないし便利だ、と言われ、リアクションに困る俺の愛想笑いが承諾の意を成してしまい現在に至る。
服は無いのでわざわざ王宮でコーディネートしてくれるそうだが、平民の招待客にそこまでやるものか普通?
ともかく王妃様がいつやってくるか分からない家の中で俺達はおちおちトイレにも行けない。
フィルから報酬としてもらった金貨50万枚という巨額は、内49万枚をヒブキの街に寄付した。
うちのアホエルフが迷惑をかけたのでそのお詫びも兼ねているが、当のパトリシアは不満を漏らしていたがもちろん話は聞かない。
相談無く問答無用で寄付に出した後に、その腹いせか何なのか何でも屋の活動資金として使おうとした残り金貨1万枚を全部使って、訳の分からない犬っぽい何らかのペットを買ってきやがった。
血統書付きでこの世界で最も希少な動物である〝フーミリー〟という、トイプードルくらいの大きさの四足歩行の動物だ。
見た目は柴犬だが体毛が緑と白で、特に尻尾は胴体とほぼ同じ大きさでもっふもふなのだ。
不運な人生を送ってきた俺にとっては犬っぽいそいつは噛まれるイメージしか湧かなかったのだが、俺にめちゃくちゃ懐いてくれる。
そして買ってきたパトリシアには全く懐かない。
何故買ってきたのか理由を聞くと、「子供の頃から飼うのが夢だったから」だそうだ。
賢い動物だから世話は焼かないが、一番問題なのは懐かれてないと理解していないパトリシアのそいつに対する過度なスキンシップだ。
いつ家出してもおかしくないほどに追い詰められてくるやもしれないと、世話は基本的に俺がする事になった。
名前はパトリシアが散々悩んだ挙げ句〝マサムネ〟となった、理由は適当に思いついた割には語呂が良いからだ。
そしてマサムネを加えた俺達は激動の1週間、全く依頼など無くパーティーの日を迎えたのだ。
※ ※ ※ ※ ※
「お待たせ~」
ドアにつながる部屋さえ指定出来ればどこでもいいのか、窓から王妃様は現れた。
「あ、変なとことつながった」
今回のは王妃様の凡ミスらしい。
「な……何で窓から……」
あ、パトリシアはこれ見るの初めてだったな……俺も何も言わなかったなそういえば。
やはりどうみても48歳には見えない若々しい姿と、これからパーティーなのかと疑わざるを得ない先週と全く同じTシャツ短パン姿。
「……ねぇ、ホントにこれが王妃なの?」
「マサムネに聞くな俺に聞け」
失礼極まりなく王妃様に指を指しながら何故かマサムネに向かって質問するパトリシア。
「ほう、フーミリーか……実物は初めて見たな……」
王妃様の部屋と思われる場所からこちらに渡って窓を閉めた王妃様はマサムネの顎下を撫でる。
マサムネもまんざらでも無いのか、ものすごいキャッキャと喜ぶ訳では無いが目を閉じて堪能しているように見える。
ちなみにマサムネはメスだ。
「へぇ~、王がおじいさんだから王妃もおばあさんなのかと思ったけど……若いわね……40後半くらいかしら」
何ぃ!!?こいつ予想を的中させやがった!!
「……そうだな」
アンチエイジングケア出来る化粧品の通販のCMとは比にならない詐欺感なのに何故こいつには分かった!!?
「では行こうか」
裸足の王妃様は仕事部屋の窓からふすまに向かい、開けるとやはり先ほどと同じ部屋がふすまの先に広がっていた。
「え!?……えっ……えぇ……え?」
驚きすぎて「え」しか言ってないパトリシア。
そんなパトリシアよりも心は大人なマサムネを留守番させ、ついに平民がそこに足を踏み入れることは全うに生きていれば間違いなく縁が無い王宮内へと向かっていく。
※ ※ ※ ※ ※
「中々似合ってるじゃないかサトル」
俺はフィルが待機している部屋へと招かれ、人生初のタキシードを着た。
鏡に映る自分が黒の蝶ネクタイが意外にも似合っていたので少し嬉しい。
「いやでも……フィルの方が様になってるな」
「ははは、ありがとう……俺は昔からよく着てたし、これはこの日のための特注のタキシードだから似合ってないとね」
この日のためのオーダーメイドって……他の時には着ないのか……すげぇ、やっぱり金あるとすげぇんだな、どこの世界でも。
「ねぇ見てよこれ!!すごくない!!?」
緊張感を台無しにしてくるパトリシアは、名前は知らないけどすごく上品な髪型もなっている。
顔も普段全くしていない化粧を施され、高そうな水色のドレスに身を纏う姿に、俺は不覚にもかわいいと思った。
「どう!?似合ってるかしら!?」
「おお、かわいい」
しつこいくらいに見てくれの感想を迫ってくるので素直な感想を言ってやった。
「あ……あんたに……そ……そんな、かわいい……とか……言われても……嬉しくもなんとも……」
照れんなよこっちが恥ずかしいわ!!!!いやいや落ち着け俺……冷静に、冷静に切り返して緊張感を取り戻せ……。
「素材は良いんだから当たり前だろ、黒髪だったら一目惚れしてた」
「そ、そんなに褒めたって何もあげないわよも~~~!!」
別に欲しくないけど結果的に緊張感は取り戻せなかった……あ、よく見たら爪も何か施されてる……全然気づかなかった。
「フィルはどうかしら!!?」
「え……えと……あ……あえ~っと……そ、うん……そう……す……すご、く……良いか、感じ……ななんじゃないかな?……」
うぉいこの距離でテンパるなよ5メートルくらいなんだから!!
「あれは……惚れたな」
王妃様もバカなこと言ってないで早く着替えなさいよ、何でまだTシャツ短パンなんだよ。
「……じゃ、じゃじゃじゃ……い、行こうか……」
「ねぇ、フィルどうしたの?」
「お前、お色気路線とかやめろよ」
「何の話よ、そんなの行く訳ないでしょ」
パトリシアを見た瞬間からずっとアガりっぱなしのフィルを先頭に、俺とパトリシアはついに平民がお目にかかる事がまず無い、パーティー会場となる王宮の広間へと向かっていった───




