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012 王妃

 前回のあらすじ、うへぇ。


 「って言ってねぇよ」


 「どうかしたのか?」


 「あ、いえこっちの話なので……」


 話を戻そう……今この人王妃って言ったよな……つまり……国王の妻、だよな……。


 「意外と若いんですね……」


 「お、嬉しい事言ってくれるじゃないか」


 いや違う!!いや違わないけど!!もっと言うべき事あるだろ!!


 顔の見た目は完全に20代後半から30代前半くらい、格好は芸能人のオフみたいな軽装、そして漂う大人の色気……。


 おばちゃんの宿で見た、遊園地の特撮ショーのポスターみたいな遊び心ある王国の宣伝ポスターに載ってた国王の顔は立派なおじいさんだったから夫人も近い年齢なのかと思い込んでいた。


 いやだが、オフっぽいけど仮にも王妃様の前で高校のワイシャツ姿の俺大丈夫か?というか1ヶ月もあったのに高校の学ランワイシャツズボンしか着てこなかった俺何だよ!!?


 ヒブキの街デカいんだから服買えよ!!……あ、買う金がなかったんだった。


 「どうした?私の胸に何か付いているか?」


 「へっ!?……あ、いやいや違います!」


 「違うということはやはり胸を見て興奮していたのか?」


 「いやそれだけは無いですマジで」


 「そこまで冷静に返されると傷付くぞ」


 「あ、いやその決して害意があった訳では……」


 いつの間にか考え事をしていてボーッとしていた俺は王妃様の胸を覗いていたらしい。


 確かに豊満で魅力的な谷間だが、黒髪では無い上に人妻なので性の対象としては除外される、俺の周り黒髪がいなさすぎて好きな子とか全然出来ない……不運が失せた思春期としては悩ましい。


 「き、今日は何故ここに……」


 「フィルちゃんがお手柄だったそうだから祝いに来たんだ」


 ん?フィルちゃん?


 「しかし偶然だな、聖騎士のフィルちゃんが何故ここに……」


 「あの……フィルちゃんって……」


 「フィルシアス・グリーズマンだが?」


 「……親しい仲なんですか?」


 「ああ、はは……秘密だ」


 何故もったいぶる!?フィルは転生者だから親子や親族では無い、しかし詳しくないが聖騎士と王族は接点はあるに違いない……この国を挙げての功績なら後に王都でも勲章受章式でも行われて相見えるはずだ……。


 わざわざお忍びでその日の内に来るほどに親密な関係なのか……転生した頃は11歳らしいから端から見れば孤児(みなしご)のフィルを救ったとか?


 まさか……不倫関係……いやいや無い無い、女性とサシになるとコミュ障炸裂する男だぞ?まして存在するだけで男を魅了する魔性の女だ……。


 やばい、今日の俺脳内独り言激しいな、疲れてんのか。


 「おーいサトルー!……あ……」


 そして酔い潰れて幸せそうに眠るアホエルフをおぶったフィルが現れる、タイミングが良いのやら悪いのやら……。


 「フィルちゃん、お手柄だったな」


 「……母さん……」


 ふぇ?




   ※ ※ ※ ※ ※




 とりあえず立ち話も何だしという訳で僭越ながら我が家に王妃様を招いた俺である。


 パトリシアは寝室で布団広げずに畳の上に置いておく、寝違えろ、何で俺の分の肉まで食ってんだおい。


 恐ろしいと称される食べ物の恨みを軽めに抑えた紳士の俺は仕事部屋に、今出せる最高級の粗茶である水道水を一見豪華そうに見える安物のグラスに注いで王妃様に差し出した。


 「……水か」


 「弊社ではお客様の好みに対応すべく、好みの分かれない水を提供しています」


 「そうか……貧しい店なのだな」


 「滅相もございません、お得意様として聖騎士様であらせられるフィルシアス・グリーズマン様を始めとする各界の著名人から贔屓にしてもらっています」


 「強がらなくていいぞサトル、母さんは気にしないから」


 「えそうなの?」


 「あと母さんは王妃なのにお茶とか嫌いだから水は正解」


 「お、おう……」


 それは本当なのかは知らないが、とりあえず出した水は飲み干してくれた。


 「けど母さん、また王に黙って来たの?」


 「問題ない、あの国王(ジジイ)は今頃激務に追われてる」


 今国王って書いてジジイって呼んだよな、夫婦仲悪いのか?皮肉か?どういうことなんだよ……。


 「〝獣山界(オーヴェリー)〟の獣の肉なんて初めて食べたが……今まで食べてきた全ての料理の中で1番美味だった」


 「だよね!俺も今までで1番だったよ!」


 「あの完全にスルーしてますけど、母さんって何なんですか?」


 「あ、ごめん……俺が転生して右も左も分からない時に拾ってくれた恩人なんだ……」


 そういうことか、ママ活するくらい聖騎士って肩身狭い儲けなのかと一瞬思ったぞ。


 ……え?今転生って言った?この人の前で転生って言って大丈夫か?


 「聞いてくれよ母さん、サトルも転生者なんだよ!俺達と同じ!」


 俺〝達〟?


 「それからサトル、母さんも転生者なんだよ!」


 転生者ってそんなメジャーな存在なの?俺を蚊帳の外へと置いていかないで?


 「ほう……まあ、それについては後日聞こう、今日はこれを渡しに来た」


 短パンのポケットからクシャッとしてるすごいお値段そうな、王印の押してある封筒を俺に手渡した。


 「……ごめん訳して、まだ読めないから」


 転生者ってのがタブーかもしれないと伏していたため文字が読めないとは言えず誰からも教わってこなかった。


 「ああ……え!?受章式の招待状だよこれ!!」


 「受章式?……はあ!!?」


 確かについ数時間前にゴーベロス討伐の受章式やるみたいな話は聞いたけど……こんな恐れ多い式典に俺が!?


 「2人分って事は……サトルとパティが……でもどうしてこんなに早く……」


 「フィルちゃんが誰かのご迷惑になってるに違いないと思って、一応2人分用意していた」


 用意周到すぎる!!なんだこの母親力!!?


 「じゃあ帰るね」


 「あ、お車を」


 「あー要らない要らない」


 「母さんは空間転移の魔法が使えて、何でもいいからドアを開けば指定の部屋なんかに移動出来る……その指定の場所にドアさえあればどれほど距離が離れていようが行くことが出来るんだ……


 ……しかも魔力消費は距離じゃなくて回数だから、神出鬼没で鬼ごっこなんかしたら無敵だよ」


 いや鬼ごっこに特化してる訳じゃ無いけど、なんだその規格外な魔法……未来のロボットが腹のポケットから出すアレみたいな能力じゃねぇか。


 王妃様が立ち上がりふすまを開けた先には見慣れた廊下ではなく、絢爛豪華な部屋に通じていた。


 「それじゃあまた来週……あ、坊や何か勘違いしてるみたいだから言っておくけど……



 ───私は48歳だよ」




 ……ほえぇ?

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