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【10】心機一転



 季節が一つ変わり、王都の短い夏が終わる頃。

 体調の回復と同調するようにベルタはめきめきと元気を取り戻した。


「王太后さまにお見舞いのお礼をしなくちゃね。こちらからお訪ねして良いか手紙を書いてくれる?」


 心の疲れは体の不調から。妊娠出産という人生最大の身体的負担を受けた今回のベルタは完全にこれだった。

 逆もまたしかりであり、体の不調も心の疲れから。体調の回復が遅々としてしまったのもその負の連鎖ではあったが、とにかく憑き物が落ちたように平常心を取り戻せば全部が過ぎたことだ。


「姫さま、起き上がれるようになったからと言ってすぐにご無理は禁物です」


 一つ悩みがあるとすれば、弱っていた時期に心配をかけすぎたせいで、周囲の者たちがベルタにとても過保護になってしまったことだ。これは体調が回復しても中々戻らなかった。


「起き上がるお許しをあなた達からもらったのは3日も前だし、いい加減安静にしているのも飽きたわ。医者だってもう本復してるって太鼓判を押してるのに」


「姫さまは平気そうに見えていきなり夜中にお熱を出されるではありませんか」


「私が5歳くらいの頃の話ね」


 弱りきって心細かった時、ベルタは自分が周囲からどう見られているか気遣っている余裕がなかった。


 優しくされるまま寄りかかっていたのだが、こうして正気に返ってみれば、どうにも甘やかされすぎていた気がして周囲の優しさに後から恥ずかしくなる。


 しかもベルタが気が付かないうちにいつの間にか、新しく増員された女官たちもやたらめったらベルタに甘くなっている。


「妃殿下。王太后さまにこちらにお運びいただくのはいかがでしょう。王太后さまはルイ王子にも会いたがっておられるようですし。ルイ王子はまだお外にはお出になれないので、王子が理由ならばこちらにお呼び立てすることも非礼には当たらないかと存じます」


 ジョハンナの提案に、他の新人女官たちも乗り気の様子だ。


 カシャの侍女たちの過保護さはまだわかる。彼女たちはベルタが幼くて病弱だった頃のことから知っているし、この王宮では運命共同体のようなものであるし。


 だが、本来的には古参貴族の派閥からあぶれかけていた者たちの寄せ集め集団であるはずの新人女官が、なぜ数ヶ月でここまで団結を深めているのか。


 おいたわしいカシャ妃。

 王家に男児をもたらした得難い功績に対して、国王陛下のこの仕打ち。

 ましてあの正妃が混血の王子を育てられるとは思えない。


 ベルタが国王に失望したように、ベルタの周囲の者たちはみんなベルタに同情的になっていることを、本人だけはあまり自覚していない。




 あの国王との応酬の直後、ベルタはなりふり構っていられず、迷わず生家の父に手紙を書いた。

 婚家での問題で安易に実家を頼るべきではないという考えはあったが、今回ばかりは手段は選んでいられなかった。


 正妃に息子を奪われてしまいそうな現状を伝え、王宮内で母子一緒に静かに暮らしていけるよう力を添えてほしいと切々と訴えた。


 外戚になる野心などさらさらなかった父。王子誕生を内心誰より苦々しく思っているだろう父が、力を貸してくれるかどうかわからなかった。


 ベルタの頼みごとこそまさに、王子の外戚としてカシャが王室に介入することに他ならない。 


 訴えたところで黙殺されてしまう可能性もあると思っていたが、手紙を読んだ父は極めて迅速に動いてくれた。

 可愛い娘の頼みごとなら仕方ない、と言って。



 どうしてそうなったのか詳細は知らないが、父が動いたことで王太后がこちら側についた。


 本当にどうしてそうなったのか分からない。王太后とベルタは、第二妃としての輿入れの際に対面して以来当然のように没交渉だった。


 順当に考えれば王太后は正妃の肩を持つはずのお方だ。王太后自身、最高身分の貴族の出自であって、数代も遡れば正妃マルグリットとも血縁関係のあるような血筋の人だった。


 父からの手紙で王太后がおまえの後ろ盾になる、と書かれていた時は半信半疑の思いだった。

 けれど実際王太后はこの宮まで足を運んでくれて、半病人のように臥せって生活していたベルタを見舞った。


 王太后が足労して第二妃を見舞ったという話はすぐに広まったらしく、それ以来ベルタを煩わせる正妃の派閥からの横槍は止んだ。


 何より、王太后が動いてくれたことで、他でもない国王の一存で王子を取り上げられるような事態にはなりづらくなった。そのことはベルタを何より安心させた。


「王太后さまからご返答をいただきました。喜んでお招きをお受けすると」


「そう。美味しいお茶を用意してね。王太后さまのお好みもあちらの女官に聞いておいて」


 突如予期せぬ形で始まった王太后との交流ではあるが、ベルタは立場としても個人的な感情としても王太后のことを歓迎している。


 個人的に会話をしたのは前回見舞いに来てくれた時が初めてだった。

 王太后は、この王宮の人間では数少ない、ベルタへの対応が穏やかな人だった。


 


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