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第七話「軍議」

 それにしても外は何というか、レンガ造りの二階建てのボロい家が並んでいる。中世の街並みといえばドイツの何とかブルクだったかな。名前は出てこねえ、けどまあいいか。とにかく、昨日俺が居た、生まれ育った風景とは全く違う。新鮮に感じるが、それと同時にもう戻れねえのか、とも強く思った。

「なにボーっとしてるんですか。なんか気になるものでも?」

「いや、随分遠くまで来ちゃったなぁと……」

「遠くって、貴方はずっと軍人していていろんなところを転々としてたじゃないですか」

 ジョージ・ダグラスという男はどうやら歴戦の猛者のようだ

「そうですけど、やっぱ初見のところはね……。何度行っても慣れません」

「血染めのダグラス(ブラッディ・ドギー)の二つ名が泣きますよ、そんな弱気じゃ。千人居る配下の兵卒達も呆れちゃいますよ」

おいおい待ってくれよ、そんなの聞いてねえよ。それに血染めのダグラス? なんでそんな物騒な二つ名がついてるんだ……。

もうしばらく歩いた後、俺達は大本営と呼ばれる小さな城についた。守衛と思しき男四人がこちらへやってくる。

「ノベル様、ダグラス様、お待ちしておりました。将軍様の元へお連れ致します」

四人がこちらを向き敬礼をする。そしてその中の一人と俺たち二人は中へ進む。

小さいとは言ったが最初の門を抜けて中に入ると、意外と大きい事に気が付いた。高さとしても四階建てぐらいの大きさだし、中もまあまあ広い。

階段を上ると三階に大きな扉があった。

「将軍様、ダグラス隊長をお連れ致しました!」

「ご苦労、入ってきてくれ」

「将軍」なる男の声を聞き、俺とノベルはドアを開けて入る。

 中は普段自分が居る、もとい、以前居た教室ほどの広さの部屋で円卓が置かれている。自分から見て中央に髭面の男が居る。彼の左隣には丸坊主の小男、右隣には金髪で長身痩躯の男が、そして手前左側には、顔は見えないが長髪の男であろう人間が座っている。要するに俺とノベルは右手前に座ればいいのか。

「ノベルよ、貴様は戻れ。ダグラス、長旅ご苦労だった。まず座ってくれや」

 と、髭面の男が俺らに告げる。ここから俺の戦い、そしてこいつ等との共闘が始まる。胸は一瞬高鳴るがやはり不安の方が大きい。一番頼りになりそうなノベルが帰っちまったし……。



改めて円卓を囲むと緊張する。こいつらはかなり軍の中でも上位の人間だ。しかも一番奥にいる「将軍」と言う人間は国軍のトップとおもわれる、ということは国内でもかなりの権力を持つ人間に違いない。   

「ダグラスよ。今は肩の力を抜いておけ、どうせ戦闘になったら否が応でも緊張しないといけないからな」

「まあ、血染めのダグラスにとっては、戦場よりも軍議の方がつらいのかもしれませんね。僕もそんな感じですし……」

 俺の右隣にいるたれ目の大男がつぶやく。いかつい見た目と合わない随分柔らかな物腰や言葉遣いだ。

「そういえばお前はここの人間とは初対面か顔見たことがある程度だったな。とりあえず一通り自己紹介だけでもしておくか。まずはワシから」

 ナイス髭オヤジ! 今の俺には少しでも多くの情報が欲しい。名前が分かるだけでもかなり有り難い。さっきの発言的に、ジョージ・ダグラスってやつがここの四人とは過去に会ったことがほとんどないって感じだな。

「ワシはキム・スヴェードバリ、この遠征師団の団長と第一大隊の隊長だ、大隊の方は副隊長が殆ど仕切っているがな……。もう年だし、お前みたいに先陣切って突撃とか派手な行動には期待しないでくれ」

 まずは将軍からか、なんかいかにも強そうな外見のわりにそんなことないのだろうか。

「いやいや、アンタ二週間前にも単騎で盗賊の群れに突っ込んでいったじゃないですか」

 俺の左にいる色黒のロン毛男が言う。

「い、いや。アレは向こうが二十人ぐらいしか居なかったし、こっちも急ぎだったからだ」

前言撤回しよう、このオッサンかなりの手練れっぽいぞ。まあ、将軍って言う以上、それまでの積み重ねがあったんだろうな。

「じゃあ右回りで次は僕が。僕はペール=オーラ・フリーデンと申します。後方支援を中心に行う第二大隊の隊長とこの師団の副団長を務めます。よろしくお願いします、ダグラス殿」

 と、温厚そうな見た目にたがわぬ優しそうな語り口で、俺の方を見つめる。この人は割と話しかけそうだな……と、考え込んでいると、フリーデンなる男がニヤリとして、

「あ、今『後方支援って楽そう』って思いましたね? でもですね、一番大変なんですよ。物資の輸送から進軍するルートの整備、部隊間や中央との連絡。面倒でたまりません」

 あ、なんか誤解されたようだ。

「いえいえ、そんなつもりはないですよ、フリーデンさん」

「ならばよかったです」

 フリーデンがニコッとしてこちらを向く。根に持たれたらどうしようと思ったが、そんなタイプの人ではない……気がする。

「じゃあ、ダグラスは最後で次はオレだな。オレはシェベスチアーン・セイコラ、第五大隊の隊長だ。よろしくな」

「こちらこそよろしくお願いします」

 右手を出され軽く握手をする。だが、陽気な声と裏腹に何か元気がないように見えるのは気のせいだろうか。

「ちなみにセイコラの第五大隊とお前の第四大隊は基本的に一緒で行動することが多いから、仲良くしとけよ。主に突撃したり特攻したりな」

 将軍からの横槍が入る。突撃、特攻って。俺どうなっちゃうんだよ……。それが嫌でセイコラさんなる人はテンションが下がっていたのだろうか。

「次は自分か。私はハンプス・ヨハンソンだ。徴兵された兵士がメインの第三大隊の隊長をしておる。まあ他にも従軍牧師のリーダーもしている。よろしく」

 丸坊主の小男が早口で言う。

「彼は文官として王都のヴァルカド・オーロ教区の司教もしている。この中だとワシらみたいな武官とはちょっと毛並みが違うかもしれんね」

 将軍の補足が入る。

「ええ、そうです。私の使命には教戒を施すことで兵士の心を癒やすという事もありますからね」

 と、咳払いをした後に彼が続ける。

(チッ、坊主がでしゃばるんじゃねーよ)

左のセイコラの方からボソッとつぶやく声が聞こえた。なんだったんだろう。

「ヨハンソンもお前と一緒に行動することが多いかもしれんからな、仲良くしとけよ。じゃあ最後に、ダグラス」

自己紹介といっても緊張する。自然体で、リラックスして……

「えー俺はジョージ・ダグラスです。第四大隊の隊長として本日より頑張りますので皆様、何卒よろしくお願いいたしましゅ」

あ、やべえ。思いっきり最後噛んでしまった。

「……まあ、こんなもんでいいか」

将軍がわずかに失望したと言わんばかりの視線を向けてくる。

(ダグラス殿、もう少し砕けた感じでよかったのに)

(まあ、次頑張れよ)

うぅ、両隣の慰めの声がつらい……。

「一応今日の軍議だが、自己紹介だけで終わりじゃないぞ。本題は今後の作戦についてだ。もうすぐ此処から仮国境近くのヴェルメッタに移動することになるが、そこからどうやって仮国境を越えて戦うかってところが今回問題だな。敵軍もかなり国境沿いに展開しているよう脚、一筋縄ではいかなそうだな」

将軍が説明と同時に地図を取り出し円卓の上に広げる。正直言ってここがどこかもわからないし、仮国境って単語の意味も分からんから俺には何を言えばいいのかわからねえ。けど、今後のために確認しねえと。

「セイコラさん、今は地図上でどのあたりでしょうか?」

「ダグラス、まさか地図すら読めないのか……。ここだよ」

隣のセイコラが身を乗り出して指をさす。

「将軍、とりあえず目印付けておいてよろしいですか? 一応書くものあるので……」

「ダメだ、地図は替えのものがないし、あまり書き込んで汚くなると後々面倒だ」

「いや、あとから消せるので」

俺は消せるタイプのボールペンを取り出し端っこで試し書きをして消した後、地図上に印を打った。

「なんだこれ、すごいな。どこにこんなものが……」

 将軍や他の三人が少し驚く。

「親衛隊にいたころに他国の商人から買いました」

 と、今知っているダグラスの情報を基に適当に誤魔化してみる。

「そうか、オレも帰ったら買ってみようか」

 興味津々と言う感じで、セイコラが俺からボールペンを奪い取り端っこに適当に落書きをする。

「なあ、ダグラス。その商人ってを紹介してくれや。何本か俺も買いてえわ。多少値は張るかも知らんけどよ」

「残念ですがセイコラさん。なんか随分数が少ない物のようで、次その商人に会っても手に入るとは限らないそうです」

ちなみにその他国の商人とは、学校の隣のコンビニの店員(中国人)だ。多分アンタは一生会うことがないだろう。そう思いつつ適当に話を切り上げてみる。

「まあ、ダグラスの話はもういい。話を続けよう。今ワシらのいるトースは、最終防衛ラインと中央の方でも言われている。とにかく、ここまで敵が来れば我がヴァルタール王国は崩壊する、ぐらいに思っておいてほしい」

 咳払いすると同時に、将軍が本題に入ろうと言って話を続ける。

「そうですね。ここが陥落すれば西の国境沿いの街や、東にあるリッカルデ鉱山、王都と三方向に敵がアクセスできますからね」

「そうだな。ただ相手は真っ先に国境沿いを抑えにかかるだろうが。アイツら(ノース・ヴィジャー)は財政的には安定しているらしいし、鉱山よりも穀倉地帯の西部を狙ってくるだろう。いきなり王都目がけて突撃も線は低そうだし」

「でもリッカルデはセイコラさんの生まれ故郷じゃないですか。そっちも多少は固めておかないと後から貴方が後悔しますよ」

「そうだけどよ、兵士も足りねえからそこまで手が回らないかもしれん。自分も守りたいのは山々だけどな」

やべえよ、話に一切ついていけてない。

その後、俺は話を聞き流しつつ適当に相槌を打ち続けた。そもそも地形も部隊の前後関係も分からんのだから致し方ない。申し訳なくは思うけれど……。

「で、おそらく敵は一週間以内に仮国境手前のヴォルシュ村あたりまでは来るだろう。多分ワシら遠征師団の七千人よりは多めに集めてくると思われる。どうやって戦うべきなのか、これに関してダグラスから意見が欲しい」

 え、俺にご指名か。どうするんだ……。それっぽいことを言っておこう。と、思っても何も意見が出てこない。どうしたらいいんだ、と俯いていると、

「ダグラスはまだいい。セイコラ、フリーデン。お前らはどう思う?」

 と、しびれを切らしたのか将軍が他の二人に話を振る。

「す、すいません。何しろ状況が分からないもんでして」

 と、適当に弁解してみるが、将軍の鋭い目つきは変わらない。

「まあいい。お前には最後に聞こう。セイコラ、お前はどう思う?」

 そう言ってセイコラさんの方を見る。

「将軍。オレは今からでも敵の本拠地、ヴィジャーズヴィルに奇襲をかけるのがいいかと思います。隣国のウリアーノ公国やカンムル公国とも手を結べばもっと兵力も増やせますし、何より建国間もないノース・ヴィジャーとしては、睨み合いの間にもっと準備をしたいと思うで層から」

 と、彼が発言する。いきなり敵地に殴り込みか。と、思ったけど、敵軍にはジョージ・ダグラスの弟がいるんだった。マズい、止めねえと。

「そ、そんな。殴り込みだなんて……。いきなり無謀な気がしますよ」

 考えるよりも先に俺の口から出た咄嗟の言葉を聞いた四人が俺の方を睨む。まずい、もしかしたらスパイ扱い、いや、むしろ頭ごなしに他人を否定する嫌な奴と思われてしまった? 背中から噴き出る冷や汗を服で拭いつつ周りをもう一度見渡すと、セイコラさんが

口を開く。

「まあ、確かにいきなり無謀すぎたかもしれんな」

 そう言って天井の染みの方に目を向ける。俺をフォローしてくれたのかもしれないが、かなり怒ってる……。どうしたらいいものだろうか……。

「まあ、ダグラスのいうことも一理あるな。ワシらもずっと強行軍でここまで来たし、兵員も多いとは言えん。それに、隣国には頼るなって上からの命令も来てるしよ。セイコラ、もっと勉強してから物を言え」

 と、将軍が小言を交えつつセイコラの話を講評する。

「へえ、すんません。もう少し勉強いたします」

 そう言って不承不承と言う感じだが、セイコラが頭を下げる。

「じゃあ次、フリーデン」

 今度は将軍がフリーデンの方に話を振る。一方の彼はさっきまでと一緒で微笑みを絶やさず、「どうしましょうか……」と、考え込んだままだったが、しばらくして口を開く。

「私は……、今はここを動かずに状況判断に徹した方がいいと思います。正直な話、向こうもどこまで戦意があるかわかりませんからね。下手に突っ込んで被害を受けるよりかは、まずは相手の出方をうかがってからの方がいいと思いますよ」

 手元に置いてあった水を飲みながら淡々と告げる彼。確かにそうだよなあ、と全員が腕を組みながら目を瞑るが、ハッとした様子で将軍がフリーデンの方を見る。

「お前のいうことも一理あるけどよ。ちょっとそれは暢気すぎる気がするんだよなあ。ここが最終防衛ラインだっていうのによ」

 と、将軍が不満を口にする。

「だったら、セイコラさんの言う通り玉砕しますか。と思いましたけど、流石にそれは無理ですよね」

 将軍が不満を述べた直後、フリーデンが優しい口調で言い返す。しかし、若干語尾を強調する話し方から、わずかに将軍への不信も見えている。

「玉砕ってのは無しだけどよ。いくら何でも弱腰すぎるんだよなあ」

 と、返答に窮した将軍が腕を組みながら言う。確かにそうかもしれねえけど、このオッサン、自分は意見を出さんくせに文句ばっかり言うなあ。

「ワシもよ、ホントは自分一人ででも斬り込んでやりてえんだ。でもよ、こんな立場だし、デキねえよなあ」

 そう言って頭を掻きながら天井を見る。それを見た他の三人も、言葉をかけれなくて気まずいのか、目線を逸らすかのように天井を見つめていた。

「悩んだって仕方ねえ。次だ次、ヨハンソン。お前はなんかあるか?」

 と、今度はヨハンソンに将軍が問いかける。しかし、彼は相変わらず天井を見たまま思い悩み続けていた。

「私は軍務には詳しくございませんので……。もっと他に役に立つところがございますからねぇ……」

 しかし、そう言って彼は話を濁すだけだった。将軍も呆れたような表情で、再び腕を組んで悩みこんでしまう。

「じゃあ仕方ねえな。最後、ダグラス。お前に任せたぞ」

 と、考える間もなく将軍が俺に話を振る。ヤベエ、とりあえず引き伸ばさねえと、

「もうあと三分待ってください。お願いします」

「分かった、待とう」

 一端の猶予を与えられて俺は頭を抱えながら考える。セイコラさんの意見は過激過ぎる、フリーデンさんの意見は弱腰過ぎるか……。ここから導き出せる最も無難かつ良さそうな意見。どうしたらいい、必死に考えろ俺。

 自分でもマズいと思うぐらいに俯き気味だった視線を上げてみると、将軍以外の三人が苦悶の表情の俺を、興味津々と言った感じで見つめていることに気付く。やべえ、伸ばしたばかりにムッチャ期待されてるのか……。

こういう時に重要なことってなんだろう。奇抜なアイデア? いや、なんか違う気がする。それよりも、ちゃんと最初の話を聞いていたことをアピールするために、前提条件を出してみるか? どうする俺。良く考えろ……。

「ダグラス、三分経ったぜ。お前、どうするつもりだ?」

 と、将軍が俺の方を見てニヤリとする。仕方ない、セイコラさんとフリーデンさんの意見の折衷案に近いけど、こんな感じでいこう。最悪俺の案が採用されても、二人は納得してくれるし、これが正解だと思うしかねえ。

 そう思い、俺は足りない知恵を振り絞り、わずかな情報を頼りに求め出した案――――


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