第三話「勉強会」
翌日の昼、俺は石本、播田、鍬島、的山の4人とともに石本の家で勉強会をしてた。弟は家に小学校の同級生を連れてきたため家に居辛いし、ちょうどこのタイミングでよかった。
「紡錘体? 赤道面? そんなもん俺知らんわ! 食ったら美味えんか?」
「石本。減数分裂は追試では出さないって前の授業の時先生が言ってたし、体細胞分裂のとこ完璧に覚えた方がいいんじゃない」
「M期が分裂中で核一個当たりのDNA量が倍になるからこの問題の正しいグラフ③でいいの? 」
「そうそう。んでその数値使って下の計算問題も解いたらいいで。播田はなんとか行けそうやね」
「黒ちゃん、もうアカン。指が痛い……」
「そういう時は一瞬手を止めて手を握って開いてを繰り返すんや。鍬島はそういえば英語の課題の方もやけど生物は大丈夫なのか?」
「黒ちゃん、俺実は採点ミス見つかって四十一点になったからセーフなんよ」
他の三人とは訳が違うんだ、と鍬島が笑う。
「そういえば的山はどうしてるんだよ? さっきから声が聞こえねえけど」
「そこで死んでるぞ」
石本の声を聞き後ろを向くと、的山武史が死にそうな顔をしてこちらを見つめてきた。
「黒川、俺もうダメやわ。再追試に賭けるわ……」
「おいおい、そんなこと言うなよ」
すると横で石本が息をスーっと吸い込んだ。
「お願い、死なないで的山! あんたが今ここで倒れたら、黒ちゃんや播田との約束はどうなっちゃうの? ライフはまだ残ってる。生物の追試ここを耐えれば、生物教師の建山に勝てるんだから!」
「次回『的山死す』。デュエルスタンバイ! 」
おい、鍬島よ。勝手に殺すな。まだ生きてるぞ。いや、ぜひとも活路を見出して生かしてやって欲しい。
「まあ十二時からずっと二時間ぐらいずっと勉強してるしぼちぼち休憩しよや。一息つかないとやってられん」
石本の提案により俺達は机の上を片付け始めた。
各自持ち寄った菓子をつまみつつ雑談を始めること十五分ぐらい。
「いや~俺さ。次再試二個以上なったらほんとにテニス部退部なるかもしれんわ」
「石本はさすがに大丈夫やろ。前の大会もまあまあいいとこまで行ったんやし」
「まあ、顧問が蛯原やしな。本気かもしれん頑張らねえと」
石本のテンションが若干下がり気味だ。
「話変わるけど、黒ちゃんの弟強いよな。前の地区戦の時準決勝で当たったけどまさか手も出んとは……」
「そうそう、俺も県大会で当たったけど一年生とは思えない強さやったわ」
テニス部の石本と播田が口をそろえて言う。
「アレはまあ……。色々あるからな……」
俺は適当な返事でごまかす。ここでも弟の呪縛から逃れられないのか、そう吐き捨てそうになったがグッと堪える。
「的山と鍬島はハンドボール部やしテニス部の事情いろいろと知らんかもしれんけどな。黒ちゃんの弟の志聞君って、大典学園の中高一貫コースにスポーツ枠で入ってるんよ。んでテニス部で全国クラス」
「「はえ~、すごいなー」」
と、石本の説明に対して二人が口を揃えて驚嘆の声を出す。
「まあでも黒ちゃんも普通に強いけどな。俺も中学の時県大会で当たったけど全然手が出なかったし。怪我さえしてなきゃ俺達の坂間北高校テニス部のエースは播田と俺じゃなくて黒川と播田になってた。ってことだ」
俺は石本の言葉に返答に困り目をそらす。
「おいおい、そこは謙遜しとけよ黒ちゃん」
「す、すまんな……」
とりあえずその場で軽く謝っておく。まあ正直な話をすると、内心ではそんなことを思っていたりする。目の前にいる石本隆士には中学の時に県大会で当たったけど普通に勝ったし……。と言ってもギリギリだったか……。
「まあでも中学の時の黒川は正直なとこ石本や俺よりも上手かったしな。中学の同級生の俺が保証出来るぜ」
播田のフォローが入る。横にいる播田京介は中学からの付き合いでテニス部で一緒に練習をしてた仲だ。
「照れるなよ黒川。そういうことにしといた方が、俺の評価も上がるから言ってるんだぜ」
調子に乗るなと俺に軽く言ったあと的山がつぶやいた。
「で、結局兄貴のほうか弟君の方かどっちが強いん?」
「「間違いなく弟君やね」」
石本と播田が即答した。言い返せない。
「まあ、そんなことより早く勉強進めねえと追試も落ちるぞ。始めようや」
もうこれ以上この話は続けたくない……。うまいこと逸らしてこいつらを勉強させねえと……。