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第十八話「飢狼」

 夜十一時頃、俺たちは例の噂の真相を確かめるべく、準備を始めた。しかし、ローランドを巻き込んだノベルは、「ヨハンソンの監視のために残ります」と言って結局参加しないことになった。アイツ、ビビったのか……? と思ったが、やっぱり動向を監視させるために、奴のそばに居てくれた方が良さそうだ。

「ローランド、一応あっちの教会の方で合ってるんだよな」

「ええ、間違いないです。市街の北にある古い方の教会です」

 そういや教会って二つあったな。前に散策した時に見えたのは南側の新しい方だったようで、少し灯りが灯っていた覚えがある。

「まあ暗いので怖いですが、そろそろ行きましょう」

 俺たちは真っ暗な市街を歩く。市街のうち北半分は住居もまばらでこの時間帯は人通りもほとんどない。酒場が開いているらしいがそれ以外は無いようで、静寂と暗闇が俺たち三人を包み込む。

「どうしたローランド、足がすくんで動けねえのか? 安心しろ狼はともかく幽霊なんてのは居ねえから」

 セイコラがおびえるローランドを軽く励ます。と、言っても俺も正直怖いっちゃ怖い。たまに動物の気配がするので、来たかと思い刀に手をやるが結局ただの野良猫だったってオチがすでに二、三回は起きている。

 そんなこんなしているうちに教会の近くにたどり着いた。いよいよ例のバケモノと会うのか……。俺以外の二人も少し怯え気味だ。

「なあ、ローランド。教会の近くまで一人で行ってきてくれ。お前を囮にして誘き出すぞ」

「え、マジっすか!? 怖いっす……」

 セイコラさん、確かにその手は合理的かもしれねえけど、いくら何でもこんなビビったガキでは無理じゃないか?

「うぅ……。怖いけど行きますよ……。俺じゃないとできないんで」

 しばらく躊躇した後、ローランドはその提案を受け入れた。

「お前、意外と勇気あるんだな。俺の思った通りだ」

「それはありがたいですけどできたら代わって欲しいですね」

 まあ確かに先陣切って敵に突っ込んでいったし、まあそれぐらいできなきゃって感じでもあるが。

「俺とセイコラさんでローランドの方へ突っ込んでくる狼を倒したらいいですね。とりあえず生け捕りは難しそうけど、できる限り損傷させたくないし鞘を付けたまま殴ったらいいですかね」

「まあ、それでいいと思う。一応念のため金槌は持ってきたわ。これでイケるやろ」

 セイコラから渡される。リーチがちょっと短いけど、何とかなるか。

「よし、じゃあ俺行きますよ」

 ローランドが一歩ずつゆっくりと進む。俺とセイコラは固唾を飲んでそれを見守る。教会の手前に近づいたところで、近くから何とも言えない呻き声が聞こえた。


――――ヴオォォォーーーーー!!!!


 時代劇とかでありがちな法螺貝の音みたいなものが、暗闇を引き裂くかのように響き渡る。おそらく例のバケモノだ。俺は確信し金槌を握ったその数秒後、足音が聞こえた。俺もセイコラも、そして手前に居るローランドも動いていない。つまり奴が動いた、ということだろうか。

気配を察知したのかローランドが剣を振る。すると、ビリッという音とともに鮮血が噴き出すのがかすかに見えた。

(セイコラさん、松明を持ってこっちに来てください)

(おう、分かった)

 灯りを持ってローランドの元へ二人で向かう。目の前には破れた黒い布と頭から鮮血が噴き出した死体があった。

「おいおい、これってもしかしてアレじゃねーか。第三大隊の従軍牧師の男だ……確かエルヴェスタムって名前の」

「ってことは要するに……」

 おそらく、ヨハンソンの差し金ということだろうか。げn

「とりあえず中に入るぞ。何があったかはまだわからねえが、オレら三人でこの件は何とかするぞ」

敷地内に入り散策する。そういえばさっきの音って、なんかデカい木の近くからしていた気がする。ってことは

「セイコラさん、ローランド。あの木の近くに何かあるかもしれない!」

俺の声と同時に、木の陰から何かが走り出す音が聞こえた。俺は走り出した獣の方へと向かう。走っているとわずかに血の匂いがする。

走り続けると、足元に何かが引っかかる感触がした。俺はそれに気付くのが遅れ派手にコケる。足に当たった感触は間違いなく生身の人間の感触がした。

「た、頼んます。命だけは助けてください……」

 背後から血を流した男が微かな声でつぶやく。セイコラかローランドに斬られたのか分からんが、こいつが犯人か。

「お前が人喰い狼の正体か! 少年たちはどこへ行った!」

「し、知らねえよ。何のことを言ってるのか……」

 この期に及んでとぼけるつもりか、このクソ野郎。殺すつもりはないけど、とりあえずビビらせるために金槌を振り上げる。

「ならば貴様の体に聞いてやる!」

 そう言った直後、

「待て! ダグラス。こいつは殺すな!」

 寸前でセイコラに止められた。

「さっき木のところに二人居たが、俺とローランドで斬ってしまった。こいつしかもう生きている奴はいない。こいつに事情を吐いて貰わないとな」

ちょっと待てよ、二人とも躊躇なく人を殺すなぁ。俺もさっき金槌を振り上げた以上、偉そうなことは言えないが。

ローランドとセイコラが二人とも剣を抜いて、顔の前に突きつける。男は怯えたように話し始めた。

「ヨハンソン様の命令で、少年を集めろということだったので……」

「何言ってんだよお前? それじゃあ理由になってねえだろ!」

ローランドが件で鼻先を突っつく。やめてくれと言う声と同時に鼻から赤い血が零れる。

「それなら明るい時間帯に声を掛けたらいいじゃねーか。なんでこんな夜中に、しかも短剣を持ってする必要がある。理由をちゃんと説明しろ!」

 ローランドが男の顔を目がけて蹴りを入れる。倒れ伏した男は激痛に悶えながら呻き声を上げる。

「実は……。布教のためではなく、生贄のためだったのです。今月の終わりの満月の夜に少年の生き血を神に捧げ、戦勝と国家安寧を祈るための儀式をイエスト教のルールでするということで……」

 儀式か……。目的はいいかもしれんが少年の生き血って。正直な話、この世界の人間からしたら当たり前なのかもしれないが、つい数日前まで法治国家(日本)に生きていた俺には、到底理解できない。

「とりあえず、そんな目的で誘拐するのを俺たちは認めん。少年たちはどこに居る?」

「そ、それは……」

俺の質問に対し男はこの期に及んで言い逃れ、というか口を割ろうとしない。自分の置かれている状況が理解できないのか。

「ならばお前の体に聞いてやろう」

 脅すつもりで右手で胸ぐらをつかみ、左手で短刀を抜いて男の顔に近づける。男は半泣きで止めてくれと言うが止めるわけにはいかない。

「この教会の中か? 二人でとりあえず中へ入って探してきてください」

「違います! ここには居ないです……。南地区の教会の地下室の中に閉じ込めています」

 男がおびえながら最後の気力を振り絞ってつぶやく。ただどうなのか何とも言えないのでいったん様子を見るか。

「そうか、ならばそちらへ行こう。セイコラさん、ローランド。こいつはほっといたら死にそうだし、放置しときましょう」

 そう言って俺が手を離した直後、男は力が抜けたのか地べたに倒れ込む。一瞬、俺は奴がホッとしたように息を吐くのに気が付いた。

「てめえ、今のは嘘だな。本当の在りかを言え!」

「な、なんのことですか?」

 今度は顔を安全靴で軽く突っつきながら尋問をする。コンコンと頭蓋骨に先芯が当たる音が暗闇に響く。今度こそ言い逃れできないと思ったのか、

「ほ、本当はこの教会の二階の部屋に居ます。頼むから命だけは助けて……」

 そう言って命乞いをする。流石に素直に言った人間を殺すのはマズそうだし、せめて助けるふりだけでもしてやらないと。

「本当だな。ローランド、持ってきた傷薬をコイツにやれ」

 傷薬を全身の塗れる範囲に塗らせてみた……。が、おそらく効き目はないだろう。もうかなり出血してるし。でも気休めにはなるだろう。

「全部終わったら医者に連れていってやるから、立て」

 男を先頭に四人で教会の中に入る。松明で中を照らしてみるが、特に人の姿だったり気配だったりというものがない。

「本当に居るのか? いなければオレが斬ってやるからな。なぁに、一時間ぐらい遅れて仲間のところに行くだけだから」

「ヒ、ヒィー。止めてください、命だけは。私には故郷に妻子が居るんです……」

「妻子? たしかイエスト教の戒律だと、聖職者は結婚できないみたいな話があったと思うが……」

 セイコラが男の右肩にある傷口を軽くつまみながらいやらしい声で言う。このセイコラというオッサン、拷問とか嫌がらせが上手いのか、絶妙に不快感と恐怖感を与えるねちっこい喋り方だな…。

「と、ととと、とりあえずさっきの話は聞かなかったことにしてください。ステージの裏にある階段から二階に上がりますと部屋があって、そこに少年たちは居ます」

 信用ならねえけどとりあえず……。男を先頭に狭い階段を上る。上がったところに扉があるのが見えた。

「ここです」

 そう言うので中に入ってみると、床の上に手足を縛られた状態で子供が四人倒れているのが見える。まともに食事もとれていないのかやつれた様子で、俺たちを悪魔の使いとでも思っているのか鋭く睨み付けている。

「おいコラ! 俺たちをこっからだせ!」

「早く家に帰らせてくれ!」

 どうやら俺らも敵と思われているようだ。まあ確かにそう思われても無理はねえか。

「違うんだ。俺ら三人はお前らを助けに来たんだ!」

「助けに来たって……。ありがとうございます」

 礼こそ言われたけれど、かなり疑われているようだ。まあしょうがないよね、だましてどっかに奴隷として売り飛ばされるかもと思っても仕方ないしな。

 ローランドやセイコラと手分けして手足を縛る縄を切る。少年たちは数日ぶりの自由に喜んでいるのか、口々に歓喜の声を上げる。

「よっしゃー、帰れる!」

「ああ、助かったんだ俺たち」

 これで一件落着したんだな。

「お前ら、先に戻ってくれ。俺はコイツと話したいことがある」

 そう言って、セイコラが怯えた表情の肩をがっしりと掴む。何をするのかは察しがつくけど、止める気も湧かねえ。とにかく助けた少年たちを家に帰さないと。


そう思いながら教戒を出た数分後、教会の外に出てから男の叫び声が聞こえた。恐らくセイコラは彼に相応しい罰を与えたに違いない。それを示すように、男の生首をセイコラが持って来た。

「『飢狼に扮し住民に恐怖を植え付けた邪教徒に対し天罰を下す。 ヴァルタール国軍の勇敢な戦士たちより』 こんな感じでいいだろう?」

 彼がにやけながら敷地の壁に筆で字を書く。己の武勇をたたえたかったのだろうか。俺も戦功を挙げ(?)て若干心地がいい。暗闇の中、二人で談笑しながら帰る帰り道がなぜか懐かしく、そして楽しかった。



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