表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/52

40.

パーティ会場に入ってすぐのクロークで待ち構えていたメイドさんたちにコートを預け、先触れの侍従に従って会場へ入る。

入ってすぐのホールから舞踏会の行われる会場へは、木製の立派な内扉が外の冷たい空気と内側の温かい空気を隔てていて、扉の両側にドアを開ける係がおり、私たちの通過に合わせて扉を開いてくれる。

先触れの侍従が会場に向けてフェンネル公、ご到着、と大きく声をかけ、一礼してまた次の来客の案内へと戻っていく。

会場は柔らかな音楽と人々のざわめき、あと何か知らないけど香でも焚き染めたようなほのかないい匂いに満ちており、それを割るような侍従の声で一斉にこちらに人々の視線が集まる。

みんな私たちを見ながら手近な誰かとの会話に戻っていくのだけれど、うわ、なにこれ絶対うちの話をしてるわね。

どんな噂話か知らないけど。

一斉の注目。人々が何でもなかった振りを始めるまで、父さんも母さんもお兄ちゃんも、集中する視線にまるで動じる様子もなくすたすたと会場へ入っていく。

その後を追うけれど、私の一挙手一投足に視線が絡んでくるのが分かる。

雑多な感情が混ざりすぎてきちんと判別はできないけど、あからさまに値踏みするようなものも確かに感じる。

それをかき分けるように進む、父さん母さんという大きな船に曳航される小型の帆船よろしく二人の後をついて行く。

先生に習った通りの滑るような優雅な挙動で、と言いたいところだけど、正直きちんとできてるかどうかわからない。

ああ、しんどい。父さん、あなたの気持ちが今ものすごく理解できました。

適当なところで連れて帰ってくれると信じてるからね。


両親の背中を追いつつも、まとわりつく視線を意識の外に追いやるために周囲の観察を始めることにする。

会場になっているのはさすが王城と言うべきか、3階くらいまで吹き抜けになった、天井の高い建物丸ごと一棟。

舞踏会なんか開いちゃったりする場所なので、かなり広い床面積。何平米くらいあるのか見当もつかないけど、私の前世に紐づいた感覚では体育館を二回りかもうちょっと大きくしたような感じ、かしら。

天井は一面の透明度の高いガラス張りで、満月に近い月が浮かんでいる。

中世的な世界観、領地の実家に使われているガラスの質などから推察するに、ガラスは高級品に違いない。

しかも、透明度が高ければ高いほどお値段も高い。

つまりこのガラス張りの天井を擁した会場だけで、招待客たちに王家の威容と財力を余すところなく見せつけられる、というわけだ。

そのお高いガラス越しに見えているこっちの月は、ずいぶんと白っぽい。

黄色みはなくて、どちらかと言うと青みが強い白だ。

満ち欠けの周期も私が知ってる月とは違う。あと、前世よりも大きく見える。

今日は月も明るいし、大体1.5階くらいの高さに位置取りしている無数のシャンデリアの光が本来ガラス張りの天井から見えるはずの夜空を月専用のキャンバスに塗りつぶしている。

一粒二粒、明るい星もあるようだけど。


シャンデリア。

とても豪華な装飾照明で、まるで貴婦人のペンダントトップみたいに複雑に作りこまれた台座のあちこちに宝石のような光源が輝いている。

さっきも言ったように1.5階くらいの高さにあるんだけど、天井から吊るされているわけではない。

私の目に異常がなければ、浮かんでいる。

空間に、何の支えもなしに。

・・・ああ、魔法とかでしょどうせ。


両脇の壁には国旗と思しきデザインの布がところどころかけられており、等間隔に大きな格子窓がとられている。

こちらに入っているのも透明のガラスだ。

天井にしてもそうだけど、大きな一枚ガラスではなく小さいガラスが沢山使われているのが、私の知ってる世界と比べて技術的な拙さを感じさせる。

壊れ物だし、小さいほうが輸送時の破損率を下げられるから、あえてこのサイズなのだろうけど。

視線を前にやると、一番奥まったところ、正面壁際に一段高くなった舞台のような場所があり、豪華な椅子が何脚か据えられている。

舞台の両端には天井あたりから垂れた何枚かの美しい飾り布。

あの椅子たちは王族のための物だろうし、多分、あの布の後ろに専用の出入り口があるのだろう。

足元の床は滑らかに整えられた大理石で、白と黒とで複雑な模様が描かれている。

白と黒の2種類のモザイクなのに、まるで切り出した時からそうだったみたいに継ぎ目が自然だ。

ちょっとつるつるしてるから、総踊りの時は・・・って言うと阿波踊りみたいよね、みんなで強制的に踊らないといけない時は十分気を付けよう。

滑って転んで世界に向けて下着を公開する羽目になったりしたら、当分あちこちの夜会にホットでセンセーショナルな話題を提供することになる。


パーティ会場の真ん中ではないけど端っこでもない、微妙な位置取りで父さんが立ち止まると、知り合いでも探しているのか軽くあたりを見回す。

周りにはたくさんの方たちがいて、それぞれ手近な相手と談笑しつつもこちらを気にしている風だ。

周りよりも余裕で頭一つ分ほど背が高い父さんだけど、知り合いを見つけられなかったらしく見回す動作をやめて母さんの方を見る。

あんまり真剣真面目に探してない気もするけれど。

母さんも母さんでまず挨拶すべき同格の家を見つけられなかったようで、父さんを見返す。

すると、とりあえずここに居場所を定めたと察した使用人たちがすっと現れて、父さんと母さんへ飲み物の乗った銀のお盆を恭しく差し出し、二人がそれを受け取るや軽く一礼して音もなく背景へ同化していく。

欲しい・・・!あのスキル、欲しいわ・・・!!

思わず追いすがって、弟子にして!と言いかかった私の前にもいつの間にかお盆が差し出され、低身長のこどもで取りやすいように身をかがめた別の使用人の男性と目が合うと、彼は礼儀正しく笑みを浮かべる。

一瞬何のことか分からずにぼやっとしていると、兄がさっさと私の分も華奢なグラスを持ち上げて、私の前からお盆が消える。

そして、お盆を持った給仕はまた音もなく背景に同化していく。

やっぱり・・・欲しい。


「ほら」


兄が私に手にしたグラスの片方を差し出してくれるので、ありがとうと言って受け取っておく。

華奢なマティーニグラスみたいなやつに入っているのは、匂いからするとアルコールの入っていない何かの汁のようだ。・・・言い方が、あんまりおいしそうじゃないわね。

ええと、いわゆる果汁・・・ジュースね。なんか黄色い色をしてるので、オレンジ的なヤツかと思うと案外甘い、あのうちでも飲んだことがあるヤツなのかもしれない。

お酒の方は背の高いフルートグラスみたいなものに入ってて、父さん母さんの手にあるものを見るに黄金色をした微発泡性のシャンパンぽい何かだ。

葡萄酒じゃないのがちょっと意外だわ。

世界観的に絶対葡萄酒だと思ってたんだけど。

父さんは外見通りの底なしで、いわゆる蟒蛇(うわばみ)なんだけど、私がお酒の匂いが苦手なので家に居るようになって最初の頃はしていた晩酌も、飲むと娘が断固として近寄ってこないと悟ってからはしなくなってしまった。

度を越した飲み方はしてないようだったし、私のためにお酒をやめさせるのはちょっと可哀そうかなぁとは思うんだけど、匂いだけで酔っちゃうので仕方ないのよ。

母さんは嗜み程度に飲む人らしいけど、父さんに付き合ってすごいアルコール臭の絶対度数の高いと思われる琥珀色の液体を飲んでも顔色一つ変わらなかったし、お酒が好きでも嫌いでもないだけで飲めば飲める人の可能性が高い。

あの日のお休みのアレは・・・きつかったわ。正直ちょっと泣いたし、母さんから放たれるアルコール臭にあてられて頭ふわふわして速攻寝落ちしたもの。

ちょ、やめて母さんホントに臭い。って真顔で言いそうになって、寸前で飲み込んだわ。

親孝行の徳だと、誰が認めなくとも私は認める・・・!あれにはそれだけの自制心が要った。

しかし・・・蟒蛇(うわばみ)、どこ行っちゃったのかしらね?

Ⅱ型アセトアルデヒド脱水素酵素は生まれながら必要十分に備わってるはすだから、この二人のこどもであれば突然変異種でない限り肝機能は優秀なはずなのに。

正直前世からお酒は飲めなかったので今回も飲めなくても全く問題ないんだけど、このまま大人になると夜会のたびに酒類強制手渡しシステムなのか、今から少々気になるところではある。

・・・アルハラ、って概念なんて、当然ないものね、ここには。


「やぁ、ベルナルド。元気かい?」


手にしたグラスの中身に口をつけ、あ、これやっぱりオレンジな見た目に反して甘いやつ、と思っていると、人々を割るように群衆を抜けて来た一団の先頭にいる男性が、父さんへ笑みを見せながら握手でもしようと言うのか右手を差し出して歩み寄ってくる。

年の頃は父さんとそう変わらない、30代の入り口くらい。

ちょっとビターめのチョコレート色の髪に、翡翠色の瞳。

父さんと比べると身長は少し低くて体つきも細めだ。でもこの場合、比較対象がちょっとアレだし、父さんと比べたらこの辺にいる男の人大体背が少し低くて細めだわ。

親しげに歩み寄って来た男性が柔らかい笑みを浮かべて父さんに右手を差し出すも、迎える父さんはそれに応えずなぜかムスっとしている。

わー、そんな全面的に顔に出しちゃっていいのかしら。

それにしてもなんとなく見たことのあるような顔してるのよねぇ、この男性。

ゲームに出てきてたかしらね?


「まぁこの通り元気だよ。お前も変わりなさそうだな、ファーガル」


「そう邪険にしないでくれよ。責任はとるって言ったろう?・・・ロザリア夫人、ご機嫌いかがかな?今日も麗しいね」


ファーガル、と呼ばれた男性は途中で母さんに向き直り、にこっと笑って見せてから母さんの塞がっていない方の手を取ると手の甲へ貴族式の挨拶を落とす。

うっわ。これ嫌だわぁ・・・将来的に常時帯電してようかしらね?

それなら一身上の都合でご挨拶はご遠慮いただけるものね・・・


「あら、ファーガル様、お上手ですこと。主人が失礼いたしましたわ。娘も申しておりましたが、あれは事故ですので、どうぞお忘れくださいな」


母さんのセリフにピンときて、男性を見たことある気がするのも道理だわ、と思う。

彼の後ろには長身の美しい女性と、13歳かそこらの男の子がひとり。

それから、既視感の原因の男の子がひとり―――母親と思しき美人に手を取られて、こちらを窺っているのは間違いなくディートリヒだ。

私がディートリヒの存在に気付いたのに気付いた兄が、すっと前に出て私の視界からディートリヒを追放する。

約束通り、私の淑女としての評判を守ってくれているようだ。


「あなたがミザリー嬢か。うちの愚息が無礼を働いたな。申し訳なかった」


見事な赤毛に緑柱石のような印象的な瞳の美女がディートリヒの手を引いてお兄ちゃんと私の前へ進み出て、お兄ちゃんの後ろから私が彼らを見ていることを確認すると、なんだか男前な感じで息子の頭に手を乗せてぐいぐいと下げさせつつ、自分も頭を下げてくる。

ちょっ!そんなにしたら首がっ!!首がまたもげるっ!!


「いいいえいえ!先ほど母も申しました通り、あれは不幸な事故でした!どうぞ―――どうかお忘れください!」


そして一刻も早く首から手を離してちょうだい!

もう目の前で人体から大事なパーツがとれるところなんて見たくないのよっ!

こちとら戦国武将でもあるまいし、首級なんて初めて見たんだから!!


大慌てで答えると赤毛の美女が頭を上げて、何かほほえましいものを見るようにふふ、と微笑む。・・・思い出し照れで真っ赤にでもなってればかわいいかも知れないけど、私の顔色、多分青いと思うんだけどね。

とりあえずやっとディートリヒの頭から手を離してくれて、もげずに済んでほっとしている私の心中を知ってか知らずか、こちらを窺うようにゆっくりとディートリヒが顔を上げる。


「あ、の・・・ごめんね、ミザリー嬢!」


母親に頭を下げさせられた体勢から顔だけあげて、私を上目づかいに見ていたディートリヒが自分の言葉で謝って、また頭を下げてくれる。

ああー、もうホントやめて。下げたくらいじゃ落ちない首なのかもしれないけど、分離可能って分かってるからヒヤヒヤするわ。

ホント、首がとれる男の子も守備範囲なアンジェラマジ天使よね。

私じゃきっと、朝起きるたびに隣の旦那の首がついてるか確認する生活なんて耐えられないわ。

そんなスリルショックサスペンス、ひとつも求めてない。

朝から血圧天井知らずでストレス過多、寿命の方もマッハでしょうね。

・・・それってある種の他殺?それとも離婚等で対策を講じないなら前向きな自殺になるのかしら?


「どうか・・・おやめになっていただけませんか、ディートリヒ公子。もう済んだ話だと申し上げました。・・・正直、皆様の前で何度も蒸し返されると辱めを受けているようだわ」


婉曲な表現を使っても行間を読むスキル持ちの日本人じゃない彼らには理解できないかと思って、直截(ちょくさい)に言う。

この先もことあるごとに持ち出されたらたまったものじゃない。

でもさすがに、パンツの一つや二つでいつまでもガタガタ言ってんじゃないわ、とまでは言わなかったから、そこは褒めてほしい。

怖いものね、“さいきょういく”は。


「うぅ・・・ホントにごめん・・・」


もういいって言ってるのに罪悪感からかまた謝るディートリヒ公子。

そして、それを冷たぁい目で見るお兄ちゃん。

またちょっと横の兄から冷気が出てる気がする。今現在の実家の外の気温くらいの奴が。

お兄ちゃんてば雪女の血でも引いてるのかしらね?



「いやぁ、こんなかわいい娘がいたらよかったなぁ・・・ミザリー嬢、うちのお嫁さんにならないかい?ディートリヒは君の事をずいぶん気にしてたし歳もちょうどいい。もしディートリヒが嫌なら、長男のレインリットのお嫁さんになってくれたらいい」


私たちの局地的氷点下なやり取りを外からほほえましく見ていたらしいネルガル公が、にっこり笑ってとんでもないことを言ってくる。

13歳くらいの男の子、母親譲りの赤毛と一族共通の緑の瞳の次期ネルガル公、レインリット公子はそれまで弟をやれやれという表情で見守っているだけだったけれど、父親の口から名前が出た途端に私に向き直ってにっこりと笑いかけてくる。

こっちの兄も父親や二男同様人当たりは至極よさそうだ。

ちなみに弟のほうは突然話題に挙がった婚約話に真っ赤になっており、私と目が合った瞬間顔を反らした。

決して嫌って感じではないのが嫌だわ。

あなたと結婚しようとするとおよそ死ぬのよ、私は。


「確かに、私も娘が欲しかった。うちはこの通り息子しかいないからな。娘を着飾らせて一緒に狩り・・・でなくてほら、茶会なんか催すのは楽しそうで憧れる。どうかな、ミザリー嬢。親の私が言うのもなんだが、レインリットはしっかりしているしディートリヒはちょっと頼りないが優しい子だぞ」


今、狩りって聞こえたけど気のせいよね。

ディートリヒ母って何者なのかしら。

あとやたらに死亡フラグを押し売りしてくるのなんなのかしら。

目立たず、騒がず、フラグは立てない。オペレーション:ウォール・フラワーが夜会序盤で早くも頓挫しかけている。


「ファーガル、ディアドラ。その辺にしといてくれないか、うちの娘を困らせるのは」


返答に困り果てた私の前に父さんが立って、ぐいぐいくる首なし騎士一家から庇ってくれる。

ああ、父さん。

ドライな娘なのは今更直せないけれど、もう少し意識して親孝行させていただくわ。


「ええー・・・でもほら、貴族として体面を保つためにはだね、ミザリー嬢はディートのお嫁さんになってもらうのが一番いいと思うんだよ?決して可愛い娘が欲しいからというだけじゃなくね?」


「そうだな。ミザリー嬢はうちの娘に・・・なんだ、ディートの嫁として迎えるのが貴族的に一番正しいな。民草を導く我々こそがきちんと責任を取るところを見せねば、示しがな、つかないだろう。国境守備の観点からも、うちと貴家が姻戚関係になるのは望ましい」


諦めの悪いネルガル公夫妻がそれぞれ持論を展開する。

言っていることは至極まともでも、女の子かわいいな、娘欲しかったな、息子の嫁って形で娘ができたらいいな、という下心が透けて見えすぎている。

なにか知らないけど大きな力が問答無用で死亡フラグ立ててくるわ・・・抗えるのかしら、これに。

思わず隣のお兄ちゃんの腕を取って、残ったほうの手で前に立つ父さんの服の裾を掴む。

―――ちなみに、持っていたグラスはネルガル公登場あたりで影のような使用人が回収してくれている。私もあの気配隠滅スキルが欲しい。


「いいや!ミザリーはお嫁にやらん!!確かに・・・うちとお前の領はすぐ隣だから、嫁に出すとしたら近所がいいしすぐ会いに行ける距離ならありかと考えた事もあった。でも駄目だ!うちの娘はうちにいたらいい!どこにもお嫁に行かなくていい!!」


突然とんでもないことを言い始めた父さんに、私とお兄ちゃんの視線が向く。

思わず真顔になってしまったけど、兄もいつもの呆れの表情ではなく、私と同じ真顔だ。

けれど父さんは気にする風でもないし、ネルガル夫妻に至っては拗ねはじめる。


「いいじゃないか一人ぐらい!ベルナルドにはレオンハルト君のお嫁さんが来たらまた娘ができるだろう!私もお父様って呼ばれたいんだよ娘から!分からないかなぁ!?」


「そうだぞベルナルド。それに娘はいずれどこかへ嫁ぐんだ。近いに越したことはない」


「嫁にはやらん!!娘はミザリー一人なんだから、一人ぐらいよくないんだよ!そっちだって嫁二人貰ったら娘二人になるだろうが!あとミザリーは俺の娘だ!!お前をお父様とか呼ばせん!!父さんって呼ばれるのは俺だけだ!!」


「・・・父さん・・・悪くないな・・・お父様もいいけど、父さん・・・悪くない」


「じゃあ私は母さん、か。うん、いいな。血のつながった娘みたいでいい。さぁミザリー嬢、レインでもディートでも好きな方を選びなさい」


いらない!どっちもいらないから!!

・・・って言うと、また大変なことになるから、賢明にも口をつぐんだわよ、私は。

ああでも、レインリット公子の方はゲームのディートリヒ周りでチラっとだけ出てきていたけれど、はーん、兄いたの。あっそ、くらいのチョイ役だった。―――興味がなさすぎるのは許してほしい。だってホントに興味ないんだもの。

ゲームでの取り扱いで分かる通り、あくまで攻略対象はディートリヒ。その兄であるならば、アンジェラの食指も動かない安全圏の可能性もある。どっちにしてもアンジェラを囲む会会員から距離を取りたい私にはまったくお話にならないけれど。

でも選択肢が2個しかないなら押すのはレインリットのボタンね・・・押したくないけど。

狭い箱に押し込められて、これ押したら自爆するよ、って言われてボタン二つ押し付けられた気分だけど。・・・どっちも爆発するんだったら、狭い箱の中にずっといる方がマシではなくて?


「ああ、我々が一番遅かったみたいだね」


にこにこ笑うレインリットと照れて真っ赤になりつつも嫌と言わないディートリヒの背中を押しながら迫ってくる赤毛美女に気圧されて後退しそうになっていた私の背後から、涼やかな声がかかる。

私の死亡フラグ乱立の大ピンチを救ってくださったどこかの天使様に導かれるまま、私は驚いたふりをしてごく自然に振り返り、迫りくる選択肢から目をそむけた。

新しい選択肢が出たのよ。使わない手はない。



評価・ブックマークありがとうございます。

更新の励みになります。

来週こそは王子が出てくるはずですので・・・!またのお越しをお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ