04 政宗
白姫を伴いながら俺は現場へと向かっていく。辺りには銃声が響いていた。この銃声は間違えようもない、中国が開発していたエイギアもどきのものだ。
中国には妖精を作る技術がない。だから彼らはエイギアの機体をマナを以て通常兵器と同じように作りだし、普通の兵器に使われているFCSを流用しエイギアもどきを作りだした。
その性能は当たり前のことであるがエイギアに遠く及ばない。エイギアに装備されているバリアフィールドもなければ、自動修復装置もない、それに、ただただでかいので持ち運びが不便であるし、武器を現出することも出来ない欠陥品だ。
しかしながら、その装甲はエイギアのものと何ら変わらず強固である。対戦車砲も通用しないし、戦車砲もあまり効果を出さない。
通りに隠れながらそのエイギア擬き、たしか『神兵』といったか、それの姿を伺う。
どうやら二機の神兵が通りには存在しているようで、手当たり次第に街に銃を乱射し街並みを壊している。
「自国民だろ、なにやってんだあれ」
「敵の手中に落ちた存在は自国民とは数えないようですよ」
白姫のその言動にため息を吐く。侵入経路を見ると、大きな穴が地面に開いていることから、恐らく地下のこちらがまだ把握していない経路から侵入してきたのだろう。
レーダーで監視したとしても地下までは見通せないからな。
俺はため息を吐く。そしてハクを見て頷いた。
白姫は今度は戸惑うように俺を見ていたが、頷くと貫き手を作り俺の胸を突き刺す。又、自分が死ぬ感覚を味わいながら、俺は今度は月詠のコクピットの中に転送された状態で意識を取り戻す。
神兵は突如として通りの先に現れたエイギアを視認し乱射する銃を止めた。そして戸惑うような沈黙が辺りに漂う。
「なぁ、ハク、あれはどうしたんだ。」
『――傍受した無線の内容によると、エイギアが今ここに居ないと思っていたようですよ」
「あぁ……、小西さんと俺が帰ってきてないとおもってたのかぁ……」
白姫の説明にだるそうに返事をする、実際寝起きのようにいつも現出後はだるいのだ。
神兵は性能はエイギアに大きく劣るものの、唯一といっていいが、その近接武器だけはエイギアのバリアフィールドを無効化し、装甲を穿つ。といっても、人間でいえば薄皮一枚切れる程度の武器であり脅威ではないが。
故に俺は手にアサルトライフルを現出させると彼らに向け構えた。
その段階になって漸く事態が飲み込めたのか、こちらに向かい彼らもその手のアサルトライフルを乱射してくる。
その銃弾の全ては月詠に当たる前に分解されマナとしてこちらに還元される。
ため息を俺は吐く。そして手に構えたライフルを前方の一体に向かって乱射すると、十数発の弾を受け、神兵が沈黙をした。
横倒しに倒れ、建物を壊しそうなソレにスラスターを吹かせ高速接近するとその頭部を左手で握る。
そして神兵を頭部をもったまま持ち上げると、
「ハク、この機体をマナに分解してくれ」
『了解、1分ほどかかります』
エイギアであれば自動修復装置、それに敵の妖精に邪魔をされこの手は使えないが、神兵であれば分解し取り込むことも可能だ。
緑色の光を放ち分解されていく仲間の神兵を目撃したもう一体は銃を投げ捨てると肩に収納されているサーベルを取り出し、こちらに向かってきた。
そして唐竹わりを行ってくるそのサーベルを見ながら、またため息を吐く。
俺は手に持っていた神兵をそのサーベルの太刀筋に突き出すとサーベルは嫌な金属音を響かせながら盾にした神兵を切り裂いた。
その途端、一瞬俺は一歩前に踏み出し、神兵をぶつけるようにぶん投げると再びアサルトライフルを構え残りのマガジンを全て連射する。
無数の穴を体に開けながらもう一体の神兵を沈黙させると、横倒しにならぬようまた高速接近で近づき、投げた方の神兵の頭部をつかむと今回は地面にもう一機巻き込むようにして叩きつけた。
『見事な御手前です』
「大人が子供を相手にしているようなもんだろ……」
そう白姫とやり取りをしながら分解作業にいそしんでいると、後方から接近する機影が月詠に映し出される。その識別コードを確認すると味方、――温子さんのようだった。
ドン、と後方で着地する足音を聞きながら一機目の分解を終えた俺は白姫に温子さんとの無線周波数を合わせてもらい通信をする。
「重役出勤ご苦労、『レッド』」
「あー『ルナ』、もう片付いてたか。すまんね、休日に」
無線通話では階級をしらせぬために敬語は使わないのが基本だ。それに無線の通話名で話す。俺は『ルナ』という名前をもっており、温子さんは『レッド』だ。
温子さんのエイギアは『政宗』と呼ばれる第一世代機だ。赤を基調にされてペイントに鎧武者のような装甲が特徴的なエイギアである。近接戦闘力が高い機体ではあるが、遠距離戦闘ができないわけでもなく、ボルトアクションのスナイパーライフルを現出させる。
もっとも、FCSはそこまで性能がいいわけでもないらしく、近接能力も、銃の腕も本人のものが反映されている。
もちろんのことながら、だというのに温子さんのエイギアは上から数えたほうが早いくらいに強い。本物のエースパイロットである。
「いやぁ、これでまたしばらく外出ができませんね」
「間が悪いな、本当。」
二体目の分解を終えると月詠を立ち上がらせる。そして大穴へと顔を向けた。
「『レッド』、これより敵侵入経路の調査に移る」
「『レッド』了、深追いはするな」
「『ルナ』了、まぁぼちぼち戻ってきますわ」
俺は月詠を跳躍させると、大穴へと飛び込んでいった――。