序章 エイギアフロント
硝煙が空気を濁す。鳴りやまぬ撃鉄の音が其処らかしこから聞こえてきた。
中国と呼ばれるその国も一騎の『エイギア』によって蹂躙されている。
――剣の時代を、銃が終わらせたように。機関銃の登場によって戦争が変わったように。古来の西洋甲冑にも似た三メートルの兵器、『エイギア』が世界を変えた。
『エイギア』成長する兵器と呼ばれたそれは、『マナ』という素粒子によって作り出されたものだ。素粒子力学にて、観測される前、形を持たない粒子の固定、観測を可能にした技術が発明されたのだ。それにより、この観測される前の素粒子は『マナ』と名付けられ、世界を震撼させた。
マナは、全ての物質、粒子になりえる素粒子であったのだ。それを活用することで肉体を瞬時に修復することも、爆発を起こすことも、そして、新しい新物質を作り出すことも可能とした。
それは、まるで魔法のような技術だった。
『エイギア』と呼ばれる兵器が作られたのは、そんな時を置かなかった。各国の先進国にて、マナによって作りだされた人型兵器が作りだされた。その機械は空気中に漂うマナを動力とし、その装甲により、いままでの兵器による砲撃、銃撃、爆雷を全て防ぎ故障部位は『マナ』によって自己修復する。夢のような兵器であり、敵からしたら悪魔のような兵器だった。
『マスター。敵装甲車三〇。戦車三五両。散兵千名程。エイギアの反応はありません。楽勝ですね。』
エイギアの視界に、△の形をした敵のマーカーが表示される。それを確認した彼はため息をこぼす。
降伏勧告を行う直前であったため、外部の拡声マイクからそのため息が辺りにとどろいた。
一層、砲撃が強まるが、装甲に触れる直前それは物質からマナへと分解され、損傷にもならない。只悠然と、会社員が帰り道を歩くようにその一騎のエイギアは敵陣地へと歩いていく。
時折地雷を踏んだのか、シールド外の足下で爆発が起きるが地雷ごときの破壊力では、エイギアに引っかき傷のようなものを与えるにしか至らず、五秒足らずで修復する。
「武装、アクティベート。アサルトライフル」コクピットの中にて彼がそう呟く。
『了解、出現まで一〇秒』
彼の耳元で無機質な女性の声が響く。返事をするそれは『エイギア』のOS、そして機体自体を作り出している妖精と呼ばれる機構だ。
搭乗員は妖精と契約することによって自らの『エイギア』を想像する。
人型、獣型、または無機質な剣のような形を普段はしている妖精は搭乗員がその妖精に設定された誓約を行うことによって、妖精はその場に瞬時に三メートルにも大きさにもなる『エイギア』を出現させるのだ。
その誓約は個体によって様々だ。『自傷』することを誓約にするナイフ。『殺す』ことを誓約にする犬。『ディープキス』をすることを誓約にする人型。
その共通点としてはその誓約内容をしらなければ、突然行うような行動ではないことが共通点と言えるだろう。
西洋甲冑にも似たエイギアの手元にFN SCARに似た黒い銃が現れる。
彼はそれを構えると、△のマークが表示されている戦車に向かい発砲した。まるで戦車砲のような爆雷の音が辺り一面に響き渡る。寸分たがわず、マークに表示されていた戦車に銃弾、というにはあまりにも大きな弾が集弾し直撃と同時に爆炎を上げた。
それを見てしまった敵はその手を止める。一体なら倒せるかもしれないという淡い希望はその圧倒的な火力、装甲によって打ち砕かれてしまった。
潮時か、そう考えたパイロットの彼は残りの銃弾を数発上空に発砲し、エイギアの拡声機によって声を敵に呼びかける。
「大日本帝国陸軍、早乙女 昭中尉である。降伏せよ。さすれば、命までは奪わん。」
『―――――――。』早乙女が話したその内容を翻訳し、妖精がエイギアを通し、敵に伝える。
迷うような中国兵の反応を見た早乙女は、未だこちらに砲を向けている戦車に向かいその手の銃を発砲した。まるで玩具を相手にするように壊れていく戦車を見た兵士は否応なく、その手の小銃を地面に投げ捨て、戦車は砲を上に向け、戦意を無くしてしまう。
恐らく上は戦闘放棄に関して無線にて色々言っているのだろうが、彼らにはすでに関係のないことだ。無理もないことだろう。中国という巨大な国家の半分が大日本帝国の領土となる迄に十日とかからなかったのだ。
その全ての戦線で『エイギア』の存在が確認され、敵が見たその数だけで十騎にも及ぶ。この戦力差を覆すだけの兵器、『エイギア』を未だ中国が一機しか保有していないことがこの戦線瓦解の決め手だ。
20XX年。後に大三次世界大戦と呼ばれたソレはエイギアによって生み出された。最初は中国によるエイギアによっての尖閣諸島の強行支配であったが、そんな事は火種にすぎない。
エイギアの量産によって少なくなった大気中のマナを補うように物質をマナに変える技術が発明され、それによって領土の奪いあいが起こり始めたのだ。
各国は少ない大気中のマナ、あるいは地上物資をマナに変えるため侵略し、奪い合いが起きていた。それはアジアにとどまらず世界に飛び火している。
今は同盟である日本、イギリス、アメリカもいつ敵になるかわからぬ。そこまで世界は燃えていた。
時は戦乱。はるか未来、魔法のような技術が開発された世界規模の大戦乱である。