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三日以内

 アシュタロト軍の志気は高かった。


 まずはデカラビア城を取り囲んでいるザガムの軍隊を追い払うべく、デカラビア城に急行する。


 歩兵を主体とした軍隊であるが、規律正しく訓練してあるので、デカラビア城までは数日しか掛からなかった。


 かのナポレオンの言葉を引用する。

   

「かの戦争の天才、ナポレオンは強き軍隊とはよく歩く軍隊だと言った。どこまでも歩き、険しき道も走破し、敵の思いも寄らぬ場所に集結できる脚力、それが強さの秘訣」


 つまり、兵力の集中運用が大事であった。


「その点はジュチの率いる騎馬部隊が怖いが、かの部隊はデカラビア城を取り囲んではいないのだろう?」


 イヴに尋ねる。彼女はこくりとうなずく。


「今、デカラビア城を囲んでいるのはザガムの本隊です。鈍足の魔物を主体としているようです」


「ジュチはどこにいる?」


「デカラビア城は時間の問題とみたのでしょう。さらに南の魔王の領地を侵攻しています。破竹の勢いです」


「さすがは草原の英雄だな。燎原に火を放つ勢いだ」


 土方歳三が口を挟んでくる。


「だが、愚策ではないか、ザガムの本陣は手薄となる。各個撃破されるかもしれんぞ。まあ、こちらとしてはありがたいが」


「その危険はあるが、自信があるのだろう。ザガム本隊が襲われても駆けつける自信が」


「先ほどの歩く軍隊理論か」


「そうだな。この場合は走る軍隊か」


 自動車などがない世界においては馬ほど役に立つ生き物はいない。


 異世界でも自動車が完璧に普及するまでは、馬は八面六臂の活躍をし、馬の保有数=その国の強さ、という時代が長かった。


 どの国も周辺の騎馬民族の侵攻に怯えたものだ。

 今回、俺の国が脅かされるわけであるが、対策がないでもない。

 それを実行する。


「明日、俺たちはデカラビア城に到着する。そこで包囲をしている魔王ザガムを倒す」


「援軍は何日でやってくるでしょうか?」


「三日、というところかな」


「三日……」


「それまでにザガム本隊を倒せればよし、倒せなければジュチの騎馬軍団に挟撃される。さすれば俺たちの敗北だろう」


 さすがに敗北という言葉は幹部連中にしか聞こえないように言った。

 皆、一様に真剣な表情で息を飲む。


「というわけで、三日以内にけりを付けるぞ」


「魔王ザガム本隊は精強です。その数は300、こちらは500兵。兵数では勝りますが、援軍やらを加味するとこちらが不利かと」


「こういうときは敵の大将首を狙えばいい。大将を倒せば敵軍は引き下がる」


「決死の特攻をするという訳か」


 歳三がつぶやくが、訂正する。


「決死ではないよ。必死でもない。特攻はするが、特攻部隊の生還は約束する」


「ほお、気前がいいな」


「自分が行くからな、死にたくない」


 その言葉を聞いた歳三は驚愕する。


「大将みずから突撃するのか」


「ああ」


「ありえない。大将が負ければこのいくさ負ける」


「大将以外が全滅しても一緒だよ」


 大胆に言い切る。


「しかし、それにしても……」


 と歳三は諫めるが、それはイヴも一緒だった。

 彼女は深々と頭を下げ、俺に翻意(ほんい)をうながす。

 あのジャンヌさえ、「それは駄目なの!」と、その眉目をつり上げる。


 三者にそのように言われてももはや俺はやる気なのだが、さらに反対するものが現れる。


 俺の馬を引いていた従卒のゴブリン、彼が聞き慣れぬ声で話しかけてきた。



「魔王が特攻とは感心しないな。そういった暗殺めいたものは忍者がやるものだ」



 ゴブリン語でもないし、共通語も流暢であった。ゴブリン独特のしわがれた声もない。


 こいつはいつもの従卒ではない、と察した瞬間、彼は自分の皮を剥ぎ、こちらに振り向く。


「こういうのは暗殺の専門家に任せるのだな、魔王よ」


「風魔小太郎か。いつの間に戻っていた」


「忍者は必要なとき、必要なだけ側にいるものさ」


 と小太郎は言い切る。


「つまり今がそのときというわけか」


「ああ、そうだ。忍者の恐ろしさを世に知らしめる」


「……分かった」


 素直に暗殺の専門家に託すことにした。

 小太郎はそのまま部下を連れて飛び出そうとするが、その前に尋ねる。


「風魔の小太郎よ、俺が頼んでいた情報だが」


「ああ、その件か。ちゃんと仕入れてある」


「情報……ですか?」


 イヴが尋ねてくる。


「このいくさの勝敗を左右する情報だよ。俺は魔王ザガムの右腕を切られたときの情報が聞きたかった」


「そのような情報役に立つのですか?」


「立つさ。いや、立たせる。俺の想像通りならばな。さて、それでどうだった?」


 小太郎は答える。


「おぬしの言うとおりだったよ。ジュチは温和な男だそうだが、父親を馬鹿にした途端、豹変し、ザガムの腕を切り落としたらしい」


「やはりか、歴史書にあるとおりだな」


「どういう意味ですか?」


「異世界の言葉でファザコンということだよ。今回、俺はその劣等感を利用させてもらう」


 そう断言すると、俺は部隊をみっつに分けた。

 風魔小太郎のザガム暗殺部隊。

 デカラビア城を包囲するザガム本隊を引きつける部隊。

 これからやってくるであろうジュチの騎馬隊に対応する部隊。


 少ない兵を三分割するのは気が引けるが、これもやらなければならない作戦であった。 

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