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戦後は一杯の紅茶とともに

 一刻後――、


 魔力を空にするまで打ち放った俺は、撤退の指示をする。


 といっても用意したスケルトン兵はほぼ全滅、ウッド・ゴーレムも一体だけしか稼働していなかった。


 その残ったゴーレムも俺の代わりにバリスタの矢を受け、破壊された。


 物言わぬ魔法生物たちであるが、俺に最後まで忠誠を尽くしてくれたことはとても嬉しかった。


 彼らの忠誠心に報いるためには俺が無事、城から脱出せねばならない。


 略奪した素材を拠点に持ち帰り、より強大な城を築くのが彼らの手向けとなるはずであった。


 コボルト兵をなぎ倒しながら、サブナクの城をあとにした。

 幸いなことに追撃はなかった。


 散々暴れ回って相手に恐怖を植え付けたということもあるが、それ以上にあまりにも見事に奇襲が成功したため、城兵の混乱が収まらなかったということもある。


 それにこの城には主がいない。魔王サブナクは遠征中であった。

 勝手に城を出て追撃するわけにもいかなかったのだろう。

 その辺も計算には入れていたが、見事に計算が符合した。

 戦略家としても謀略家としても心地よいことである。

 

 こうしてサブナク城急襲作戦は成功。

 途中の森で控えていたイヴとオークたちと合流すると、自分の城に戻る。


 途中、城に残していた間諜――、スパイ・スライムの報告からサブナクが戻ってきたことを知るが、俺に一杯食わされたことを知った彼はどんな表情をしているだろうか。


 それが確認できないのは残念であるが、近く、彼は攻めてくるだろう。

 それに対する対処を行わなければならない。

 オークたちが略奪してきた素材を素材倉庫に集めさせる。


 そのとき、三体ほどオークが減っていることに気が付いた俺は、イヴに理由を尋ねる。


「その三匹は宝物と素材を横流ししようとしました。なので軍法により処刑しました」


 なるほど……、メイド軍師は綱紀に厳しいらしい。

 オークたちが震え上がっている。

 彼女に軍を一任すれば、さぞ規律正しい軍隊ができあがるかもしれなかった。

 そんな想像を巡らしていると、彼女が語りかけてくる。


「これだけの素材があれば、城も拡張できますし、軍団の強化もできますね」


「そうだな。どちらから着手すべきか……」


 顎に手を添え迷う。

 サブナクは明日にも攻めてくるかもしれない。


 そうなれば城の防御力を上げるのは必須である。まずは城壁から築くべきだろうか。


 相談する。


「良い考えかと。ただ、石積みの壁を築くには素材が足りません」


「やはりか。ならば堀にするか」


「ですね。工兵スケルトンを召喚し、掘らせましょう」


「そうしよう」


 さっそく、クラインの壺に骨とツルハシを入れ、工兵専門のスケルトンを召喚した。


 骸骨兵は無表情にツルハシとスコップを担ぎながら、アシュタロト城の周りを掘り始めた。


 手が空いているオークにも仕事を割り振る。


 オークは最初、面倒くさそうにしていたが、イヴがにこやかに命令すると、そそくさと作業に加わった。


 見事なしつけであった。


「見事だな」


 と褒めると、イヴは恐縮です、と頭を下げた。

 ただ、彼女も同じ発言をする。


「見事と言えば、御主人様の先ほどの采配も見事すぎます。もしかして御主人様の前世は名将かなにかなのでは?」


「さてね。それは覚えてないが、どこか小国の小貴族の次男坊だったような気がする。穀潰しをしながら異世界の研究をしていたことをうっすらと覚えている」


「実戦経験は皆無なのですか?」


「たぶんない」


「ならば御主人様は天才ですね。これが初陣と言うことになります。この先、どのような名将に成長されるか、想像もできません」


「それは持ち上げすぎだな。それよりも五分後の未来のほうが興味ある」


「どのような未来をお望みですか?」


「それは綺麗なメイドさんが俺のために旨い紅茶を入れてくれる未来だ。戦場から帰ってきてから君のいれた紅茶を飲んでいない。喉はもちろん、心まで渇いてしまいそうだ」


 その言葉を聞いたイヴは、珍しく恥ずかしげな表情を浮かべると、「ただいまいれてきます」と立ち去った。


彼女はちょうど5分後、とてもかぐわしいダージリンを入れてくれた。


 喉が渇いていると言ったのでぬるめの一杯を入れてくれた。俺はそれを一気に飲み干すと、文字通り一息ついた。

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