風魔の謀略
玉座の間に行くと、頼もしい部下たちが勢揃いしていた。
ドワーフの族長ゴッドリーブ、
新撰組副長、土方歳三、
コボルト忍者のハンゾウもいる。
いないのは先日、配下に加わってくれた風魔の小太郎くらいか?
そう思ったが、それは勘違いだったようだ。
俺が玉座に座ると同時に彼は現れる。
兵士に扮装していた彼は、己の面の皮を剥がす。そこから出てきたのは仮面をかぶった忍者だった。
初めてみたときと同じ姿格好だ。
これが彼のデフォルトなのだろうか?
尋ねてみるが、彼は不敵に笑い、「どうだろうな」と言った。
いわく、彼は常になにかに変身しているので、自分本来の姿形を忘れてしまったのだそうだ。
まるで怪人二十面相、アルセーヌ・ルパンといったところだが、はたしてその仮面の下にはどんな顔があるのだろうか、気になる。
気になるが、仮面をしているということは晒したくない理由があるのだろう。
ここで無理強いをしても王の器量を下げるだけ。
風魔小太郎にはどのような場所でも仮面をかぶる許可を与えた。
「さすがは有能な王だ。部下の個性を尊重してくれる。働きがいがある」
風魔小太郎は仮面の下で微笑んだようだが、それは幻想だろうか。
「働きがいならば与えられるが、小太郎は俺になにを与えられる?」
「もちろん、情報。今回は謀略の成否に関するもの」
「して成功したのだな?」
「ああ」
と風魔小太郎は軽くうなずくと、子細を説明する。
「おぬしのアイデアで偽金貨を満載した隊商は、デカラビア領をみっつのルートを通った。俺はそれをデカラビア領にある盗賊ギルド、物乞いギルド、商人ギルド、の三者に教えた」
「それぞれが別々の情報を、あるいは重複した情報を支配者に送ればデカラビアも怪しまない、ということか」
「さすがは魔王。その通りだ」
風魔小太郎は続ける。
「これは情報攪乱の基本だ。このようなこともあろうかと。それぞれのギルドの重要人物のホクロの数から愛人の数まで調べ上げた。内通者は一番、強欲そうなのを選んだよ」
「欲深い人間は信用されやすい。なぜならば行動原理が『金』だからだ。デカラビアも通報者の人格に敬意は持たないだろうが、彼らの強欲さ、耳ざとさには一目置く」
「その通り。デカラビアは見事、おぬしの手のひらの上で踊り、隊商に襲いかかった」
「偽装した商人たちに怪我はないか?」
「ない。デカラビアの軍隊がくれば一目散に逃げろと伝えてある」
「それはいいことだ。このような作戦で人死には出したくない」
イヴはすかさず「さすがは御主人様です」と入れてくるが、軽く手を上げ応じると、俺は引き続き風魔小太郎に尋ねる。
「偽金貨を奪ったのはいいが、それが偽物だと気が付いていないか?」
「いない。デカラビアは嬉々としながら武装や兵糧をかき集め、傭兵を募集している」
「ならば二週間以内にやつの軍は瓦解するな」
「おそらくは」
「このまま静観されますか?」
イヴが控えめに尋ねてくる。
俺は鷹揚にうなずく。
「このままやつが俺の手のひらの上で踊るのを鑑賞しようか。手のひらで踊るのが不細工な魔王というのが気に入らないが、美しい舞姫に踊らせるのは後日とする」
そう締めくくると、ときが経過するのを待った。
二週間後、さっそく効果が現れ始める。
一時金を受け取った傭兵団がもらった金が偽物であることに気が付いたのだ。
二週間経過した偽金は、質量を半分以下とし、鉄くず以下に成り下がった。
金にうるさい傭兵はすぐに抗議をした。
また傭兵が一時金で遊んだ娼館や飲み屋の経営者も抗議をしてきた。
デカラビアに武器を譲った商人も抗議する。
その輪はだんだんと広がり、デカラビアは希代の詐欺師である、という風聞が領内で大勢を占める。
その噂を聞きつけたデカラビアは憤怒した。俺に対してもであるが、自身を侮辱する傭兵や商人たちにも。
本来彼らはデカラビアの従属物、金など渡さなくても命令に従うのが筋。そんな誤った認識を持っていたのだろう。
魔王には珍しくないタイプだ。
デカラビアは都市の広場に集まり、抗議を繰り広げる住人を直属の部隊によって弾圧する。
これで住民たちは大人しくなり、平穏を取り戻すはずであったが、今回、住人に味方するものがいた。
それらは報酬を踏み倒された傭兵たちである。
彼らは金を踏み倒した上に住人に危害を加えるデカラビアを見限り、強襲した。
傭兵たちにも正義感があったのかもしれないし、
あるいはこのままでは自分たちも酷い目に遭わされるかもしれない
そう思ったのかもしれない。
ただ、ひとつ分かることは、傭兵たちの中に潜入し、扇動する人物のひとりは、我が軍の忍者だったということだ。
風魔の小太郎は傭兵に扮装すると、偽金を掴ませた上に、住人を騙し討ちにしたデカラビアの非を鳴らし、徹底抗戦した。
怒りに燃える傭兵たちに、住民の協力も加わり、魔王デカラビアの城下町は騒然となったが、そんな中でも冷静な人物はいる。
とある傭兵は尋ねた。
とある市民は疑問を抱いた。
「このまま戦えばたしかに一矢報いられるが、結局はデカラビアに掴まり、処刑されてしまうのではないか」
と――。
それはその通りだが、この謀略を考えた魔王は住民や傭兵を見捨てる王ではなかった。
傭兵に扮した風魔の小太郎は声高に言う。
「おい、おまえら、たしかに俺たちはこのままではデカラビアにやられてしまうだろう。やつは残忍な王だ。しかし、今、この都市を攻めようとしている魔王アシュタロトは違う。やつは冷酷無比、表裏比興のものなどと呼ばれているが、大変、懐の深い魔王だ。この際、彼に頼ろうではないか」
魔王アシュタロトの噂は住人や傭兵たちの耳にも入っていた。
その噂は良いものと悪いもの半々。
良いものは大変頭の回る王、たったの一ヶ月で魔王サブナクを倒した謀将。
悪いものはその逆で、頭が回りすぎる王。勝つためならなんでもする鬼謀の持ち主、というものだ。
中には、年端のいかない勇者を殺したことを知っている傭兵もいた。
「そのような王に頼って大丈夫だろうか、やぶ蛇にならないだろうか」
その声は小さくなかったが、風魔小太郎の一声で屈する。
「魔王アシュタロトは謀略の王だが、それでも偽金を配ったり、それを配った相手に逆ギレし、処刑をすることはないぞ。かの王の城下町は近年、大発展を遂げている。皆が厭なら勧めないが、俺ひとりでも彼に協力する」
その台詞が決め手になったわけだが、結局のところ、相対的評価であった。
直近の悪に対抗するため、海のものとも山のものとも分からない魔王に協力する。
住民や傭兵たちは納得したわけではなかった。
ただ、選択肢がなかっただけなのである。
それを熟知していた俺は、軍を早急に動かし、デカラビアの城下町に使者を送る。
住民たちの安全、財産はこの魔王アシュタロトが保証する、という安堵状を書いた。
演出の一環であるが、その書状は迷っていた反乱軍を大きく勇気づけ、反乱軍は喜んでデカラビア城の門扉を開けた。
こうして俺はいくさで一番面倒な城攻めをすることなく、デカラビア城に軍隊を進めることができた。




