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魔王エリゴス無双 †

 真っ黒な馬に乗ったエリゴスは、黒いオーラを放つ鎧をまとっている。

 全身からは殺気がみなぎり、一目で人間ではないと察することができた。


「姿形は人間そのものなのだがな」


 と感想を漏らす。

 ジャンヌも同意と言ってくれるが、それ以上話が膨らまなかった。


 ここにイヴがいれば歩くデータベースの彼女が色々と豆知識を教えてくれたのだろうが。残念ながらここに彼女はいない。 


 仕方ないので俺は知っている情報をジャンヌに話す。


「エリゴスは地獄の公爵と呼ばれる魔王だ。その姿どおり、白兵戦に強く、一騎打ちは魔王サブナクよりも強いらしい」


「魔王サブナクは土方も苦戦したと聞いた」


「俺もな」


「最終的には魔王が倒したと聞いた」


「最後はな。さて、今回もそう上手くいくかな?」


 と観察していると、勇気ある我が部下、スケルトンの一団がエリゴスを襲う。


 皆、シミターを構え、エリゴスの首を狙うが、エリゴスは槍の一払いでスケルトン30体を破壊していた。


 これはまずいな、と思った俺は、作戦を変える。


「下級の兵がエリゴスに当たってもこちらの数が減るだけ。歳三とジャンヌのみに当たらせる」


 それを聞いた歳三は、ひゅう、と口笛を吹く。


「さっそく死に場所を用意してくれたのか?」


「まさか、まだまだ死んでもらっては困る」


「だが、魔王クラスはさすがにふたりがかりでも無理かもしれないぞ」


「分かっている。あと、一刻、一刻だけでいい。あいつを引きつけてくれ。そうすれば勝つ」


「……お前さんが断言するってことはなにか策があるのだろう。あのメイドの嬢ちゃんと関係あるのかい?」


「ある。イヴならば必ずやってくれるはず」


「分かった。魔王とメイドを信じることにしよう」


 と言うと歳三は走り出した。

 行きがけの駄賃代わりに道中いた敵兵を切り捨てながら進む。

 歳三は「ジャンヌ、遅いぞ」と文句を言う。

 それに触発されたジャンヌは最後にちらりとこちらを見ていった。


「魔王。私たちはエリゴスと戦うけど、魔王も楽ではないの。アンデッドの軍勢はまだ数千は残ってる」


「たしかにな。どちらも楽な道じゃない」


「でも、魔王は必ず勝つ。私も絶対負けない。魔王、私たちを勝利に導いて」


「分かった。約束された勝利をお前たちにもたらそう」


 と、俺が言うと、彼女は最後に俺の頬、それも限りなく唇に近い場所に唇を添えた。


 思わず黙って受け入れてしまうが、すぐにここが戦場であることを思い出す。

 顔が熱くなる。


「……はしたないぞ」


 と、たしなめるとジャンヌは悪戯好きの少女のような表情を浮かべ、こう言った。


「私はフランス女。キスなど挨拶代わり。もしも生きて帰ってこれたら、フレンチキスをしてあげる」


 と、剣を抜き放ち、前線へ向かった。

 ジャンヌもまた道中、敵兵を切り裂く。

 彼女が通った道は、ゾンビの肉片とスケルトンの骨で埋め尽くされた。


 すぐにそれも埋まるが……。


 埋まった場所に部隊を差し向け、そいつらを倒すのが大将である俺の仕事。


 また魔法しか効かない幽霊系の魔物を、レイスやバンシーを倒すのも俺の仕事だった。


「やれやれ、これは超過勤務だな」


 指揮官と兵士、両方の役をこなさなければならない。


「ここにもし、諸葛孔明だの、司馬懿だの、信長だのがいれば、俺の苦労は大分緩和されるんだが……」


 しかし、いないものは仕方ない。自分でなんとかするしかなかった。


 俺は魔法を放ちながら、的確に指示をし、エリゴスのアンデッド軍団を着実に葬っていった。





 その姿を見て「ほう……」と感心したのは魔王エリゴスであった。

 彼は遠く、馬上から俺を観察すると、このような台詞を漏らしたようだ。


「あれが噂の魔王アシュタロトか。獅子王サブナクを倒したと聞いていたが、まぐれではなかったようだな」


 もっとも、と彼は続ける。


「魔王サブナクはFランクの魔王。多少、個人的武勇に優れるが、俺ほどの実力はない雑魚。鳥無き里の蝙蝠とはアシュタロトのことだな。くっくっく」


 魔王エリゴスが大言壮語を漏らすと、

「聞き捨てならねえな。うちの大将を愚弄するとは」

 と言う声が聞こえた。


 男のものだ。精悍な男で、異世界の軍服を着ていた。

 睨み付けたが、臆する様子はなかった。

 するともうひとつ、声が聞こえる。


「私の魔王を馬鹿にするやつは許さないの。その首をはねる!」


 涼やかで凜とした声だった。

 見れば聖女のように清らかな女が剣を抜いている。

 でこぼこコンビだな、そう思ったが、彼らもそれを認識しているようだ。


「コンビではない!」


 と同時に発すると、別々に斬り掛かってきた。

 コンビではない、というがその動きは協調性があり、連携が取れていた。


 歳三がエリゴスの剛の槍を受けると、ジャンヌが柔の動きで聖剣を突き立ててくる。


 無論、そのような一撃など食らわないが。

 なかなかに見所のある連中であった。名を聞きたくなる。


「お前たち、名は?」


「俺の名かい? これから死に行くあんたが知る必要はないが、まあ、冥土の土産に教えてやろう。俺の名は土方、新撰組副長、土方歳三」


 歳三は名乗りを上げる。

 ジャンヌも続く。


「私の名はジャンヌ。オルレアンの乙女ジャンヌ・ダルク。神に仕えしもの。邪悪な魔王をすべて討伐するために神から遣わされた。邪悪とはあなたのこと」


 ふたりは名乗りを上げるとそのままエリゴスに攻撃を加える。


 大言壮語を吐く魔王だけはあり、その動きは俊敏だが、捉えられない速さではない。


 剣客として名高い歳三は、冷徹に刀を加える。

 また神の使者であるジャンヌも魔王には容赦なかった。


 エリゴスは分厚い鎧を着てるゆえに、致命的なダメージは与えられないが、ふたりの攻撃は着実に当たる。


 このまま攻撃を加えれば、必殺の一撃を見舞える。


 問題なのはそれが歳三になるのか、ジャンヌになるのか、それだけの気がしたが、それは歳三となった。


 理由はいくつかある。


 ジャンヌの聖剣ヌーベル・ジュワユーズは両刃のブロード・ソードで比較的重いこと。


 それにやはり土方歳三は剣客、日本の多摩地方にある天然理心流試衛館という道場で喧嘩に明け暮れていた男のほうが剣士としては上のようだ。


 ジャンヌの渾身の聖剣の突きが避けられると、その後ろから陰のように土方の和泉守兼定が伸びてくる。


 それがエリゴスの腹を突き刺したわけだが、そこで驚愕の事態が起きる。

 腹を刺されたはずなのにエリゴスは悠然と剣を突き返してきたのだ。


 歳三は足で相手を蹴り上げ、エリゴスに刺した剣を抜くが、危うく一撃をもらうところであった。


 冷や汗をかきながら漏らす。


「……化け物か。しかし、今ので大ダメージを……」


 と言いかけた言葉が止まる。

 致命傷にならずとも深手になる一撃を負わせたはず。

 そう思ったが、それは一瞬だけだった。


 エリゴスの腹には穴が開き、そこから止めどなく黒い血が流れているが、すぐに血は止まり、腹に開いた穴が塞がる。


 腹がうごめくと、そこが修復されたのだ。


「なんという回復力だ。呆れてものがいえん」


 歳三は吐息を漏らすが、それ以上に落胆したのはジャンヌだった。


「……土方、今の一撃でやれなかったのは痛い」


「……こっちが追い詰められるってことか?」


「それもあるけど、魔王の本隊がやばい。みんな疲労が限界、そろそろ決壊する」


 ちらりと後ろを見ると、戦線が大分後退している。たしかにこのままだと陣形が決壊し、一挙に包囲されるだろう。そうなればおしまいだ。


 それにエリゴスに勝てないというのもたしかかもしれない。

 数度剣を交えただけで相手の力量は分かる。

 この魔王の回復力は剣ではどうにもならなかった。


(……こりゃあ、死ぬな)


 そう思ったが落胆はしなかった。


 むしろ落ち着いているというか、これほどの魔王に殺されるのならば、良い死に様だと思った。


 ――そう思った瞬間、遠方からアシトの声が聞こえる。



「土方。お前はこんなとこで死ぬ玉じゃないぞ。十万の矢玉を受けて死ぬのだろう。そんな三流の魔王に殺されて悔しくないのか」



「三流の魔王だと!」


 激怒するエリゴス。

 しかし、アシトは冷静に言う。


「俺には策があると言ったろ、そして一刻耐えろと。お前も俺も一刻耐えた。そしてメイド服を着た軍師が大手柄を立ててくれたよ」


 魔王アシトがそう言うと、魔王エリゴスの身体に変化が見られ始めた。

 先ほどまで彼をおおっていた禍々しいオーラがなくなっていたのである。

 絶体絶命だった戦局に変化の兆しが見えた。

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