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聖女とメイドと旅支度

 ジャンヌ・ダルクを名乗った少女。


 記憶を掘り返すと、その少女が異世界のヨーロッパと呼ばれる地方で活躍した聖女であると思いだす。


 彼女は若かりしころに神の啓示を聞き、そのまま剣と鎧をまとい、イギリスという国に侵略されていた祖国フランスを救った英雄だった。


 彼女は敵国に捕まり、火あぶりにされ、その命を散らしたはずであるが、どうやらこの世界に召喚されていたようだ。


 イヴに小声で尋ねる。


「――英雄は勝手に現れるのか?」


「そういう事例もあるそうですが、魂魄召喚した主が死んだとき、なんらかの事情で自由になった英雄が放浪することもあるそうです」


「彼女はどっちだ?」


「それは分かりかねます」


「そうか。でも、これは僥倖じゃないか。天佑だ。漂流物なしで英雄を配下にできるのだから」


「もしかしたら敵のスパイかも」


「それはあり得るな」


 しかし、このように清らかな少女がスパイになるなど信じられない。

 ジャンヌ・ダルクは神のため、民衆のために死んだ英雄だ。

 そんな少女がそのようなこすい真似をするだろうか。


 そうイヴに言うと、

「御主人様は女の子に優しいですからね」

 という回答をくれた。


 イヴからはこれ以上、回答をもらえそうになかったのでジャンヌに尋ねる。


「君は俺の配下になってくれるんだね?」


「はい、それが神の御意志ですから」


「忠節を尽くしてくれるか?」


「それが神の御意志なら」


「君はどうしてこの世界にいる?」


「神の御意志だからです」


「…………」


 この娘には他に語彙はないのだろうか。

 たしかに史実のジャンヌ・ダルクもこのような熱心な信徒だったらしいが。

 土方歳三を見る。

 死に場所を求める戦闘狂いに、神の言葉にしか耳を貸さない宗教狂い。

 俺の配下の英雄にはこの手のタイプしかいないのだろうか。


 まあ、こういった一癖も二癖もある将をまとめて戦わせるのが、王の器量なのかもしれないが。


「分かった。ジャンヌよ、お前が神の意志で俺に仕えてくれることは。そして神の意思があればお前は俺を斬ることも」


「…………」


 ジャンヌはこくりとうなずく。


「俺はこれからドワーフの里に行く。そこでドワーフの族長と対話をする。その護衛が必要なのだ。その護衛役を君に任せようと思う」


「正気ですか!?」


 とはイヴの言葉であるが、黙ってもらう。


「新入りのジャンヌを残して歳三を連れて行くという案もあるが」


「……そ、それは」


 それはさすがにできない、という顔をするイヴ。

 もしもジャンヌが敵のスパイならば即座に城を奪われるだろう。

 俺のコアは破壊され、ゲームオーバーだ。


「というわけだ。ジャンヌよ、俺に付いてきてくれるか?」


「もとよりそのつもり。神託があった。私はこれから魔王と共に旅をする。気の強いメイドも一緒」


 イヴの方をチラリとみるジャンヌ。イヴはなんとも言えない表情をしている。


「そこで私は多くの人を斬る。でも、それは神の意志。魔王はそこで大切な友人を得る。それも神の意志。ただ……」


「ただ?」


「魔王はそこで大切な友をなくす」


「それも神の意志か?」


 こくん、と、うなずく金髪の娘。


「友が誰かは分からないが、それでも神託に臆して動かないとあれば、魔王アシュタロトの名は臆病者の代名詞となろう。俺は行くぞ」


 その言葉を聞いてジャンヌは破顔する。


「さすがは神に選ばれた魔王」 

 と。


 神に選ばれた魔王とは変な言葉であるが、魔王と悪がイコールでなければ成立する言葉だろう。この上は悪にはなりたくないものだった。


 こうして新たな指揮官を得てドワーフの里への随行者に任命した。

 指揮官募集広告は功を奏したわけであるが、まだ、審査は始まったばかりだった。


 その後、この街の執政官として、厳正に審査を行うと、下級の指揮官を数名採用した。


 彼らにはのちに人間で組織する傭兵団の部隊長を務めてもらうつもりであった。


 俺たちがドワーフの里に行っている間、歳三に鍛えてもらう予定だが、さてはて、鬼の副長のしごきに耐えられるのは何人いるか。


 全員、無事、耐えてほしいが。

 そんなことを思いながら、ドワーフの里へ行く準備を始めた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 史実上のジャンヌダルクは実は結構な脳筋だったそうです
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