表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/202

ひかえおろう! なの

 街道脇に転がるワイバーンの死体。

 ワイバーンはまずいことを知っていたジャンヌは目もくれない。

 そのジャンヌが尋ねてくる。


「魔王、ワイバーンの内臓を採取しなくていいの?」


 素材にしなくていいのか、という意味だろう。それについて答える。


「ワイバーンの肝は貴重だが、これからイスマリアに行くからな。かさばる」


 たしかに、とジャンヌが納得すると、見計らったかのように農民が話しかけてくる。


「そこの魔術師様、このたびは我らを救ってくださりありがとうございました」


 人間の若者、この一団の代表と思われる人物が話しかけてきた。

 素っ気なく対応する理由もないので、返答する。


「たまたま出くわしたからお節介を焼いたまで。誰か怪我をしているものはいないか」


 村人たちは首を振る。


「それは良かった。ワイバーンに遭遇したのは不運であるが、不幸中の幸いだ。以後、このような不幸がないといいな」


 そう結び、この一件を落着させようかと思ったが、そういうわけにはいかなかった。


 村人たちの顔が沈んでいることに気がついたのだ。なにかあったと見るべきだろう。尋ねる。


「もしかして、なにか悩み事があるのか」


 その問いに若者はうなずく。


「実はですが、このような被害が相次いでいるのです。この辺にはワイバーンなど出現しなかったはずなのに、昨今、ワイバーンの被害があとを絶ちません。 それを見かねた我がダンケ村は自警団を組織したのですが、結果はこの有様でして……」


 若者の視線の先には腹をえぐられた馬の死体があった。


「自警団を組織しながらこの被害か。これは放っておけないな……」


「え、魔術師様、力を貸していただけるのですか?」


「民は放っておけない」


 と言うと不思議そうな顔する若者。そういえば俺が魔王であると説明していなかった。


 彼らに身分を打ち明けるべきか悩んでいると、ジャンヌが胸を反らしながら言う。


「そこの村人、頭が高いの。この魔王をどなたと心得る。この魔王はこのアシュタロト城の王様、魔王アシュタロトなの」


 それを聞いた村人たちは驚愕の表情を浮かべる。


 まさかこのような場所で自分たちの領主と出くわすとは思っていなかったのだろう。驚きというよりも驚愕している。


 人間の老人などは額を地面にこすりつけている。


 なんだか居たたまれなくなったので頭を上げるように頼むと、若者が代表して率直な言葉を話してくれた。


「アシュタロト様のような魔王を俺たちは知りません。俺が父や祖父から聞いていた魔王は、民から搾取することしか考えていません。特に俺たちのような人間の農民には厳しかった」


「それは過去の魔王の話だろう、俺の治世に人間も魔族もない。皆、平等に扱う。困っていたら助ける。それが俺の政治だ」


「すごい。前魔王のアザゼル様の時代では考えられない……」


 老人が過去を疎むかとのようにつぶやく。


「過去は過去だ。というわけで、俺はお前たちを助けるぞ。とりあえずワイバーンが出没する原因を調べ、その禍根を断つ」


 そう宣言すると村人たちはさらに恐縮したが、喜んではくれた。


「このように強い魔王様ならば、スカイドラゴンさえ倒せるかもしれない」


 そうささやき合っている。

 どうやらワイバーンが出現する理由は分かっているようだ


 ならば話は簡単だ、そうまとめると、若者に頼み、彼らの村に案内してもらうことにした。


 道中、一応、ジャンヌが口を挟んでくる。


「村人たちの願いを聞いていると、イスマリア伯爵領に行くのが遅れるの。いいの?」


「なあに、今さらイスマリア伯爵を数週間待たせてもなにも変わるまい。ならば一刻も早く自分の民を救いたい」


 その言葉を聞いたジャンヌは心底嬉しそうな表情を浮かべ、こう言った。


「さすがは魔王なの」

 ――と。


 その笑顔は聖女としか形容できないほど清らかで美しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ