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魔王サブナクと歳三の一騎打ち

「お、おのれー!」


 顔を真っ赤にさせ、牙をむき出しにするサブナク。

 渾身の作戦を逆手に取られたサブナクは、矜持を傷つけられたようだ。


「毎回、小賢しい手を使いおって」


「それしか手立てはないからな」


「しかし、俺の精鋭が落とし穴ごときでやられるとは思えぬ。時間を稼いだだけだったな」


 実際、サブナクのハイ・コボルトは健在のようで落ちた穴から這い上がってきた。


「そのようだな」


「馬鹿め。落とし穴の底に杭でも打ち込めばいいものを」


「その手があったか。まあ、今回はどのみち時間がなかったから無理だが」


「時間のなさを恨め、俺様の迅速さもな」


「迅速と拙速は紙一重だということを教えてやる」


 と指示を出す。


「歳三出番だ! 今こそコボルトどもを蹴散らせ!」


 俺の命令を聞いた土方歳三は、アシュタロト城の後背にある森から出てきた。


「な、なんだと!?」


 叫び声を上げたのは魔王サブナクだった。


「この期に及んで伏兵がいたのか!?」


「お前が裏を攻めてくるのは分かっていたからな。とっておきのを残していた」


「とっておきだと?」


「ああ、獣人の中でも上位種の人狼を中心に組織した部隊だ」


「な、じ、人狼だと?」


「お前の部隊にもいないような兵のようだな。ハイ・コボルトとて相手になるまい」


「そんなことはない。俺のハイ・コボルトは最強だ!」


 たしかにそうなのかもしれないが、やはり相手が悪いようだ。

 堀から這い上がろうとするコボルトどもを容赦なく倒していく人狼部隊。

 ハイ・コボルトたちはみるみる数を減らす。


「そ、そんな馬鹿な」


「馬鹿というほどでもあるまい。順当だ」


 数の上でも総合戦闘力でも勝るはずのサブナクの部隊が負ける理由はいくつもある。



 落とし穴に落とされ、混乱していること。

 さらに後背を突かれたこと。

 人狼部隊が強力なこと。


 

 そしてそれを率いる指揮官が優秀なこと。

 土方歳三。さすがは英雄と呼ばれるだけはある。

 彼は一癖も二癖もある人狼どもを見事に指揮し、コボルトを駆逐していた。

 その手際は見事で、あっという間にハイ・コボルトは倒れていく。



「うぬぬ、おのれー!」



 うなり声を上げるサブナク。この期に及んでようやく自分の不利を悟ったようだ。

 彼は戦略転換を迫られていた。

 それは予期された事態だ。

 今、魔王サブナクが取れる行動はふたつ。


 敗色を悟り、このまま兵を引き上げるか、もしくはこのまま力攻めを続け、俺を討ち取るか。


 二者択一である。

 もはや軍団同士の戦いではどうにもならないほど戦況はかんばしくなかった。

 そして俺はサブナクがどのような手段に出るか知っていた。

 というか二者択一を一択に狭めていたのだ。


 この期に及んで自分の城に引き返してもサブナクは面子を保てないだろう。

 俺に騙された上に、宝物庫も荒らされ、復讐戦にも負けたのだ。

 もはやサブナクに従う魔物はいない。

 下手をすれば部下に寝首をかかれるだろう。


 ただ、ここで俺の首を取れば話は変わってくる。

 サブナクの部下は一転、サブナクを賞賛し、王としての威厳を認めるだろう。

 つまりサブナクは俺の首を取るしか残されていないのだ。


 やつの目を見る。

 獅子王の目は殺人鬼のそれと変わらない、俺の首が欲しくて仕方ないようだ。

 今にも、というか、その瞬間、やつは襲いかかってきた。

 しかし、サブナクが知らなかったことはもうひとつある。


 アシュタロト城の裏に作られた落とし穴と伏兵の他にも彼は知らないことがあるのだ。


 それは今、彼が見ていた《遠視》もリアルタイムではないということだ。

 あれは5分前の映像だった。


 つまり、その5分間によってこの場所に、俺の最強の部下、伝説の剣豪がやってくる時間を稼げたということだ。


 その男は俺に斬り掛かろうとする獅子王の間に入ると、勇敢にも細身の剣でやつの大剣を受け止めた。



 ガキン!!



 鉄と鉄のぶつかり合う音が響く。


 魔力を帯びた大剣ととんでもない膂力を持った魔王の一撃であるが、土方歳三と呼ばれる男はそれを平然と受けた。


 不敵な笑顔を浮かべ、歳三は言う。


「うちの魔王様は俺に死に場所、戦場を用意してくれると言ったが、まさか初っぱなからこんなド派手な戦場を用意してくれるとはな」


「いったろ、俺の配下になれば退屈はさせない、と」


「ああ、お前さんが言ったように、いつか十万の矢玉を全身に受けられるかもしれない」


「その日がくることを願っているが、それは今日ではない」


「たしかに猫一匹に負けたとあっては、地獄にいる近藤さんに顔向けできねえな」


「お前も俺を猫扱いするか!」


 サブナクは怒りに燃えて、二撃目の大剣を振り下ろすが、剣士歳三はそれも難なくいなす。


 彼の剣士としての技量は、もしかしたら指揮官としてよりも頼りになるのかもしれない。


 そう思った。

 そして土方歳三という男はなによりも名誉を大切にする。


 ここで二人がかりをするよりも一騎打ちの名誉を彼に与えたほうがいい、そう思った俺は歳三にすべてを任せることにした。


 それを伝えると、歳三は、にまり、と会心の笑みを浮かべ、「さすがは話が分かるね。旦那は」と言った。


 こうしてかつて新撰組と呼ばれる人斬り集団にいた男、土方歳三と、

 獅子王の異名を持つ魔王サブナクとの一騎打ちが始まった。

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