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ほとんど書き始めの頃の作品で、他2作より出来が悪いのでご了承ください。舞台も何故か海外で、その他内容等も色々恥ずかしいものがあるので(笑)暖かい目で見ていただけると幸いです
リアンナはレストランの中で、自分がなぜ彼に振られてしまったのかについて考えていた。 いつもそうするように、手のひらで自分の頬を支えながら。
リアンナの斜め前で、3人家族が食事をしていた。 神経質そうな母親と、小太りのメガネをかけた父親と、子供だった。 その父親はリアンナの気を妙に散らせていた。 彼が家族ごっこを演じながら、リアンナの方を時々男の目で見ていたのを、彼女は気がついていたからだ。 とりわけリアンナは、その父親のわざとらしい父親振る舞いを見て不快になった。 その振る舞いの中で彼はリアンナを男の汚い女で見るのだ。 それも家族の前で。 そのせいもあってリアンナは自分がボーイフレンドに振られてしまったことについて考えることを諦めることにした。
コーヒーの残りを飲んでから彼女はレストランを出た。
レストランを出ると、リアンナは遊園地の敷地をしばらく歩いた。 乗り物に乗ってもよかったのだがあまり乗り気じゃなかった。 もっともその悲しさを忘れるためにこの場所に来たわけだが、 思っていたふうには楽しめなかった。 リアンナは遊園地に来たことを後悔した。 これじゃあ家で一人ワインを飲んでいる方がよっぽどマシじゃないかしら、と思った。 でもすぐに帰ることはできなかった。 心の傷が自分の無意識下に何かを求めさせているようだった。
やがて空は薄暗くなって行った。同じ人と何度か通り過ぎた。 特に同じカップルと何度か通り過ぎる度、リアンナはうんざりした気分になった。 自分らしくないその自分の行動も気に食わなかった。 帰ってワインを飲んで眠りにつきたかった。 歩き疲れたリアンナはベンチで休むことにした。
そこは広場の中央にある、樹木を円形に囲ったベンチだった。 疲労やら何やらの中で、リアンナはふと気がついた。 その気づきはあまりにも彼女の意識も外側からやってきたものだったので、彼女がそれに気づくまでには少し時間がかかった。
さっきの家族がいたのだ。とはいえ、そんなことはリアンナにとってどうでもいいはずだったので、彼女は他の事に意識を向けようとした。 でもどうしてか駄目だった。 なぜなのかは分からない。 でも、それなのにリアンナは家族に対して何かを思っていた。 妙だった。
それ故、リアンナはその家族に対するこだわりを自分で客観的に分析しようと試みた。 数秒で少なくとも彼女は一つの事実に気がついた。 それは自分が例の父親に何かをしたい衝動を持っているということだった。 その衝動の正体ははっきり分からなかったし、 リアンナ自身、そんな衝動に駆られる事はほとんど初めての事だった。 そのせいで彼女は自分自身に対して違和感を感じていた。 そしてそこには少しの恐怖も含まれていた。 つまり自分の知らない自分と、ついに対面してしまうような恐怖が。
リアンナながその後自分自身を遠くからずっと自分で眺めているような感覚に陥ることになったのには、そのような動機があったわけだ。 明らかにリアンナは自分で自分を眺めていた。 背中からは汗が出ていたが、気づいていなかった。 変な感じだった。リアンナは自分があの父親に何をするのかをただじっと眺めていた。 衝動を抑えようとはしなかった。 この衝動に関しては抑えられないという事に、なんとなく気がついていたからだ。
リアンナの体がベンチから立ち上がった。 もう彼女は何も考えていなかった。 これから自分は何かをしようとしている。 そしてそれは止められない。 後はそれを自分に見守るだけだった。
父親の前で立ち止まると、その眼鏡をかけた小太りの父親も、神経質そうな母親も、幼い女の子も、リアンナに注目した。 あの、すみません、とリアンナが尋ね、どうしたんですか、と父親が答える。 妙にオーバーな反応だった。 母親は必要以上に警戒しているようだった。 トイレの場所をお尋ねしたいんですが、とリアンナは言った。 父親の方は、ああ、あそこです、と指を指した。 母親は顔をしかめている。 どこにあるかはっきり、とリアンナは言った。 よければちょっとそこまででいいんで来てくれませんか ?え、わかると思うんですがね、と父親は言って、母親の方を見た。 母親は顔をしかめて、女の子がケラケラ笑う。 ちょっとすぐそこまで案内してくるよ、と父親は言う。 しかめられた顔が更に強くなる。 本当にすみません。父親は汗を拭きながら、いいんです、と言う。
しばらく二人は歩いた。
頃合を見計らってリアンナは立ち止まった。 白色のポロシャツを着た、頭の薄い父親は、例のオーバーな気に触る口調で、どうしたんです、と言った。 その時リアンナは自分が何を言うのかわかっていなかった。 あなたってすごくタイプなの、メールアドレス教えてくれないかしら?後悔はさせないから、いいことしたいでしょ。いや、それはちょっと困るんですがね、と父親は言って 黄色い歯をむき出しにして笑った。 そして手のひらで額の汗を拭き取った。 じゃあとりあえず教えるだけ、難しい話はその後にしましょうね。 彼はメールアドレスを教えた。 ありがとう、とリアンナは言って微笑んだ。 メールするから。
その後、父親が家族の元へ戻るのをリアンナはじっと見ていた。 リアンナは衝動の渦の中にいた。 だから彼女の理性は機能を失っていたし、彼女自身あれこれと細かいことを考えるということもしなかった。 父親が家族の元へ戻ったのを、リアンナはじっと睨んだ。 父親と母親が何か喋っているように見える。 でも距離が少し遠すぎるから、はっきりとはわからない。
リアンナは引き返し、家族のもとへ歩いて行った。 5 mほど手前で、父親がリアンナに気がつき、あたふたする。 母親が神妙な顔をした。 父親は汗を拭きながら、え、どうされました、と言って笑っていた。 リアンナは母親の方に言った。 さっき私と主人さんが何をしていたか知りたいでしょ? 父親が取り乱す。 母親は父親を睨んだ。 リアンナはさらに彼を追い込もうとした。 携帯を見れば分かるわ、そこのドスケベさんのね、メールアドレスを交換してくれってしつこいんだから。そして最後に大きな声で言った。 「このド変態」
父親は取り乱して、もう行こう、と母親の手を取った。 母親は 携帯を見せなさいよ、と言って、父親に問い詰めた。 女の子は泣き出した。 それを見てリアンナは満足し、ベンチを離れた。
リアンナは、ベンチを後にしながらようやく正気に戻っていった。 正気に戻るにつれて彼女は自分が怖くなっていった。 自分の行動に正当な意味をつけようと試みたけど、できなかった。 そんな彼女を置き去りにして、誰も彼もが楽しそうにしていた。 風が彼女の顔を吹き付けた。 彼女は自分自身の殻にこもるように 腕を前に組んだ。
リアンナにできる唯一のことは、先ほどの行動を思い返して、検討することだけだった。 まず衝動的に自分が父親の前まで歩いていたこと。それからあの父親を誘惑したこと。 その後で一泡吹かせてやったこと。自分が怒鳴ったこと。明らかにその行動は自分らしくなかった。 どうも納得できなかった。 確かにリアンナはあの父親に対してレストランで不快に感じていた。でもそれだけだった。 憎悪もなければ激しい怒りもなかったはずだった。 なぜあんなことをしたのか、リアンナにはよくわからなかった。 何よりも自分らしくなかった。 それにあの衝動……。
それからふと女の子の泣き顔思い返した。 まだ幼いから、泣いた事に特に意味はなかったのかもしれない。 それでもやはりリアンナは嫌な気分になった。 自分が悪者になった気分だった。 その気分のままリアンナは遠くなったあの家族の方を見た。 当然だが家族は修羅場と化していた。 父親は必死に説明しているように見え、母親は怒っているように見えた。 リアンナの方はちっとも楽しくなかった。 いったい自分に何の得があるのだろう、と思った。 でもいつまでも考えるこんでいるわけにはいかないので、リアンナは再び歩き始めた。 ボーイフレンドに捨てられたショックのせいなんだと合理化した。 そうすることで気持ちを切り替えたのだ。
ともかく罪悪感の余韻を感じながらも、淡々とした歩調で園内を歩いた。 途中何度か顔をしかめたり、無理に笑おうとした。 色んなアトラクションを眺めた。 ジェットコースターに乗る彼らは皆何かを叫んでいるようだった。 リアンナはまだ帰ろうとしていなかった。 彼女の無意識が未だに彼女に何かを求めさせていたのだ。 リアンナはそんな自分がひどく気に食わなかった。 ハンサムな若者が彼女に微笑みかけたが、自身のそんな心情のせいで、彼女にはその微笑みが意味を持たない標識のように見えていた。 数秒たった後でそれが微笑みなんだとわかった。 そしてそれは慰めとして、彼女の心に沁み込んだ。
気がつくとリアンナはボーイフレンドとの記憶を回想していた。 初めて知り合ったのはリアンナが22歳の時だった。
2年前だ。その時リアンナは職場近くのゲームセンターにほぼ毎日通っていた。 ギターヒーローというゲームになぜか熱中していたのだ。 もちろんギターヒーローに熱中しているオフィスレディなんて彼女くらいだった。 他はたいていあからさまなゲームオタクばっかりだったし、リアンナ自身、自分がギターヒーローに熱中していることをどこか滑稽に感じていた。でも辞めるということはできなかった。 そんな訳でリアンナはその日も仕事を終えるとゲームセンターへ足を運んだ。
いつもならゲームオタクがギターヒーローを先にプレイしているか、いないかの、どちらだったがその日は違っていた。 そこでプレイしていたのは見られない若者だった。 彼は明らかにゲームセンターの他の連中とは違っていた。 服の着こなしも綺麗だし、ヘアースタイルもスマートだし、何より爽やかだった。 その若者に対する第一印象は好意的なものだった。 もっとも、彼の方リアンナに対して好意的な印象を持っていた。 ゲームセンターという場所に似合わない二人が、その場所で出会ったわけだ、親密な感情がわかないわけがなかった。 彼のプレイが終わるとリアンナがプレイした。彼はそのプレイをじっと見ていた。




