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チート魔法使いの勉強日記  作者: 久城 松月
魔の森カルクエーラ
3/3

第2話

(どうやら、本当に別の世界に来てしまったみたいね…それも生まれ変わって…)


 シャルロットが目を覚ましてから1時間。自分の現状をようやく把握してきたらしく、ある程度落ち着いていられるようになった。それでも自分が今現在体験している超常現象に、未だ困惑の気持ちは残っている。


(なんで私は転生、したのだろう…?そもそも、転生したかもおかしい。夢かもしれないし。夢であったら早く目が覚めてほしい、とは思うけど、これからはなんか、この子の元の記憶からして、結構楽しみなんだよね…まぁ、そこらへんはいいとしてだ。

 落ち着いてきたことだし、ちょっと現状についてもう一回確認しよう。解析は私の得意分野だ。かかってこい!

 私のこちらでの名前はシャルロット・カルディア。レイラト王国のランティス伯爵の次女ね。魔法の才能がずば抜けているらしく、そのおかげでこの大陸ではおそらく魔法の最高学府らしい、フィメスト皇立魔法学院に通うことになっていて。そして、今はその学院に向かっている途中だと。外の風景がまだ見られるってことは、いわゆる『魔の森』にはまだ到達してないってことだね。魔の森を抜けるのに4日、そこからフィメストまで2日と。実質4日間の監禁生活ってわけね。

 『魔の森』…思い出す限り非常に危険な印象しかないわね。上級の魔物がウヨウヨいて、交易路を外れることは死と同値、って感じか。上級の魔物ってどれくらいだ?10人による討伐隊を組まなきゃ5匹程度の群れは倒せない、って上級なのに相当なハードモードなんですね…ていうか、その上のレベルの魔物は本当にヤバいわね、そういうのに遭ったら戦っている暇などなく、逃げるが勝ち!とするのが最善だなぁ)


 魔物の等級は、下級、中級、上級、超級、王級、魔神級の6段階に分かれる。魔物の段階を定めているのは、主に連合帝国の魔法師団が行っていて、それが世界基準となっていつの間にか広まっているとのことだ。

 超級以上の魔物が人の里に出現するのは50年に一度、またはそれ以上と、めったに一般人の目にかかるものではない。ましてや魔神級の魔物は、かつて600年ほど前、大洞窟の最奥部で垣間見て一瞬でその脅威を認識し、魔力の全てを尽くして転移術を発動させて逃げたという、古の英雄の伝説ぐらいしか残っていないため、存在すら完全には確認されていないのだ。

 それもそのはずである。通常、魔物は存在維持のために魔力を一定程度消費するのだが、一切魔力を補給しなくても、他の魔物や生物、植物を捕食することで消費量は相殺できるらしい。だが、超級以上の魔物は捕食をしても相殺ができず、常時莫大な魔力を消費するため、魔力量の枯渇を防ぐために大気中の魔力濃度の高い地域で、その魔力を自然吸収しなければ、いずれ衰弱して死に至ってしまうのである。

 普通、超級以上の魔物が人の里に出張って来た時は、超級同士の縄張り争いや人間のいう戦争に近いものから逃れたことがおおよその原因らしく、戦いの振動などの余波を感知して、国家が騎士団を緊急呼集し、余裕をもって討伐するのが常である。


(というか、魔力や魔法、魔物なんていう言葉を日常生活でよく耳にし、実際に自分も魔法を…多分使えるよね?まぁ、使える時点で、異世界であり、転生したのは確実だね。地球…ここも地球なのかな?うーん、とりあえず、前の世界?の体のままだったら魔法なんて使えるわけなかったもんね。いや、もしかしたら前の世界には魔力がなかっただけで…いや、よく分からないし、そこら辺を考えるのはまた暇になった時、学院の寮で寝る前とかかな、にしよう。

 それにしても、違う姿ってことは、もしかして、前世?の私、春沢薫はもう死んじゃったのかな…?でも死んだ記憶がないんだよねぇ…3巻片手に死んだように眠っちゃったから、神様?か何かに死亡判定を受けた?いや何その社会人みたいな神様、私だったら信仰心が一瞬で消え失せるわ。他にあるとしたら、殺されたり…?恨まれた節はないけど、て、まぁ意味のわからない電話で周りから恨みの視線を買ったのはノーカンでしょうが。

 後は、寝ている間に地震か何かが来て、知らないうちに死んだり…私めっちゃ鈍感だな、後世に言い伝えられそう。後は、実は死んでいなくて、意識だけの憑依…とか。それこそ元の世界の私どうなってるのよ。元のシャルロットの意識が入っていたり?それはそれで現代の魔法じみた科学時代に困惑してそうだね。ご愁傷様…)


 重度のオタクである旧:薫、現:シャルロットが今までの活動で培った想像力は、それはそれで他人とは一線を画すほどのものであって、困惑しているこの状況でも、冷静に妄想を広げている。


(でも、もし死んでしまったなら、お母さん、お父さんに申し訳ないな…大学受験に受かったばっかりで、ずっとお金やら、身の回りの世話とかをやってくれるばっかりで、親孝行も全然できなくて…もらってばっかりの人生だったな…あ、一週間後にライブもあったじゃん、行きたかったぁ…秋アニメのOPを歌うんだって言ってたから、頑張ってコスプレして行こう、て張り切ってたのに…てかもうラノベ読めないじゃん!アニメも見られない!うちの嫁と彼氏は!?あー、私の人生が…もう首吊ろうかな……ってもう死んでるか)


 突然頭を抱え出してジタバタしているシャルロットを見て、アデリーネはとても心配には思ったのだが、先ほどと一緒で、特に助けを求めない限り問題はないのだろう、と判断して何も言わず、ただ見守っていた。


(いや、死んだと決まったわけじゃないよ!とりあえず、これからの方針は、元の世界への戻り方を探す、かなぁ?まぁ、望みは薄いけどね。転生したんだし逆も然り、だと信じたい)

「お母様。私、絶対にやってみせるわ。信じて!」

「え…?あ、そ、そう、頑張って、応援してるわ。でも無理はしないようにね?」

「ええ!自分のできる範囲を、コツコツやっていけば、いつか努力は実る!」

「そ、そうね…なんのことかはわからないけど、頑張ってちょうだい…」


 つい先ほど放置しておくとアデリーネは決めたのに、今度は娘の方が何か言い出そうと立ち上がったかと思えば、突然斜め方向から飛んできたわけのわからぬ決意表明の証人とされたのである。さすがにその意図は読めず一瞬固まってしまったが、多分本人自身は大丈夫なつもりなのだろう。どう見ても悪巧みしているようには見えないので、とりあえず場に合わせてあげていた。

 ついでに、適当に言葉をかけながら、そういえば王都を発ってから随分と娘の言動が不穏だ、と気になったアデリーネであった。陰謀の方ではなく、馬鹿な方での不穏、という意味である。


 さすがにシャルロットの方も自分が決意表明をしてから、この場で明らかにおかしい発言をしたことに気づいた。ガシッと右の拳でガッツポーズを作ってから3秒間凍りついて、元に戻るとすぐに両手で顔を塞いでへなへなに座り込んだ。お母様相手にやらかした、と思い、羞恥心でまっすぐ座れずにいながら。


(......うん、ノリに身を任せて動くのは抑えよう。これ家訓にして毎日3回ぐらい復唱しなきゃ…

 とりあえず、夢か現かもわからない現状、成り行きに任せて行動したほうがいいかな?いや、だからさっきノリに身を任せるなって、決意したばっかりじゃん…出オチ系主人公になった覚えはないよ…まぁそれはどうでもよくて、現状に困惑するより、すべて受け入れて楽しむくらいの勢いでやっていくか。幸いにもこの世界の知識はあるし、郷に行っては郷に従え、というからね。この世界ではシャルロット・カルディアとして生きていこう。

 さて、次は『魔法』!いや〜こんな剣と魔法のファンタズィーな世界を体験するのはラノベ読者としては夢だったよ〜!剣があるかどうかは知らないけど。

 魔法というのは、『魔力を用いて、術者が想像した現象を、魔力の適切な変換を通して発現させる行為』か。要は魔力でイメージしたものを飛ばすってことね。で、普通はイメージを具体化した呪文を使うことで、ただイメージするより格段に魔力の変換がやりやすくなるので、普通は呪文を通して魔法を行使する、というところか。

 世が世なら学者が強力な右ストレートを放っていたわね。そもそも言葉にするだけで魔力が変換されやすくなるってどんな原理で成り立ってるんだろう。魔力が生き物のように言葉を認識している?つまりその場合は、頭の中で考えるだけでも魔力は反応してくれるのか…そうするといつも考えたことが外に出ていて、並の魔法使いならわかってしまうってこと?何そのディストピア、絶対ないでしょ。

 原理は後でフィメストで教えてくれるかもしれないな。最高学府という称号が冠されているあたり、戦争も何もないこの時期に促成栽培のやり方と結果だけを教えるスタイルじゃなくて、原理とか魔法史とかも解説してくれるよね。

 それにしても、フィメスト魔法学院は凄いわね。貴族が闊歩しているこの世界でまさかの平民と貴族が一緒に学べるなんて。もちろん身分差は意識されるけど。三国の「貴族に限定されずに魔法に才のある者を隈なく探し出し、等しく育て上げる」という方針はすごいよ。どう考えてもこんな貴族貴族してる世界には、言い方が悪いけど、相応しくない平等主義的考え方でしょ。日本的ですらある。て、もしかしてこの人たちも同郷?まぁそんなことはないか)


 フィメスト皇立魔法学院の他の皇立学院に比べて異色である理由は、平民も貴族と平等に教育を受けられる可能性があるということである。平民も、というよりは、皇立魔法学院は入学式の前日まで、入学希望者を身分に関係ない、一定程度の基準で選別して受け入れる特色枠の門戸が開いているという説明の方が適切であろう。もちろん普通の平民では落とされるが、魔力の多寡は潜性遺伝的と言われているので、平民の中でも稀に魔力を多く持つ者はいる。市井の魔法使いがそのような才能ある者をある程度訓練させていた場合、その人は十分特色枠に入ることができるのだ。

 さらに、学院側が判断した場合には、特色枠の中でも、特に実力の秀でた者は、特待生として、学費を免除されるのだ。実際、裕福な商人の子などを除いて、平民で特色枠である人は、9割が特待生である。


 その性質ゆえ、当然一部の貴族からは、平民を学院で貴族とともに学ばせることを身分差などの理由から感情的に反対していたが、彼ら自身も学院出身の平民の魔法使いを領軍や私軍に雇い入れていたりと、内政などの場面で利益となることがたくさんあった。そのため、あまり強く反対することができず、学院内で悪感情のこもった目を平民に向けるくらいに留めていた。学院側、国家側もその気持ちはよくわかるし、平民も身分差というのは嫌というほどわかっているので、責任問題に発展しない限り、基本は放置していた。


 アデリーネも実はあまり平民が学院に居座っていることを快く感じてはいない。有用性は認めるものの、分学化することもできるんじゃないかなどと、心の中ではいろいろ思っていた。だが、学院内ではここ50年目立った問題もないし、うまくいっているし、何より教える側の人材は希少故、足りることはないので、特に反対するわけでもなく娘を喜んで送り出すことにしたのだ。


(学院に行ったら、私はどれくらいの実力なんだろうね。特色枠の人たちには負けないと思うな…余裕があったら主席狙ってお父様を驚かせるぐらいはやってみよう。特にあちらで学院以外に用事はないからね。ガツガツにならずに楽しんで行かなきゃ)


 シャルロットは、しばらく自分の現状について確認するために既に30分ほど思考の海に沈んでいたが、ふと外を見ようと窓に目を向けると、すでに窓は閉められていていた。もう魔の森カルクエーラに入ったのだろう。そう思って、シャルロットは外で手綱を引いているであろう御者のゴーガンに板越しに聞こえる様に尋ねた。

「ゴーガンさん、もう魔の森に入ったんですか?入ったのであれば、今はどのくらいの時間でしょうか?」

「え...え?あ、ああ、そうですね。お嬢様の言う通り、既に魔の森に入っていますね。今は日も沈んで、西がほんのり明るいくらいです。退屈でしたら、これからの長旅に備えて、睡眠をとることをお勧めしますよ」


 ゴーガンは、一瞬驚きに身を固めながらも、すぐに取り直して、丁寧にシャルロットに答えた。

 別に突然馬車の中から声が聞こえてきたから驚いたわけではない。旅の状況とかを問うために声をかけてくることは珍しくもないし、アデリーネも先程から何度か尋ねてきている。

 なぜゴーガンは驚いたのか。元々ゴーガンはシャルロットの父ランティスに「あの子はかなりお転婆な気質があるから、気をつけてくれ」と結構重い口調で言われたのだ。出発の時も会話を流しながら聞いてたのである程度性格の算段はつけていたのに、ここでの御者の自分に対する敬語である。突然の豹変に鬼を見たかの様な驚愕を見せてしまった。とは言っても、なるべく表に出ない様に、平静を装っていたが。


 そして、板越しでそんなことはわからないシャルロットは、ゴーガンに丁寧に「ありがとうございます」と言ってしまった。追撃を受けたゴーガンは、驚愕を通り越して、(この娘、何を企んでいる......?)、と謙虚な言動が逆効果となり、不審に思うようになった。


 ゴーガンの隣では、夜の交代のためのもう一人の御者が、ゴーガンの目紛しく変わるぐちゃぐちゃとした感情を僅かに感じ取り、一人で不気味な気分になっていた。

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