My Dream
「で、今どんな感じなの?」
一ヶ月振りに顔を合わせた友人は、やはり一ヶ月という短い間だったからか、ほとんど変わっていないように見えた。
「どんな感じ……って言われてもなぁ」
俺の問いに、友人は小さな苦笑を浮かべる。
「そりゃ、大変だけどさ。でも、目指すものがあるから、何とかやれてる」
「そっか……」
「そういうお前はどうなんだよ?」
「え?」
友人は首をかしげる俺を見て、再び尋ねてきた。
夢は見つかったのか、と――。
***
部活を引退し、いよいよ進路に向けて考えださなければならなかった、高校三年生の夏のこと。
俺は、自分の進路に悩んでいた。
部活の仲間たちは、それぞれ、自分の夢や目標を持っていた。だから、俺のように、さほど悩んでいるようには見えなかった。
俺はというと、将来の夢はおろか、自分のやりたいことさえも見つけられていなかった。周りが進路の話をしているのを聞く度に、俺の中で焦りが増すばかりだった。
「お前はいいよな。夢があって」
その焦りに耐えられなくなったとき、俺は友人にそんな言葉を投げてしまった。
彼は不審そうに眉をひそめる。
「何でだよ?」
「何でって、そりゃあ、目指すものがあればそれに向かっていけるんだから。俺なんか、それがないから、どこに行っていいか分かんねぇんだもん。お前って、いつから夢持ってたの?」
「んー……いつだっけな……覚えてないけど、親戚が医者だから、俺も医者になりたい、って言い続けてたら、こうなった」
「そっか……」
屋上からの学校の景色を見ながら、俺はため息をついた。
周りは、どんなきっかけで目標を掴んだのだろう。
どうしたら、明確なものに出会えるのだろう。
「夢って、どうやったら見つけられんだろう」
留めていた心の声が、思わず出てしまった。
しばらくしてから、友人が口を開いた。
「何もさ、今、夢とか目標を見つける必要、ないんじゃないかな」
「え?」
「別に、高校在学中に夢を見つけろ、って誰かが言ったわけでもないだろ」
「そうだけど……」
じゃあ、どうすればいいんだよ。
そんな俺の気持ちを読み取ったかのように、友人はふっと笑った。
「お前さ、いくら進路決まってないって言っても、大雑把な進路くらいあるだろ。大学進学か、専門学校か、就職か。まぁ、お前の場合、大学が妥当だろうな」
「逆に、俺が決めてんのそこまでなんだけど」
「それで十分だよ。……そこで見つけられるだろ、夢」
「……え」
「大学で勉強していくうちに、自分の目標見つけていけばいいだろ」
はっとして、俺はまじまじと友人の顔を見つめた。
「大学って、夢を叶える場所だけじゃないと俺は思う。お前みたいに、まだやりたいことが見つかってない人に、それを与える場所でもあるんじゃないかな」
そうか。
そんな考えもあったのか。
「……ありがとな。なんとなく、掴めた気がする」
自分の道が、見えてきた。
そこから俺は、すぐに進路を決定した。私立大学の推薦を取り、無事に合格した。
受験を早々に終え、余裕ができていたある日、俺は久しぶりに部活に顔を出した。「出した」というか、自分が部活をやりに来たかっただけなのだが。
時間も時間で、部員達は既に帰っていた。しかし、後輩のマネージャーだけは、最後まで仕事をしていて、体育館に残っていた。
そこで、彼女に聞かれた。
「将来の夢とかあるんですか?」
「うーん、まだ分かんない。だから、大学でやりたいこと見つけたいなーって」
その問いに、俺は、自信を持って答えることができた。
***
「まだはっきりはしてないけど……楽しいと思えることは見つかったかな。それが夢になるかどうかは分からないけどね」
「ふーん……まぁ、頑張れよ」
「自分から聞いたくせに何だよその反応」
さも興味なさそうな態度を示した彼に、思わず呆れてしまった。
「別に興味ないわけじゃねーよ。そういや、そんなこともあったなー、って思っただけ。とりあえず、はっきりしてきたなら良かったじゃん」
「そうだな。……あ、そういえば、最近どうなのさ、小谷とは」
「お前には関係ない」
「ひどいなー……」
他愛のない話に、俺たちはしばらく花を咲かせていた。
『夢は見つかりましたか?』
友人と別れた帰り道で、あのときの彼女からたまたま来たメール。
俺は小さく笑った。