係決めから始まる非日常
「よーし。全員自己紹介も終わったな。次は… 係決めだな。学級委員だけは先に決めるから後は決まった学級委員の指示に従ってくれ。じゃあ、やりたいやつはいるか?」
ここで誰も手を挙げないのはもはやお約束である。
「まぁそんなこったろうと思ったよ… まぁそんなこともあろうかと、じゃーん。」
そう言って山村は何かを取り出す。大量の割り箸だ。
「この中に一つだけアタリがある。それをひいたやつが学級委員だな。副学級委員はそいつが決めればいいさ。」
その言葉に龍一はふと疑念を抱く。
「おい、ちょっと待てよ。それって後半に引くやつが不利じゃないか?くじの数はだんだん減っていくんだろ?」
「お前去年数学で何習ってきたんだよ… くじ引きってのは誰がどういう順番で引いても同じ確率で当たるんだよ。 あとで補修な、確率のとこ。」
「えぇーーー!なんでそうなるんだよ!」
「あーもう、お前うるさいから先にさっさと引いちまえ。それだったら文句ないだろ?」
「まぁそれなら… 」
龍一はそーっと山村の手から割り箸を1本引き抜く。何の変哲もない割り箸だった。
「ハズレだな。アタリは先を赤く塗ってある。」
ほっと息をつく龍一が座るのと同時に、次々に生徒達がくじを引きに行く。もうなんの心配もない龍一はその人だかりをぼーっと眺めていた。
すると突然、おぉー!というどよめきが聞こえてきた。
「お、決まったみたいだな。で、誰だったんだ?アタリを引いたのは。」
私です、と1人の女子が前に歩みでる。
「よし、じゃあ今年の2-2の学級委員は 柊 志乃 で決定だ。みんないいか?」
口々に肯定の意を唱える生徒達の中心に立つシノはえへへと照れ笑いをしている。一方龍一と京一郎は、また面倒なことになった と同じ思いで頭を抱えていた。
「柊、さっそくだが副学級委員を指名してくれないか?あとはその2人に任せるから。」
「そうですね… 京一郎くんは仕事できそうな人ですけど… ここはやっぱりお兄ちゃんかな。」
さっきまで自分は蚊帳の外にいると思っていた当の本人は え"っ と素っ頓狂な声を上げる。
「お、兄妹でクラス委員なんていいじゃないか。じゃあ柊… あぁこっちも柊だったな。龍一、頼めるな?」
「いやだ。そもそも俺がクラスまとめたりできると思ってんの?」
「そこは妹と協力して何とかすればいいんじゃないか?」
「こんなやつと協力?死んでもごめんだわ。」
「お兄ちゃん、お母さんに言いつけるよ?」
そう言うとシノはポケットからスマホを取り出す。もちろんこれはただのスマホではない。あの時ファミレスで神がホットラインとしてくれたものだ。龍一ももらってはいたのだが完全に記憶の外に締め出していた。
「おまっ… それはまずいだろ…」
「じゃあ一緒に委員やろ?」
ここまでくれば完全にシノのペースだ。しぶしぶ龍一は了承して、山村は2人をクラス委員にすると再びみんなの了解を得た。
「君たちすっかり兄妹だね。」
右隣の席から京一郎が話しかける。彼から見てもクラスの中にこの兄妹設定を嘘だと怪しんでる人間はいないようだ。まぁあれだけ仲の良さを見せつけたので、自己紹介で《仲がわるい》と説明したことに疑問を抱く者は何人かいたようだが。
「勇者の監視役、兄、クラス委員… どれも俺がこれまでの人生で経験したことない役ばっかでうれしいよ…」
そう語る龍一の目は死んでいた。対する京一郎はこれから起こるであろう波乱を予感して目を輝かせていた。
その後、特に滞ることなく係決めは淡々と進んでいった。一番不人気なまとめ役が決まれば各々やりたい係に立候補するだけなのだから当然だ。
「よーし。係も決まったことだしそろそろ体育館に移動するぞ。始業式中は絶対しゃべんなよ。」
その言葉を皮切りに生徒達はぞろぞろと体育館へと移動していく。施錠を任されたシノと龍一、それと京一郎だけが教室に残された。
「おいシノ、どういうつもりだ!俺クラス委員なんてやったことねぇしやれる気もしねぇよ!」
「いやーまさか自分がアタリ引いちゃうとか思わないじゃないですかー。事情を知らない人と一緒にやってボロ出すよりましだと思いません?」
「思いません!別にお前の素性がバレようが俺には関係ないしな。」
「実は龍一喜んでたり?」
「んなわけねーだろ!なんでこんなやつと一緒にだるいことやらされて喜ぶんだよ。どうせならもっとかわいい子とやりたかったわ。」
「すいませんねーかわいげがなくてー!別に私だってやりたくてやってるわけじゃないんですー!やらされてるんですー!」
間に立っている京一郎からすれば他に人がいるのに龍一を指名したシノも、それを引き受けた龍一もなんだかんだ言って仲が良いようにしか見えない。
「楽しそうだからいいじゃん。それにこれで龍一もそこそこの立場を得たんだし、信仰集めにも何か役立つかもよ。」
「「あっ…」」
「あっ… ってどういうことなのさ。まさか忘れてたわけじゃないよね?僕らの使命。」
そう言われて、龍一とシノは互いに顔を見合わせて目をしばたたかせた。