朝から始まる非日常
ジリリリリリリ
龍一が目覚まし時計の音で目を覚ます。いつもの時間、いつもの部屋、何一つ変わらないいつもの朝だ。たった一つ、部屋の反対側にある昨日まではなかった布団を除いて。
「やっぱ夢じゃなかったか… 」
その言葉に反応するかのように向かいの布団がもぞもぞと動き出す。そこから少女の顔がぴょこんと現れる。
「ん… あ、龍一くん、おはようございます。」
そう言うシノのパジャマはあられもないはだけようである。
「おい、シノ… その姿はまずくないか…?」
「んー… 別に私は何も思いませんから大丈夫ですよ。うちじゃ下着だけでしたし。」
大きく伸びをしながらシノはそう答える。
「まったく… 龍一くんはウブですね。ウガリ族では16でそういうことを経験する儀式があるんですよ。17にもなって女の子の下着見たくらいで興奮してるんじゃないですよ。」
「17はそういうお年頃なの!だいたいそんなちっぱいに誰が興奮するか!」
「君は何回私の胸のことをバカにすれば気が済むんですか!私だって女の子だから傷つくんですよ!?」
「怒っても怖くないぞ。ところで… その… 16で儀式ってことは… お前も経験したのか?」
「あぁ、いや。女は18でって決まってるんですよ。だから来年迎えるはずだったんですよ。来年までに帰れるかわかりませんけどね…」
2人が話していると真美子の呼びかけがリビングの方から聞こえてくる。
「起きなさーい。学校に遅れるわよー。」
2人がリビングに向かうと真美子は既に用意を済ませ仕事に向かうところだった。
「じゃあ母さん先にでるから。今日は帰るの遅くなりそうだから夕飯は2人で何か食べてね。」
そう言いながら真美子は慌ただしく出ていった。
朝食を終えた後2人は交代で部屋に入り着替えることにした。しかし、龍一はすぐに着替えられるが、シノはそうもいかない。すぐに龍一に助けを求めだした。
「龍一くん… 私こんなキツイの着れません…」
「俺は手伝わないぞ。」
「そんな事言わないで助けてくださいよぉ… 頭が入らないんですよぉ…」
「頭が…ってことは下は履いてるんだな?」
「下は逆にゆるゆるなんですよ。それもどうにかして欲しいです。」
「しょうがねぇな… 入るぞ。」
龍一が部屋に入ると、チャックが閉まっていないスカートを履いて、チャックが完全に閉まったブラウスを頭のところで引っ掛けている女子高生のなりそこねがいた。
「お前… そこの金属の金具を動かしてみろ…」
「何も見えないんで無理です。」
「はぁ…」
ため息をつきながらチャックを下ろしてやるとブラウスがストンと降りる。
「はぁ… やっとひと心地着きましたよ。」
「まだこれから1日が始まるんだけどな。ってかその制服… うちのじゃねぇか!まさか同じ学校なのかよ!」
「何言ってるんですか。龍一くんは私の監視役なんですよ?同じところに居なきゃ意味ないじゃないですか。」
シノはスカートのチャックを上げながらさも当然のことかのようにそう言った。
「まじかよ… 学校だけじゃなくてクラスまで一緒とかないだろうな…」
龍一はそう言ってすぐ、自分がフラグを立てたことに気づいてしまった。
4月の暖かな日差しの中、都立青島学園の校門には桜が満開に咲き誇っている。新入生だけでなく新2、3年生も続々と通ってくる。
その中でもひときわ目立つ3人組がいた。龍一とシノ、それに途中で合流した京一郎だ。シノは道中から見るものすべてに心を奪われあちらこちらに寄り道していて、それを必死に引き戻していた2人は新学期初日だというのに疲労を色濃く顔に浮かべている。
「これが私が通う学校なんですね!」
「もうお前黙ってろ…」
「と、とりあえずクラス分けでも見に行こうよ。今年もまた同じクラスだといいね。」
昇降口には人が溢れ返っている。みんな新学年のクラス分けを見に来ている。
「お、俺は2組だな。」
「あ、僕も2組だ。今年も一緒になれてよかったよ。」
「ねぇ、私の名前ないですよ?」
3人はウガリ=シノの名前を探すが、そんなに目立つ名前であるにも関わらず見つけることは出来ない。
「あ、龍一の妹になったんだから名字も 柊 に変わってるんじゃない?」
「なるほど。じゃあ 柊 を探せばいいんだな。えーっと… 嘘だろ…」
柊 志乃 という名前は見つかった。2組の欄に。