帰宅から始まる非日常
「俺一人っ子だから兄として何すればいいかわかんないからそこんとこよろしく。」
「私は弟も妹もいますから私が姉の方が…」
「却下。それに神が《シノを妹に》って言ったんだぞ?無視するわけにもいかないだろう。」
「いいですよあんなの放っといて。私がここに来たのもあの人が手順でも間違ったせいですよきっと。」
「あー… それについてはぼく心当たりがあるんだよねぇ… シノさん、君がこっちに来た時どういう風に移動してきたの?」
京一郎がバツの悪そうな顔で尋ねる。
「どういう風にと言われましても… 神が出した扉をくぐった時にはあの魔力昇降機に乗ってましたね。」
「その魔力昇降機っていうのは多分エレベーターのことだね。そして、乗り合わせた龍一と出会ったというわけだね?」
「そういうことですね。」
「これは僕の憶測だけど、君がこの世界に迷い込んだのは僕達のせいもあると思う。」
「おい、どういうことだよ。俺何もしてねぇんだけど。」
「いい?僕達はあの時何してたか覚えてる?そう、《異世界に行く》方法を試してたんだよ。
それが成功してたとしたら、女が乗り込んでくる5階では既に異世界と繋がっているはずだ。シノさんは5階で乗ってきたんでしょ?」
「あー… なんとなく読めてきたわ。」
「え?どういうことですか?私だけ置いていかないでくださいよ。」
「つまり、君が例の扉をくぐった瞬間と僕達が異世界に行く方法を成功させた瞬間が偶然にも一致したんだと思う。そして扉と扉がリンクして君はこの世界に来たんだ。」
「エレベーターが止まった時最初誰もいなかったのにいきなりこいつが現れたのはそういうことだったのか…」
ハァ…と龍一は大きなため息をつく。
「もうどうにかなる話じゃありませんしね… 理由がわかっただけでもよかったですよ…」
シノにいたっては魂がまるごと出ていったかのようである。
「とりあえず一旦帰ろうか。今日で春休みが終わって明日からは学校だからね。龍一、シノさんは学生にされたからいろいろ教えてあげるんだよ?見た感じ高校生くらいだしまぁどうにかなるんじゃない?」
「そういやシノ、お前何歳なんだよ?妹って事はお前の方が俺より年下なんだよな。」
「昨日誕生日だったんで17歳ですね。」
「タメかよ!中学生くらいかと思ってた。」
その言葉にシノは頬をふくらます。
「ちゅーがくせーが何のことかはわかりませんがとにかくバカにしてることだけはわかります!」
「ただいまー。」
ファミレスで京一郎と別れた2人は龍一の住むアパートに帰ってきた。シノにとっては初めての訪問だが。
「あら、2人そろって帰るなんて珍しいわね。いつもけんかばかりしてるのに。」
台所から龍一の母 真美子が顔を出す。
「いろいろあってな。」
「ふーん…?まぁいいわ。ご飯出来てるわよ。」
真美子を交えた3人の食事の様子はどこかぎこちない。
「2人とも今日は本当に変よ?いつもならぎゃあぎゃあ騒いでるってのに。」
「あ…いや、明日から学校だって考えるとだるいなーって思ってるだけだよ。」
「そうです…そうよ。友達できるかなーって。」
「友達もいいけど、宿題は終わったんでしょうね?初っ端から忘れ物なんて新しい先生の印象最悪よ?」
大丈夫大丈夫と2人は口を揃えてそう言った。
食事を終えた2人はリビングから龍一の部屋に場所を移した。
「いいか?この家にはリビング以外に今いる俺の部屋と母さんの部屋しかない。あとは風呂場と台所とトイレくらいだ。という事は俺達は同じ部屋で寝なければならない。他人から見たら兄妹でも本人同士は会って1時間の仲だ。深刻な問題だぞ、俺の貞操が。」
「最後何かおかしくないですか!?普通心配するの女の子の方ですよね!?私が龍一くんのこと襲うとでも思ってるんですか!?」
「神の現実改変のおかげで布団は2組ある。なるべく離して寝るから絶対にこっちの布団に入ってくるんじゃねぇぞ?」
「スルーした上にひどい塩対応ですね!もういいです!おやすみなさい!」
そう言ってシノは布団に潜り込む。気丈に振舞っていたがやはり精神的に疲れていたのだろう。すぐに寝息を立て始めた。
その様子を見て龍一はとあることを忘れていたことに気づく。
「やべぇ… 学校のこと話してねぇ、どうしよ。
………まぁいっか。」
そのまま龍一も布団に入り明日からのことを思いやりながら目を閉じた。
6話にして既に毎日更新が途切れてしまいました…