神降臨から始まる非日常
「シノっていうのか、名前。」
「はい。ちなみにウガリ族は私達の世界で最強の戦闘部族なんです。私の父はそれをまとめるすごい戦士だったんですよ。」
あまりの興奮に周囲の客がチラチラとこちらを見ている。それに気づいた龍一が口に指を当てて静かにしろとジェスチャーを送る。
「族長の娘ってすごい肩書きだね。自分のことを勇者っていうのと何か関係があるの?」
「いいえ、勇者はまた別な事情なのです。話すと長くなりますよ?」
「あぁ、別に構わないぞ。どうせうちに帰っても母さんはパートだしな。」
「えっと… 私が魔王討伐のためにこちらに来た事は話しましたよね?それが決まったのはだいたい1ヶ月前です。勇者は神様から直接任命され、その使命は時期や状況によってまちまちです。今回はこの世界を支配している魔王を倒し、人々を救うということだったんです。」
パフェをせっせと口に運びながらシノはそう語る。口にクリームがついているのは慣れないものを食べているせいだろう。
「でもな、この世界に魔王なんていないし、そもそも異世界転移なんてものも漫画やアニメの中でしかありえねぇんだよ。」
「まんがやあにめが何なのかは知りませんが、魔王はいるはずです。神様がそう言ったんですから。」
「さっきの話だと神様に言語能力をもらったみたいだね?そんなことまでしてくれるの?」
「神様は何でもできるらしいですよ。だからあの大きい胸だってきっと自分で調整してるんです。そうに決まってます。」
「なんでそんなに神様にかみつくんだよ… そんなことしたってお前のペチャパイはどうにもならねぇよ。」
「あーーー!また私の胸のこといじりましたね!もういいです!あなたのこと嫌いな人リスト第1位に加えてやります!ちなみに2位はあのバカっぽい神様です!」
その時、時計がカチリと音を立てて止まった。龍一だけは違和感を感じ取りあたりをじっと見回している。憤慨するシノとそれをなだめている京一郎は何も気づいていない。そして龍一はあることに気がつく。
店内があまりにも静かすぎることに
バンっと机を叩いて龍一が立ち上がる。冷や汗をびっしょりかき、顔色は真っ青だ。
「どうしたの?具合でも悪いのか?」
「気づいてないのかよ… みんな止まってやがる。自称勇者といい、異世界転移といい… 今度は時間でも止まったのかよ…」
その言葉で京一郎とシノはあたりをキョロキョロ見回す。
「本当だ… 誰1人動かなくなってる…」
超常現象を目の当たりにして完全に取り乱している2人に対し、シノはケロッとしている。
「あぁ、これ神様が私達に会いに来てるだけですよ。私は1度経験してますから間違いないと思います。」
すると厨房の方から気の抜けた声が聞こえてくる。
「なんで言っちゃうのよ〜〜! シノのバカぁ〜〜!」
ギョッとして龍一と京一郎がそちらを向くと、金髪でモデルばりのスタイルの女性が立っている。
「あんたが…神なのか?」
「そうよ。私が偉大なる創造主にしてあなた達の大いなる母であり…」
「さっきぶりですね、神様。」
せっかくの登場と決めゼリフを完全にシノに遮られた神は怒りを通り越してもはや涙目だ。
「シノは本当に冷たいのね… さっきから聞いてれば人のスタイルにいちゃもんばっかりつけて。そんなんだから成長しないのよ。主に胸が。」
「勇者から神殺しにジョブチェンジしましょうか。」
そう言いながらシノは腰の剣を引き抜いて構えてみせる。
「ちょ、ちょっと!そんな危なっかしい物振り回さないでよ!いくら私でもシノの剣術を神が作った剣で食らえばばまっぷたつになっちゃう!」
「そんなにすごいんですか?その剣。」
古美術に興味のある京一郎はそこに食いつく。
「すごいもなにも。多分切れないものなんてこの世にないわ。あ、神が作った盾とどっちが強いのかっていうツッコミはなしね。どっちも壊れるから。」
「剣術の方はどうなんだよ?そっちの世界じゃ最強の部族の出身なんだろ?」
「多分龍一は見てますよ?あなたが話しかけてくる前にドアの鍵切り落としましたもの。」
龍一の頭にエレベーターを降りてすぐの出来事がフラッシュバックしてくる。剣を振り上げただけに見えたのは目にも見えない速度で振り下ろしていたのだ。
「もう質問はいいかしら?私だって遊びに来たわけじゃないのよ。ちゃんとシノに伝えなきゃいけないことがあるのよ?」
「焦らさないで早く言ってください。」
「あなた来る世界間違えてるわよ?」
不定期更新と言いましたができる限り毎日更新したいと思います。