自己紹介から始まる非日常
エレベーターが降りていく。隣には自称勇者の少女も一緒だ。
「あなたは結局誰なんですか?そして私はどこに連れていかれるんですか?」
「俺は柊 龍一、高校2年だ。とりあえず俺の友達が外で待ってるからそれを拾って… ファミレスでも行くか。」
「ふぁみれす?」
「飯食うところだよ。お前本当に何も知らないのな。まぁその点も含めていろいろ聞かせてもらうぞ。」
「あぁ、ダイナーのことですか。私そんなことしてる余裕ないんですけどね。」
ようやく1階に着いた。外では京一郎がケータイをいじっている。いつものように英単語でも見ているのだろう。
「ただいま。」
「おかえり。遅かったね…ってその子は誰?」
再び勇者を名乗ろうとした少女を制し、龍一が説明する。
「こいつ5階で乗ってきたんだよ、あの都市伝説通りに。勇者だの魔王だの言ってたからいろいろ聞きたくて付いてきてもらった。」
隣の少女の誇らしげな表情にはまだあどけなさが残っている。都市伝説通りなら人間ではないが、見たところ危険な感じではない。服装は充分アブナイ人だが。
「5階でってことは… でも僕は現にここにいるわけだし… 龍一が異世界に紛れ込んだ訳じゃないしねぇ。あ、僕は真島 京一郎、よろしくね。」
不可解な状況を2人が考え込んでいると少女が口を開いた。
「私早くふぁみれすっていうところに行ってみたいです。あ、別にお腹が空いたって言ってる訳じゃないですよ。あくまで情報交換です。」
3人は歩いて10分ほどのファミレスに来た。考えても謎が深まるばかりなので、この少女に話させるのが手っ取り早いだろう。
「いらっしゃいませー。何名様でしょうか?」
店員に案内されて店の奥の席に座る。
「じゃあ早速だが… お前のことを教えてくれ。」
しかし少女の耳には何も入っていない様子だ。目の前のメニューを開いて目をキラキラ輝かせながら見つめている。
「私このぱふぇっていうの食べたいです!」
渋い顔の龍一とは違い、どこか楽しげな京一郎が代わりに注文してあげる。
「お前異世界から来たとか言う割に文字とか読めるのな。日本語も通じるし。」
「そこら辺に抜かりはないですよ。ちゃんと神様に頼んでオプションとしてつけてもらいました。他人と話もできなかったら不便ですしね!」
えっへんと話す少女だが、全く話は見えてこない。
「神様?オプション?全くわからないね。結局のところ、君はいつ、どこから、何のためにこっちの世界に来たの?」
「こっちに来たのは20分ほど前ですかね?イグノリアという世界から魔王討伐のために来ました。」
「うさんくささ全開だがこいつの頭のおかしさと常識の知らなさからしたらありえそうなんだよなぁ…」
「頭がおかしいとはなんですか!さっきも貧乳だのあれこれ言ってくれましたね!だいたい初対面の人に向かってそんなこと言うのは…」
怒った表情でまくしたてている。
「まぁまぁ落ち着いて。とりあえず異世界人っていうのは信用するよ。僕達も異世界に行くためにあんなことしてたんだしね。」
そこへさきほど頼んだパフェが運ばれてくる。少女はそれまでのムスッとした顔とは打って変わって満面の笑みを浮かべている。
「そういやお前の名前、まだ聞いてなかったな。何て言うんだ?」
もごもごと口を動かしながら話そうとしてむせ込んでいる。水を飲んで落ち着いた少女は名を名乗った。
「ウガリ族族長の娘、ウガリ=シノです。」