エレベーターから始まる非日常
「本当にお前んとこのマンションでいいのか?」
「この辺で10階建てって言ったらこのマンションくらいしかないしねー 。」
夕焼けに染まる校舎でどこにでもいそうな男子高校生が2人話している。 ひとりはそこそこのイケメン、もうひとりはメガネの頭が良さそうな男だ。
「うっし。じゃあ行くか!」
「そうだね。でも暗くなってからならもっと怖いんじゃないー?」
「別に怖がってるから急いでんじゃねーよ。7時からAKIが出る歌番組があるんだよ。」
「うちのマンションでやるんだしうちで見ていけばいいのに。」
「やだよ。おまえのねーちゃん怖いから。」
そろそろ薄暗くなろうかという頃、柊 龍一と真島 京一郎は住宅街にひときわ目立つ大きなマンション前まで来ていた。もう夕方だからか外に出ている人は見えない。もの寂しげな風景にどこか胸騒ぎを覚えるようだ。
「おぉー。全然人いねぇなぁ。何かのフラグかよ。」
「怖い話の定番だよねぇ。妙に人がいないの。」
「本当に異世界に行けるかもな!こんな退屈な日常とはおさらばだぜ!」
「危険だと思ったらちゃんと逃げるんだよ。明日から笑いのネタにしてあげるから。」
「おいやめろ。まぁ加藤達がやった時は別に何も起こらなかったらしいし危ないことは無いと思うが。」
「えっ!加藤くん達もやったの? そんなに有名なんだね、この都市伝説。」
そう言いながら京一郎はポケットから四つ折りの紙を取り出す。そこにはこう書かれていた。
準備する方法:10階以上あるエレベーター
1.まずエレベーターに乗ります。
(乗るときは絶対ひとりだけ)
2.次にエレベーターに乗ったまま、4階、2階、6階、2階、10階と移動する。 (この際、誰かが乗ってきたら成功できません)
3.10階についたら、降りずに5階を押す。
4.5階に着いたら若い女の人が乗ってくる。
(その人には話しかけないように)
5.乗ってきたら、1階を押す。
6.押したらエレベーターは1階に降りず、10階に上がっていきます。
(上がっている途中に、違う階をおすと失敗します。
ただしやめるなら最後のチャンスです)
7.9階を通り過ぎたら、ほぼ成功したといってもいいそうです。
「つまり、5階で乗ってきた女のおばけと一緒に異世界に行くわけだ。」
「むっつりの龍一にはちょうどいいんじゃない?」
「お前が行ってもいいんだぞ?」
「龍一が帰って来なかったらAKIのCD全部貰うね。」
そんな会話をしながら2人はエレベーターの前まで来て、ボタンを押した。
「じゃあやってくるわ。」
降りてきたエレベーターに乗り込みながら龍一はそう言った。
「いい?5階の女とは喋っちゃいけないんだよ?一応紙も持っていきなよ。」
「お前母ちゃんみたいだな。まあ紙は貰っとくわ。」
ドアが閉まるとエレベーターはそのまま上がっていく。2階を過ぎ、3、4…と。
「これと言って何も起こらねぇなぁ。やっぱ都市伝説は嘘ばっかだな。」
独り言をつぶやいていると、5階でエレベーターは止まった。《問題の》5階で。
(本当に5階で止まりやがった…!だけど誰もいないな… 京一郎のイタズラか?)
しかしその考えはすぐに改まった。女が乗り込んできたのだ。青いバンダナに黄色のマント、例えるならRPGのキャラクターのような服装の女だ。
(こいつ絶対この世の人間じゃねぇ…!どうする、止めるか!?でもここで引き返したらかっこ悪いだけだしな…)
「わた……… まお……… 殺………」
(やべぇ!こいつ殺すとか言ってやがる!やっぱ降りよう!)
そうこうしてる内にエレベーターのドアは閉まってしまった。
(まずい!早くボタンを押さないと!)
しかし女はボタンの前に陣取ってブツブツとつぶやいている。
(話かけちゃダメなんだよな… 触るのはセーフか?どちらにせよボタンを押さなきゃ俺はこのまま異世界送りだ。やるしかねぇ!)
だが、ガチャガチャとボタンを押しても反応する気配はない。
(なんでだ! なんで止まらねぇ…)
無常にもエレベーターは6、7、8…と過ぎていき
とうとう10階でそのドアをゆっくりと開いた。
初投稿です。 読んでいただけたら幸いです。