季刊【WITCHCR@FT】
むかしむかしあるところに貧しい木こりの夫婦がいました。夫婦にはヘンゼルという息子とグレーテルという娘がおりました。
ある年とうとう生活が立ち行かなくなり、木こり夫婦は食い扶持を減らすためにヘンゼルとグレーテルを森の奥へ捨ててしまうことにしました。
抵抗虚しく捨てられてしまった二人の兄妹は、森をさまよううちにお菓子でできた不思議な家を見つけます。
空腹のあまり家を食べ始めた二人は、家主である優しそうな老女に保護されて、手厚い歓迎をうけました。
しかしその老女は魔女だったので、二人は彼女を竈で焼き殺し、家を漁って金目の物をポケット一杯に詰め込んで、おうちへ帰りました。
お父さんは涙ながらにこう言いました。
「私はお前たちを捨てるなんて反対だったんだ。でもお前たちのお母さんがどうしてもというから仕方がなかった。幸いお母さんはもう死んだ。これからは三人で仲良く幸せに暮らそう」
悪い女たちをきれいさっぱりうまい具合に片付けた父と息子と娘は、奪ってきたお宝のお蔭で幸せに暮らしましたとさ。
季刊【WITCHCR@FT】冬の雪そり特集号 より抜粋
お菓子の魔女さんが、森で保護した未成年の兄妹により竈で焼き殺されるという衝撃の事件が起きました。
被疑者である少年Hと少女Gは、「お菓子の魔女さんが自分たちを食べようとした。だからこれは正当防衛だ」などと無罪を主張しています。
しかしながら兄妹はお菓子の魔女さん宅より多数の貴金属類を持ち出しており、また、監禁されていたという証言に曖昧な点も多いことから【WITCHCR@FT】編集部はこれを強盗殺人事件とみて、独自に捜査を開始しました。
◇◆◇◆◇
季刊【WITCHCR@FT】春の薬草摘み穴場号 より抜粋
昨年起きた未成年兄妹による「お菓子の魔女強盗殺人事件」ですが、捜査は依然として難航しています。
被害者のお菓子の魔女さんは当時人里離れた森の中にたった一人で住んでいたので目撃証言の確保が非常に困難となっており、そのため被疑者二名の証言のみ世間に受け入れられている状況です。
冤罪による風評被害について我々編集部は重く受け止めており、各国王族へ対応を申し入れることを決定しました。
*捜査のため「過去視」、「告解」、「再現」、「感応」等の魔法を使用できる魔女さんを募集しています。ご協力いただける方は【WITCHCR@FT】編集部までお申し出ください。
◇◆◇◆◇
季刊【WITCHCR@FT】夏の恋占い保存版 より抜粋
「お菓子の魔女強盗殺人事件」へのご協力お申し出、まことにありがとうございます。残念ながら未だ解決には至っていませんが、「動物との交感」の魔法をお持ちの方のお力で有力な証言を得られました。
犯行後帰宅中の被疑者たちに遭遇した証言者の鴨氏によりますと、「道に迷った」と言っていた両名は、なぜか迷うことなく自宅の方向へ向かっていったとのことです。その際少女Gが鴨氏へ話しかけ、自分たちを川むこうに渡すよう交渉したそうです。
この証言により、少女Gは我々と同様魔女であり、兄妹の「道に迷った」という主張が狂言であった可能性も出てきました。
現在、「魔女狩り」と称し一人住まいの魔女宅を襲って金品ばかりか命をも奪う事件が多発しています。
残念ながら、明らかな強盗殺人であっても有罪とはされず、加害者が英雄視される理不尽な世の中になってしまいました。皆様、くれぐれも自衛を心掛けてください。
◇◆◇◆◇
季刊【WITCHCR@FT】 秋こそ月光浴のススメ! より抜粋
私の敬愛する祖母でもあった「お菓子の魔女」に対する強盗殺人事件より、ほぼ一年が経ちました。
我々の抗議は聞き入れられず、世間での魔女に対する評価は地に落ちたまま魔女狩りも収まりそうにありません。
当雑誌を所持していたことで魔女と知られ、痛ましいことになった読者さんもいらっしゃいました。
よって、残念ですが【WITCHCR@FT】は、今号を持ちまして廃刊とします。
今後【WITCHCR@FT】編集部一同十三名は地下に潜り、新たに【+①】と名乗って活動を開始いたします。
心ある善き魔女の皆さま、今は不名誉に耐え忍び、生き延びて【WITCHCR@FT】の復活をお待ちください。私たちは例え何百年経とうとも戻ってまいります。
長らくのご愛読ありがとうございました。どうぞご無事で。
編集長 新お菓子の魔女 拝